無題
「ほら、キッス。キッス」バカ騒ぎをしているのは大きな商談を纏めたと言っていた常連の部長だとか言っていた渋谷さんが連れてきた部下15人のうちの5名。
2時間の貸切で最初から飲んで出来上がっていたので、ここは2次会か何かだろうが。
いただけない
困惑している女性を囲うようにして座っているのもアレだなと最初から思っていたので、夫であるマスターに目配せして警戒したり渋谷さんにちょいちょい指示を出して注意喚起していたが、私の店でハラスメントはちょっと
そう思って視界の端に夫が動こうとしているのを映しながらスルッと騒いでいる連中のところへいきキスされ待ちの男の手をつかみテーブルの上にあったおしぼりできちんと消毒した後
手の甲にチュッと可愛らしいリップ音と共に触るか触らないかの軽いキスをしてからやや下から見上げるようにして微笑みかける
驚いて動きを留めている間にキスをせがまれていた女性の手を引き寄せ有無も言わさない圧を周りに放ちつつ程よく部下の話を聞いている渋谷さんのもとに
「渋谷さん。あの子たちオイタが過ぎるんだけど?」ちょっと困るわ〜という声色とともに連れてきた女性を自分の隣に座らせる。
「気になるこにちょっかいをかけるとか。幼児かしら?もっとうまいアプローチの仕方を伝授してあげて」ふふふと笑いながら女の子にウーロン茶を出してあげる
「それに貴方がたも」ちらりと渋谷さんに相談をと言って注意を引いていた女性陣に
「気がない男に言い寄られるとか気持ち悪いわよね?それがたとえ顔が良くても。ねぇ〜自分たちが好きな人に振り向いてもらえないのは悲しいけど。それで嫉妬して虐める?ハブる?のは違うわよね」軽く諌めるように言えば決まりが悪そうに視線をそらす娘達
マスターがオイタをしたこどもち達に圧をかけて黙らせている
流石、元アンダーグランドの住人
「場も白けたし。時間より30分早いけど。お開きにしません?」渋谷さんに言えば
「ごめんねママ」そう言ってお開きの声をかけて支払いを済ませてくれる。マスターが気を使って数台のタクシーを呼んでくれたので、酔っ払いのオイタをした子達はそのまま駅へ
ハラスメントをされた子は渋谷さんが渋沢を持たせて直帰させた
後の子どもたちも数人に分かれてタクシーに乗り込み各自最寄り駅へ
お見送りして店に戻ればマスターがムスッとしている。先ほどの事を根に持っている様子で片付けをしている。
ふふふ可愛いと思いながら片付けをし始める。粗方片付け閉店時間まで未だあるので、店を開けると今日貸し切りじゃないの?とちらほら常連さんが来て仕事の愚痴や家族の心配事などなどポツポツと漏らして行く。助言が欲しい人は助言をしただ話を聞いて欲しい人には話を聞きすごす。
はじめましてのお客様なども来て日々の背負っている物をちょっとおろして一息ついて帰っていく。
マスターもお客さんと対応しているうちに機嫌が戻ったのか切り替えたのか。いつも通りの接客をしてくれている
「マスターアレ美味しかったから今度作ってー。俺いま頑張ってるんだよ」と常連に声を掛けられている。うちのお通しはマスターが作っている。
ふーん。そうなのか?がんばれーと棒読みの返事を返しているが。誰がどれを好きなのか把握しているので、今度来る時にタイミングが合えば作ってやると言っている。
毎週固定の曜日で着ている人やふらっと来て静かに飲んでいく人もいれば
「マスター!!」とマスターに絡みに来るマスターとそっくりな従兄やちょっとにてない兄などが来てちょっと外には漏らせない事を掻い摘んで話をしている。ちなみに副業でちょっとこの人たちの仕事を手伝っていたりするので、時々マスターがいない日もある
「ママ。聞いて」と旦那への心配事。子どもの悩み。パートナーについてのアレそれなど話をしてくるシングルたちももいれば
「時間外はクソです」そういう社畜も居る
社畜はご飯を契約して居るので出勤前に来てお弁当を受け取り退勤して夕食を食べつつ愚痴をこぼして元気になって返っていく
社畜の他にお一人様も食事提供をしている。
こちらもマスターの手作りご飯だ。土日祝日は常連さん達がご家族連れで来てキャッキャと楽しんでいくので、提供はなしとしている
時計の針が天辺を超えた頃に最後の一人が
「ママもマスターもおやすみ〜」と待たせていたタクシーに乗って帰宅。後片付けとレジも締まって家に帰る
数日後気まずげに渋谷さんが来店して席についたらママ。マスターごめんねーとテーブルの上で頭を下げた。
「あらどうしたの?」フフと笑って答える私とマスターが無言で茶を出す。
出された茶をずずっと飲んでからちょっと目に涙をためてから
