えぴそーど4~断罪後覚醒?
主人公は、ややドアマットヒロインでした。
見た目ゴージャス美人だけど、中身は心優しく大人しい少女です。と、脳内補完後お読みください。
「降りろ!」
鋭い声と共に、乗っていた馬車から文字通りポイっと放り投げられ、地面に転がった痛みで私は覚醒した。
「すぐに死んだら後悔する暇もないだろうからと殿下からの最後の情けだ!残された時間でしっかり反省するんだな!!」
あざけるような言葉と共に、ずた袋が投げつけられるのを、反射で受け止める。
「……なんだったの?いったい……?」
質問を投げかける間もなく、というか、喋っている相手の顔を認識する間もなくあっという間に遠ざかっていく馬車を見送る。
「てか、ここどこよ?」
前面には見渡す限りの荒野に一本の轍が残っている。
そして、後方にはうっそうと茂った森。
「対比が激しいな。土地柄どうなってるの?」
既に米粒ほどに小さく見える馬車をぼんやりと見送っていると、ふいに頬を冷たい何かが伝った。
ポツリ、と地面に落ちた水滴を目で追う。
「……涙?」
ぽつりぽつりと頬を伝い地面を潤す水滴をなんとなく数える。
それが十を過ぎたころ、ふいにグワッと脳裏に記憶の渦が巻き起こった。
脳に一気に情報を叩きこまれた衝撃はすさまじく、思わず頭を抱えて地面に再び転がる羽目になる。
そうして、一瞬にも永遠にも感じた不思議な時間の後、私の脳内には二人分の記憶が蘇っていた。
私は「丹波まり」。
日本という国に産まれ、サバゲー趣味の父親にサバイバル知識+αを叩きこまれて育った以外は、普通の女子高校生だった。と、思う。
だけど、それとは別にもう一つ。
剣と魔法の世界に生きた「マリアーナ=ジュデム」という少女の記憶があった。
公爵家の令嬢として恥ずかしくない知識と礼儀を叩きこまれた大人しい少女。
「体は令嬢、中身は野生児、って感じ?」
グーパーと手を握って呟いてみる。
サバイバルの基本はまず体力!と豪語する脳筋親父のせいで、そこそこ鍛えられた私の手とは似ても似付かぬ華奢な手だった。
恐らく、ここはマリアーナの生きていた世界で、私は何らかの原因でその体を乗っ取ってしまったのだろう。
もしくは、絶体絶命のピンチに心が折れて、前世の記憶とやらがよみがえった結果かもしれない。
なににしろ、マリアーナの記憶はあるけれど、それに伴う感情はどうにも稀薄だ。
おかげで、結構ひどい目に合っているにもかかわらず、ぜんぜん応えていないのだが。
「なんだっけ?わずか三歳で聖なる力に目覚めたせいで第一王子の婚約者になって。過剰な詰め込み教育にも必死に耐えてきたのに、突如現れた異世界からの聖なる巫女とやらに立場を乗っ取られて。挙句、えん罪かけられて魔の森に追放処分、ねぇ」
一つ一つ指折り数えてみたが、なかなかだ。
貴族の令嬢が耐えられるキャパ、越えてるよね。
追放とは言ってるけど、実質死刑宣告だよね、これ。
「まあ、それで最後の生存本能で私を引っ張り出したなら、大当たりだよね」
投げつけられた殿下の情けとやらを開いてみれば、一リットルくらいの水が入った皮袋に、歯が立たなさそうなほどがちがちの干し肉。石と思うほどガッチガチのパンっぽいもの。最後に刃渡り15センチほどのナイフだった。
マリアーナならば絶望したであろう中身は、私にとっては生き抜くために十分のもので、思わずにんまりと笑ってしまう。
「マリアーナがいなくなったのか、どこかに隠れてるのかは分からないけど、とりあえずこの体は私が預かるね」
まりが死んだ記憶もないから、もしかしたら一時的な入れ替わりって線も捨てきれない事だし、とりあえず生き延びるために努力してみよう。
「お父さんに感謝する日が来るとは・・・・・・」
修行と称して週末は山に海にと連れ回された記憶に苦笑する。
幸か不幸か適性があったせいでいろいろ上達しちゃって、最後には海外にまで連れ出されてひどい目にあった事も数知れず、だったけど。
「まあ、侮られたままってのも性に合わないし。基本はやられたら倍返し、だよね」
記憶を思い出すきっかけになった頬を伝った涙は、マリアーナの気持ちだと思うから。
悔しさも悲しさも、私がしっかり受け止めてあげなくっちゃね。
「そのためには、まずは動けるようにしなくちゃ」
なにしろ、パーティ会場から拉致されるように連れ出されたから、胸元の開いた派手なドレスにハイヒールなんだよ。
綺麗だし、マリアーナにとても似合ってるけど、サバイバルには絶望的に合わない。
鼻歌交じりに森に入ると、藪に紛れてドレスを脱いでいく。
これでもかと重ねられたパニエも、ガッチガチに固められたコルセットも、動きにくいことこの上ないからね。
「おかげで大量の布と丈夫な紐をゲットできたことだし、なんなら、コルセットだって締め付けなければ頑丈な胸当てみたいなものだよね」
予想以上に切れ味の良かったナイフは、厚みのあるドレスの布もサクサク切れる。
これって、もしかして自害しろって事だったのかな?
