4.妹の水着姿が世界一
平穏な日々が過ぎる。
俺のクラスの担任が変わったがとくに大きなトラブルはなく。遠足、体育祭、期末試験――と1学期の行事を終えて、夏休みを迎えた。
迎えたのだが――家で優梨とラブラブイチャイチャしているだけで2週間が経とうとしていた。
「お兄さん……」
「皆まで言うな」
せっかくの夏休みが家で過ごすだけで終わってしまうことを危惧した俺は、奈々さんに連絡をしていた。
俺に厳しく、優梨のことを考えられる奈々さんであれば、打開策を考えてくれると期待している。というより俺たちを健全なカップルにしてください。
「はぁ……」
スマホ越しに聞こえてくるのは奈々さんの信じられないと言いたげな声と溜め息ばかり。完全に呆れられている。
「俺だって一晩中身体を交わっちまうなんて思わなかったさ。それだけ優梨が魅力的だってことなんだろうけど」
「そんなことを妹の友達に聞かせて辱めるようなんて、性癖がニッチです。……変態」
「拡大解釈が過ぎる。そんなつもりはこれっぽっちもないからな!?」
「来世では、羞恥心を持って産まれてきてください」
「今世を諦めんな! 俺にだって羞恥心はあるんだぞ」
「はいはい。……まあ、ただれた生活が悪いとは言いませんけど、たまには日を浴びなくては本当に性に溺れてしまいますよ」
「俺もそう思って、奈々さんに相談させてもらったところだ。どうにかしてくれ……」
「理由がないから、家から一歩も出ないんです。そこでどうです? 海に行くというのは」
「優ちゃんの水着が見られますし」
「それが目的かい。しかし、優梨の素肌を他の輩に見られるのはな……」
「優ちゃんと同じことをおっしゃるんですね」
「同じことって?」
「プールの授業で他の女にお兄さんの水着が見られるのは嫌、と」
「ははは、想像できちまうなー」
「ちゃんと笑えていませんよ」
「苦笑いってやつだ。もちろん、嬉しい気持ちもあるけど」
「優ちゃんに想われて幸せ者ですね。……優ちゃんのためにも海を貸し切りできるように手配しておきますか」
「海を貸し切るってんな簡単なことじゃないだろ。金持ちは価値観が狂ってやがる」
「自分がお兄さんの水着を視界に入れるなんてヘマはしませんから、そこも安心してください」
「それは無理があるくないか……?」
ということで奈々さんの提案で、3日後、海に出かけることになった。
「ってどうして、シルヴィーちゃんがいるのっ!」
「偶然、です。たまたま、です」
奈々さん家の高級車に乗って早1時間。海に着いた俺たちを待ち構えていたのは、銀髪翠瞳の美少女――シルヴィー・フォッセだった。
「んなたまたまあるかよ。そもそも奈々さんが海を貸し切ってくれてるはずだろ? まあ、俺と優梨の2人きりと思いきや奈々さんもいることに驚いてるけど」
「自分がいないと健全な思い出作りができなそうですからね。抑止力です」
「んっ。ナナがユーリと、ワタシがユーヤと仲良くします。ナナとワタシはWin Winの関係、です」
「誤解して欲しくないのは、自分がシルヴィー・フォッセに情報を漏らしたわけではありませんから」
「あ、私がシルヴィーちゃんに自慢話したせいだ……」
「リークしたのはお前かよ」
「夏休みらしい思い出、ぜんぜん作れてなかったから、つい嬉しくなっちゃって」
「ユーリのメッセ、絵文字がいっぱいですごく嬉しそうでした」
「お前らメッセでやりとりしてたんだな。ちゃんと友達やれてんじゃん」
優梨がシルヴィーとメッセをするほど仲良くしていることに感動を覚える。2人の殺し合いが嘘みたいだ……。
「こんなところにまでついてきて、私とお兄ちゃんのイチャラブを邪魔するシルヴィーちゃんにはもうメッセしないからっ」
「夏休みはユーヤになかなか会えないので、近況を聞くことができなくなるのは残念、です」
「別にシルヴィーちゃんにお兄ちゃんの近況を伝えるためにメッセしてたわけじゃないよっ」
