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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第3章 観測領域

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第38話 残響と進路

静寂が落ちる。


地下の空間。


崩れた魔法陣の光は、すでに消えかけていた。


さっきまでの出来事が、嘘のように。


だが――


空気だけが違う。


ロックが、ゆっくりと息を吐く。


「……なんだよ、今の」


軽く言っているようで、その声は固い。


視線は、ガルドの手にある黒剣へ。


セリナも同じだった。


「……過去」


短く呟く。


「見せられた」


その言葉に、ロックが眉をひそめる。


「“見せられた”ってことは……」


「あの剣の意思よ」


即答だった。


迷いはない。


だが、それは確信ではなく――推測に近い。


それでも、そう言わざるを得ない。


ロックが肩をすくめる。


「意思、ね……」


軽く笑う。


だが目は笑っていない。


「どんどんやばい方向に行ってねえか、それ」


セリナは答えない。


ただ、ガルドを見る。


ガルドは無言。


黒剣を握ったまま、動かない。


その姿は、いつもと同じ。


だが――


「……さっき」


セリナが言う。


「少しだけ、違った」


ロックが振り向く。


「は?」


「……揺れてた」


ガルドを見る。


「ほんの少しだけど」


ロックも思い返す。


確かに。


声をかけた時。


わずかに、反応があった。


「……マジかよ」


ガルドは何も言わない。


だが。


その沈黙が、完全な無ではないことだけは――二人とも分かっている。


セリナが続ける。


「感情」


短く。


「……あの剣は、それに反応してる」


ロックが苦い顔をする。


「ってことは」


「荒れたら、やばいってことか」


セリナは小さく頷く。


「たぶん」


その時だった。


ガルドの手。


黒剣が、わずかに軋む。


ギ、と。


音とも感覚ともつかない“違和感”。


ロックが一歩下がる。


「……おい」


セリナの目も鋭くなる。


ガルドは、剣を見る。


ほんの一瞬。


黒い刃に、何かが“滲む”。


それは――


記憶か。


残響か。


あるいは。


感情。


すぐに消える。


何もなかったかのように。


沈黙。


ロックが息を吐く。


「……今の、絶対気のせいじゃねえよな」


セリナも同意する。


「ええ」


短く。


「進んでる」


その一言で、十分だった。


何が、とは言わない。


だが二人とも理解する。


――侵食。


ロックが頭を掻く。


「はぁ……」


少しだけ、いつもの調子に戻る。


「で?」


「どうすんだ」


問いはシンプルだ。


セリナは、迷わない。


「決まってる」


顔を上げる。


その目は強い。


「リゼを追う」


ロックが苦笑する。


「だよな」


視線を、通路の奥へ向ける。


だが。


「……でもよ」


少しだけ、真面目な声になる。


「さっきの感じだと、普通に追っても辿り着けねえぞ」


セリナも分かっている。


魔力の流れ。


残滓。


それらは、途中で断ち切られている。


誘導。


あるいは遮断。


「……ええ」


短く肯定する。


「追うだけじゃ、無理」


沈黙。


ロックがガルドを見る。


「で、ダンナは?」


ガルドは答えない。


ただ――


ゆっくりと、顔を上げる。


視線が向く。


壁へ。


何もない石壁。


だが。


ガルドの目は、そこを“見ている”。


ロックが眉をひそめる。


「……またそれか」


セリナも気づく。


「……見えてるの?」


問いかけるが、答えはない。


ガルドは一歩、踏み出す。


迷いなく。


壁へ向かって。


ロックがため息をつく。


「はいはい」


肩を回す。


「もう慣れたわ」


セリナも続く。


止めない。


止める理由がない。


ガルドが立ち止まる。


壁の前。


黒剣を、わずかに持ち上げる。


だが――振るわない。


代わりに。


手を伸ばす。


触れる。


その瞬間。


石壁が、揺らぐ。


音もなく。


まるで最初からそこに“なかった”かのように。


空間が開く。


ロックが吹き出す。


「……いやもう、なんでもありだな」


セリナは、目を細める。


その先を見つめる。


「……繋がってる」


小さく呟く。


ただの通路ではない。


もっと深い。


意図的な“導線”。


ガルドは振り返らない。


そのまま、奥へ進む。


ロックが笑う。


「先行くタイプのリーダーかよ」


軽口を叩きながら、続く。


セリナも最後に一度だけ振り返る。


崩れた空間。


消えた魔法陣。


そして――


何も残っていない場所。


「……待ってて」


小さく。


誰にも聞こえない声で。


そして、前を向く。


三人は進む。


黒剣の残響を背負いながら。


リゼへと続く道へ。

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