「マジあの時止めてくれなかったらセクハラだって告発されるところだった。部下の管理っていうかそういうの出来てないって言われるところだった」ヒーンといいながら茶を啜っている
「で?どうなったんだ」マスターが尋ねると
「バカどもがちょいちょい馬鹿なことをしていたのは認識していたからフォローしていたんだよ一応」そういいつつ遠い目をしている
飲み会前にも何度か周辺の人間や嫌がらせを受けているだろう人。無論、キスを迫られていた子にもちょいちょい話を聞き様子観察をしていたそうで。ダメそうな時は上に相談して人事やらに掛け合っていたり自分の裁量でどうにかなるところはどうにかしていたらしいが
「逆にそれが駄目だったみたいで。思い通りに行かない!!って言う感じでアレが起きたらしくて」話を聞いて馬鹿じゃねというのはアングラの世界で行きていてヒモもやっていたマスター
「なんでそこで、大丈夫ですとか言えたんだろう?」事前にフォローとかしていたのに大丈夫です。と言っていたそうで。
本当にだいじょうぶかなって思いつつプロジェクトも抱えていたから目が届かなくてっていう感じらしかった。
ヒモが奥さんが死んでダメ人間が更にダメ人間になっていた時になんとなく拾って子供の世話をしてポツリポツリと奥さんのことを思い出したり失望感を受け止められるようになんとなく側にいてなんとなく突っつかないで放置していたら気がついたら執着されていたのが私が言えたことではないが
マスターと顔を見合わせて
中間職って大変よね。と渋谷さんを慰めつつお酒ではなくちょっと美味しいおつまみと茶を勧める
「今回は事前に俺が話を上に持っていっていたし。上も要観察として周りにもフォローしてくれていたからセクハラを事前に察知してどうにかしたという感じで収めてもらえたんだが」くそーと愚痴っている渋谷さん
何でもキスを迫られて初めてセクハラじゃんと認識したらしく。で、ヤッベってなった時に私が間に入って助けてくれた。その後も横に座って話を聞いてくれて周りの女子との軋轢も解消する手立てをくれて以前から部長が気を利かせてくれていた事が理解できたらしく
ほんと怖かったんですと人事に泣きついたそうな
「へー」そういいつつ私を見つめるマスターから視線をそらしつつ
「人事異動になる次期だったから。彼女が希望するところに空きが出たということで2ヶ月後には移動してもらう事になったし。バカやった奴らもバラバラにして各所に移動となった」痛いなーみんな出来るやつだったのに
普通に成長してくれたら有能な人材として上にも行けたのにーと愚痴っているが
「まだまだ30代くらいでしょ?一からやり直したって挽回できるんじゃないの?」首を傾げて聞けば
「出世コースからは外れるよ。まあ、有能だし子供っぽいところをどうにかすれば大器晩成である程度上に行けると想う」ペカペカした顔をしてつまみを食べながら言っている渋谷さん
「今、挫折?した方が良かったのかもな。周りを見る目が養えるだろう?」マスターが言うと
「だよね~。頑張れ若者っていうか。バカモノだよほんとー」と来た時はつかれた様な顔をしていたのが少し元気になっていた
「又来る〜」と店を後にした。
閉店後
良かったね。とマスターに微笑みかければ
「よくない。お前が。ママがあんなふうに間に入って行かなくてもどうにかなるはずだったんだ」ムスッとしている。
根に持っているようだが
「私の店で。楽しくないお酒とか飲んでほしくないし。お酒の場で苦々しい思い出とか。あの時っていうふうになってほしくなかったのよ。それに、私の夢の城を汚されたくなかったんだもの」そう言うと
「俺が目を光らせてたんだからどうにかした」と口を突き出し不満そうである
その口をつまんでから
「出来ると知っているわ。でも体が動いちゃったんだから仕方ないでしょ」そう言って頭一つ高いマスターの頬に軽いキスをして
「機嫌直しなさいよ」そう言えば
「今度は絶対に手を出すなよ」そう言って私の目尻にキスをしてくる。
「お前は俺のもんだ」そう言って腰に手を回し車までエスコートしてくれるマスター
独占欲が強いと言うか何というか
まあ、悪い気はしないので別にいいが
それを羨ましげに見ていた人がいたとか。バカやって私にキスをされた子供が告白してくるとか全然思いもしなかったが
ケツの青いガキなんて相手にしないぜと常連客がけちょんけちょんに告白してきた子を黙らせるとか。
マスターぐらい料理が上手くなかったら付き合うことできないぜとかご飯を食べに来ているお客さんや家庭持ちのお客さんに言われたりして
気がついたらマスターに弟子入りして利用も気遣いも出来るいい男に鍛えられていたりとか
まあ、面白いことになっていくとは
その時はちょっと想像できなかった