「わかりました。これからはユーヤに直接メッセして聞いてみます。ユーヤのこともっと教えてください」
「絶対教えないっ。ブロックしておくもんっ!」
「恋人だからって勝手にスマホを弄るのは……」
「恋人の特権だもんねーだ」
「恋人の特権じゃなくね? いや、優梨がそうしてくれってことなら、ブロックしておくけど」
「へへーんだ、シルヴィーちゃんには勝ち目はないんだよ〜! んふー」
訂正。メッセをしても仲の悪さは変わってませんでした。
ってか優梨が大人気がなさ過ぎる。優梨はシルヴィーが関わるとすぐ精神年齢が低くなるよな。可愛いけど。
「そういうことです、お兄さん。2人きりを楽しみにしてたんでしたら申し訳ないです」
「いや、俺はいいけどさ」
「そうですね、お兄さんからすれば、この状況はいいでしょうね。世界一の美少女と美少女とその辺にいる女子の3人の水着が見られるんですから」
「なぜ自分を卑下する。奈々さんも可愛い方だろ。ってそういうことじゃないからな!」
「可愛い……? 私以外の女の子に可愛いって……」
「あぁ……だから、そういうことじゃないだろって……!」
「じょーだんじょーだんっ。私も奈々ちゃんのことすっごい可愛いって思ってるから、自信を持って!」
「ありがとうございます、優ちゃん。そう言ってもらえると自信になります。優ちゃんにもっと可愛いって思ってもらえるように頑張ります」
「なあ、俺には? 俺も同じようなこと言ったんだよなぁ……」
「……」
「興味のない相手に褒められたところで何も感じないよな……いいけどさ。でも、そっか、海に来たんだよな。そりゃ3人とも水着か」
奈々さんに指摘されて、思い出したように3人の水着姿に視線が向く。
優梨は、ピンク色のワンピースタイプの水着に、肌露出をより抑えめにするためかラッシュパーカーを羽織っている。
水着は、下がスカートのように広がっており、フリルがふんだんにあしらわれている。愛らしい優梨にはよく似合うな。上半身部分は、胸元の大きなリボンが印象的で、とくに目を惹く。なぜかと問われれば、その下から、うっすら谷間が覗いているからで――。
「お、お兄ちゃん……!」
俺のいやらしい視線に気づいた優梨は恥ずかしそうに、ラッシュパーカーで水着を覆い隠す。
そりゃ、妹のほんのり実った果実は気になってしまうのは兄としてしょうがなくない?
優梨の魅力たっぷりの水着に尾を引かれながらも、シルヴィーに視線を移す。
「恥ずかしい、ですけど、ユーヤに見てもらえるなら……」
シルヴィーは、キャミソール型になったセパレートタイプの水着を着こなしていた。
お腹周りの露出は少ないが、なんといっても水着を押し返すほどの大きな膨らみがすごい゛(語彙量消失)。恥ずかしそうに腕で隠そうとしても、溢れでてくるから余計に際立つ。
胸ばかり見てしまっているが、決しておっぱい星人ではない。そこは注意してほしい。
にしても、2人とも俺が露出多めな服装が苦手なことをよく把握している。完璧だ好き。
奈々さんは――。
……だよな、無難に学校指定の水着以外ないか。
2人みたいに俺に可愛い姿を見せたいわけじゃないし、着飾ったりするわけないし。
しかし、背が低く、慎ましい体型も相まって、あっち方面には需要ありそう。
……うん、よく似合ってる。
「お兄さんが自分をいやらしい目で見てます。汚れます」
「見るなってのが無理だろーがい!」
「目を潰すほかないでしょうか」
「他にも選択肢はいくらでもあるだろ……」
「それで? 誰の水着姿が一番よかったですか?」
「あー、そーいや、そんな話をしてたか?」
「お兄ちゃん……」
「ユーヤ……」
優梨とシルヴィーは縋るような眼差しで見つめてくる。
「もちろん、優ちゃん以外にないですよね」
奈々さんは、優梨を推すわかりきっていた立ち回り。
▶︎優梨の水着
▶︎シルヴィーの水着
▶︎奈々さんの水着
選択肢も俺に決断を迫るみたいに浮かび上がってきた。
いや、これ、選択肢あってないようなものじゃねえ?
