第10話 街の裏側
夜の帳が降り始めた頃。
三人は、街の外れへと足を向けていた。
石畳は次第に荒れ、灯りもまばらになる。
人通りも減り、代わりに——視線だけが増える。
ロックが肩をすくめた。
「……いい雰囲気じゃねぇな」
セリナは周囲を見渡す。
「情報屋って、こういう場所に多いのね」
ロックは軽く笑った。
「表で話せることなんて、大した価値ねぇからな」
少し先。
古びた酒場のような建物が見えてくる。
看板は擦り切れ、店名も読めない。
だがロックは迷わず扉を押した。
ギィ、と軋む音。
中は薄暗く、酒と煙の匂いが充満している。
数人の客がいたが——全員が一瞬だけ、こちらを見る。
そして、興味を失ったように視線を戻した。
ロックはそのまま奥へ進む。
カウンターの端。
一人の男が座っていた。
痩せた体。
細い指でグラスを回している。
ロックが声をかける。
「……久しぶりだな」
男は視線だけを向けた。
「誰だ?」
ロックは笑う。
「ひでぇな。顔くらい覚えとけよ」
男は少しだけ目を細める。
「……ああ、逃げ足の速いガキか」
「今はちゃんと仕事してるっての」
軽口を交わしながら、ロックはカウンターに肘をつく。
「ちょっと聞きたいことがある」
男は無言。
グラスを置く。
「内容次第だ」
ロックはちらりと後ろを見る。
セリナと——ガルド。
特にガルドを一瞬だけ見て、男の目がわずかに変わった。
「……面白いの連れてるな」
ロックは笑う。
「だろ?」
そして本題に入る。
「結社だ」
空気が、わずかに変わる。
周囲の客の動きが止まる。
男はため息をついた。
「でかい話だな」
「だから来た」
ロックは短く返す。
セリナが一歩前に出る。
「最近、この街や近隣で動きは?」
男は少し考え——指でカウンターを叩いた。
「ある」
その一言。
空気が締まる。
「港町だ」
セリナが地図を思い出す。
「……やっぱり」
男は続ける。
「人の出入りが増えてる。だが記録に残らない連中ばかりだ」
ロックが眉をひそめる。
「裏の連中か?」
「それだけじゃない」
男の声が低くなる。
「消えてる」
「……は?」
「人が、だ」
セリナの表情が硬くなる。
「さらわれてる?」
男は首を横に振る。
「痕跡がない。だが数だけが減っていく」
沈黙。
重い空気。
ロックがぽつりと言う。
「……気味悪ぃな」
その時だった。
ガルドが、短く言った。
「……監視」
男の目がわずかに細くなる。
「気づくか」
ロックが振り返る。
「は?」
セリナも周囲を見る。
だが——気配はない。
男が小さく笑った。
「この辺り、全部耳があると思え」
ロックが舌打ちする。
「やっぱり面倒な話だな」
男は最後に言った。
「行くなら覚悟しろ」
「そこは——」
一瞬、間を置く。
「帰ってくる場所じゃない」
沈黙が落ちる。
ロックは息を吐いた。
そして、いつもの調子で笑う。
「上等だ」
立ち上がる。
セリナも頷く。
「準備は整えてからね」
二人が視線を向ける。
ガルドは——ただ一言。
「……行く」
それだけだった。
だが、それで十分だった。
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店を出る。
夜はさらに深くなっている。
ロックが空を見上げる。
「港町か……」
少しだけ、真面目な声。
「面白くなってきたな」
セリナは静かに言う。
「……危険よ」
ロックは笑う。
「今さらだろ」
そして、ガルドを見る。
「なあ、ダンナ」
軽く肩を回す。
「次もついてくぜ」
ガルドは答えない。
だが——否定もしない。
それで十分だった。
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三人は歩き出す。
闇の中へ。
次の戦いへ。
そして——
まだ見ぬ“何か”の中心へと。
第一章の終わりは、静かに。
だが確実に、次へと繋がっていた。