まぁ、下手に足掻いて苦しむよりは、サクッと逝く方が幸せな場合もあるよね。
私はもちろん選ばないけどさ。
服をつぎはぎして、どうにかズボンっぽく仕上げて、むき出しだった胸元や首周りにはグルグル布を巻いて。
靴はかかとが邪魔だから叩き折って、長い髪は一つに三つ編みして頭にぐるっと巻き付けておく。
「こんなものかな?」
余った布や紐はもちろん捨てずにずた袋の中に放り込めば、動きやすい格好の出来上がりである。
ついでにしなる枝を見つけたので、削って簡単な弓と矢をつくっておく。
ナイフだけじゃ心もとないからね。
「とりあえず、荒野は遮蔽物が少なすぎるし、森の方で拠点づくりだね。水場も早い所見つけたいなぁ。動物も、できれば猪サイズまでで勘弁してほしいけど、どうかな?」
そのまま迷いない足取りで森の中に入っていったマリは、この世界が、前世で有名な乙女ゲームの世界だという事を知らない。
断罪されて森に捨てられ、無念の中で命を落としたマリアーナが悪魔と化し、その怨念が魔獣を生み出す。
溢れた魔獣は世界を脅かし、その危機に聖なる乙女と元婚約者たちが立ち向かうというのが、今後の流れだった。
ところがサバイバル能力がカンストしていたまりは、命を落とすどころか森の中で悠々自適に過ごしていた。
下手に浅い所をさ迷って見つかっても面倒だしとどんどん森の奥に進んだ挙句、ついには森を横断して隣国にまで入り込んでしまう。
その頃には、マリアーナの持っていた聖なる力を使いこなせるようになっていたため、辻ヒールで小金を稼ぎ、森では賄えない調味料や食料をゲット。森の拠点で、さらなる生活の質を向上させていた。
元居た国では、これまたテンプレだった聖なる巫女(笑)が、いつまでたっても現れない魔獣に業を煮やして森に突入してくるのだが、まりが森中に張り巡らした対人間用の罠に引っかかり悲鳴をあげる事となる。
もちろん、攻略済みで取り巻きと化したヒーローたちも一緒である。
落とし穴の沼にハマり泥だらけになったり、宙に逆さ吊りになったりしてもがいている一行を見て、まりが「ざまぁ」と高笑いする日は、そう遠い未来の話ではない。
そんなまりの陰で可哀想な少女のくすくす笑いが重なるのも、もう少し後の未来の話、なのだ。
お読みくださり、ありがとうございました。
なぜか斜め上を突っ走るヒロインが爆誕してしまいました。
ちなみにマリアーナの「聖なる力」はレベル3くらい。骨折は治せるけど、解放骨折は無理。
聖なる巫女(笑)はレベル8で千切れてもくっつけることができます。レベル10でカンストすると生やせます。
他にも結界や浄化など使えるようになるけど、こっちは訓練次第なので、実はマリアーナの方がレベルは上でした。
そこらへんも上手く活用して、まりは森でのスローライフを楽しんでいます。
と、いう活かされない設定がありました(笑