水着姿が一番魅力的に感じた女の子の手を取る。
「今日は貸切なんだ。他の目なんて気にせず、お前の水着姿を余すことなく目に焼き付けさせてくれ」
ラッシュパーカーを強引に剥ぎ捨て、
「優梨の水着姿が世界で一番可愛いよ」
と囁いた。
「んふー、お兄ちゃんは〜!」
嬉しさのあまり、むぎゅ〜っと抱きつく優梨。
「お、おい……」
「恋人同士なんだよ? だれも見てないし、いーじゃんいーじゃんっ」
「駄目ってことはないが……」
布一切れを境に、柔らかな感触が押し寄せてくる。
むっちりとした肉付きのいい身体を肌で感じて、沸騰しそうなほどの興奮を鎮めるのでいっぱいいっぱいだ。
「誰も見てない……? ですか」
「優ちゃんはお兄さんのことになると周りが見えなくなりますよね。そこまで想ってもらえているお兄さんが羨ましくもあり、憎い……」
「優梨よ……」
「なーあに?」
「お前の肉感とは別の……嫉妬と殺気も肌で感じるんだが、これでも誰もいないで通すつもりか……?」
「もち!」
「優梨がそう言うんだったら……しゃなしか」
「んふー、えっへへ」
「しゃなし、ですか……?」
「……2人の世界なんでしょう。自分たちは日焼けでも塗りますか」
「……んっ。お願いします、ナナ。その……ワタシにも塗らせてほしい、です」
「日焼けや肌荒れはあまり気にしませんが、塗っていただけるんでしたらお願いします」
シルヴィーと奈々さんはゆったりと足取りでパラソルの下に向かった。
シルヴィーと奈々さんの絡みを直接見るのは初めてだな。
少し距離を感じるけど、2人とも丁寧な物腰でやりとりをしている。とくに仲良しでも不仲でもない様子。
どんな仲になって行くのが――今後が気になる2人だった。
「って優梨も塗らなくちゃだよな?」
「なにをー?」
「日焼けだよ。2人は塗りに行ったぞ」
「2人って……――あ、シルヴィーちゃんと奈々ちゃんね」
いままで忘れていたかのように、優梨の口から2人の名前が慌てて飛び出す。
忘れていたかのようにじゃなくて、本当に眼中になかったんだよな。俺のことになると周りが見えなくなる優梨――はは、愛おしくてたまらないな。
「そうそう。ほら、上着脱いで肌の露出も増えたろ? 綺麗な肌が焼けちまったら大変だ」
「清楚そうな白い肌が大好きだもんね」
「うっせぃやい」
軽口を叩きながら、新たにパラソルを組み立てて、その下で日焼けを塗ることにした。
シートにうつ伏せに寝転ぶ優梨。
これは妹のむっちりスベスベ肌をご法的に触るチャンス!
ワキワキとした手が柔肌に伸びる――。だが、すいすいと立ち上がり、俺をあざ笑うかのように、
「なーんて、スプレータイプを準備しちゃったんだ」
「なんで……だよ……」
「えへへ……お兄ちゃん、えっちなこと期待しちゃった? 残念でした〜!」
くっ……このメスガキ妹……! 俺の下心を見透かして、煽ってきやがって!
