表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第4章 癒えぬもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/55

第54話 予兆

黒い狼たちが、一斉に地を蹴った。


速い。


木々の間を縫うように。


いや――


森そのものが牙を剥いたようだった。


「チッ……!」


ロックが舌打ちする。


だが、その身体はすでに動いていた。


頭で考えるより先に。


“来る”。


そう分かっていた。


半歩。


身体をずらす。


次の瞬間。


鋭い牙が、さっきまでロックの首があった場所を噛み砕く。


「……相変わらず、気味悪ぃな」


苦く笑いながら、短剣を抜く。


踏み込み。


振り抜く。


だが――


浅い。


黒い靄を裂いただけで、手応えが薄い。


「……実体が薄い!」


ロックが叫ぶ。


セリナはすでに弓を引いていた。


風が集まる。


緑の魔力。


森の空気と共鳴するように。


「――穿て」


放たれた矢が、一直線に狼の額を貫く。


次の瞬間。


狼は霧のように崩れた。


「……精霊魔法なら通る!」


セリナが叫ぶ。


だが、数が多い。


五体。


いや――まだいる。


木々の奥。


赤い目が、いくつも揺れている。


ロックが顔をしかめる。


「冗談だろ……」


気持ち悪さが増していく。


頭の奥。


ざらざらと何かが擦れる感覚。


耳鳴り。


視界が、ほんの僅かに揺れる。


「……くそ、なんだよ……」


その時。


――下がれ。


声。


頭の奥。


今までより、はっきりと。


ロックの目が見開かれる。


「……ッ!」


反射的に飛ぶ。


同時に叫ぶ。


「セリナ! 左だ!!」


セリナは迷わない。


即座に跳ぶ。


次の瞬間。


さっきまで二人がいた場所を――


巨大な黒い爪が切り裂いた。


木が、真っ二つに裂ける。


「……今のは……」


セリナの目が細くなる。


ロックを見る。


だが、聞く暇はない。


木々の奥から現れたのは――


一回り大きい狼。


いや、狼ですらない。


黒い靄の塊が、獣の形を取っている。


赤い双眸。


他の個体よりも濃い。


ロックが苦く笑う。


「……親玉ってやつか」


その時。


セリナの視線が、ふとガルドの首元で止まった。


鎧の隙間。


そこに――黒い痣があった。


炎の形にも見える、細い紋様。


昨日、見間違いかと思ったもの。


だが今は、はっきりと見える。


それでも。


動いてはいない。


脈打ちもしない。


まるで、最初からそこに刻まれていた傷痕のように。


「……」


セリナの表情が、わずかに曇る。


ガルドは――気づいていない。


いや。


気づいていても、気にしていないのか。


無言のまま。


背にリゼを乗せたまま。


一歩、前へ出る。


ロックが息を呑む。


「おい、ダンナ……」


黒い狼たちが、一斉に反応する。


標的が変わる。


全ての赤い目が――


ガルドへ向く。


セリナが気づく。


「……違う」


小さく。


「狙ってるんじゃない」


その目。


本能的な警戒。


恐れている。


黒剣を。


ガルドが、静かに柄へ手をかける。


ほんの一瞬。


その指先が止まる。


背中。


リゼの呼吸が、わずかに乱れた。


首元が、微かに光る。


黒剣を抜けば。


また、侵食が進むかもしれない。


だが、抜かなければ――


守れない。


ロックが歯を食いしばる。


「……くそ」


その時。


セリナが前へ出た。


「ガルド」


短く。


強い声。


ガルドの視線が、僅かに動く。


セリナは真っ直ぐ見返す。


「……私たちが時間を作る」


弓を構える。


緑の魔力が集まる。


森が、応える。


ロックも短剣を逆手に構える。


頭は痛い。


気持ち悪い。


それでも。


口元だけ、笑った。


「……そういうの、嫌いじゃねえ」


黒い狼たちが、唸る。


森が、揺れる。


そして。


その奥。


誰もいないはずの木々の間で――


“何か”が、こちらを見ていた。


まるで。


試すように。


選ぶように。


その気配に。


セリナだけが、僅かに目を細めた。


「……精霊?」


次の瞬間。


黒い狼たちが、再び襲いかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