「でも、どうしてもって言うなら……お兄ちゃんだったらいいよ?」
「ゥ……」
可愛い。好き。
優梨とのラブラブぴっぴはいつでもできるしな。シルヴィーや奈々さんの前ですることでもない。
そういうプレイ興味がないわけじゃry――ないない。断じてない。
優梨に心を弄ばれながらも、日焼け止めを俺たちは海に繰り出した。
「ぶく、ぶく……けふっ、お兄ちゃん、助けて……!」
ルンルン気分でダイブしたはずなのに、優梨は溺れていた。
「全く大丈夫かよ……」
「だい……じょうぶ……」
腰を抱き寄せて、優梨の状態を確認する。
海水を飲んで咳き込んではいるが、意識はあるし問題なさそうだ。
「まだ余裕で足が着くんだが……もしや、演技?」
「違うもんっ! わ、私……泳げないの」
「泳げない……?」
耳を疑った。
何においても完璧で、小学校のころは運動神経も抜群。泳ぎも他の追随を見せないほど得意だった優梨が、金槌だったなんて……。
そうだ、小学校のころは、なんだ。
コイツ、俺が中学生になって優梨の露出を極端に嫌がることを察して、プールの授業に参加しなくなったんだ……。
俺を中心に取捨選択しやがって。ずっと俺のため、俺のためと――尽くしてくれてたんだよな。
けど、そうなると通知表の体育の成績がどうして最高ランクの5だったのか――本当に不思議だ。
いや、深く考えるのはよそう。
「泳げないなら、浮き輪でまったりするか」
気を利かせて砂浜で浮き輪を膨らませてくれている奈々さんを横目で確認し、提案する。
「お兄ちゃんが手を離さないでいてくれるんだったらいいよ」
「浮き輪に乗るのに落ちる心配をする必要あるか?」
「そうなんだけどね……」
「……ま、必要としてくれる妹の手を離す兄になんていないけどな」
「必要としなかったら?」
「それでも離さないさ。兄は過保護だからな、妹になったのが運の尽きだ」
「運の尽きなんて思ったことないよ。むしろ幸せしか感じてない」
「そうかい」
砂浜に戻り、奈々さんから浮き輪を受け取る。
「ありがとう、奈々さん。相変わらず気が利くな」
「優ちゃんのためですから」
「これからもそんな感じで優梨のことをよろしく」
「言われなくても」
俺に対する冷たい態度も相変わらず。
「ユーリばっかりユーヤを独占してズルい、です」
「本来、自分たちは招かねざる客なんですから、我慢するしかないですね」
ビーチに残って俺たちを見送るシルヴィーと奈々さん。極力、俺たちの恋人同士の時間を邪魔したくないってことなんだろう。
せっかく4人集まったんだ。少ししたらビーチバレーなんかしたりしてみんなで遊ぼうな。
「待たせたな、優梨。ほれ、乗りな」
「うんっ!」
差し伸べた手をギュッと握りしめる優梨。
さきほどまで乗り気じゃなかった浮き輪にも嬉しそうに飛び乗った。
「安心して波に揺られるといい」
「ん〜……」
…………。
波に逆らわず、右へ左へ揺られる。
優梨は体を傾けてリラックスした体勢で浮き輪で過ごしている。
シルヴィーや奈々さんに体ではなく、言葉で会話する時間をもらえたんだ。
付き合って数ヶ月が経ったいまだからこそ、俺が選んだ選択肢は正しかったのか――優梨に聞いてみることにした。
「……なあ、優梨」
「は〜い?」
「俺と付き合ってみてどうよ?」
「どうって?」
「お前が妄想してた理想と比べてだよ。お前が愛する理想の俺でいられているか?」
「そんなこと? 私の理想は、いつだって私の目の前にいるお兄ちゃんだよ」
体を起こして、聞くまでもないとでも言いたげに、サラッと言ってのけた。
優梨の語る、目の前にいるお兄ちゃんってのは、どれを指している?
優梨から逃げようとしたり、偽りの愛を語ったり――そんな過去を持つ男なのに。
「目の前のお兄ちゃんは、お前にどう映ってるか気になるな」
「お兄ちゃんがなにを気にしてるかわかんないけど。……優して、かっこよくて、私のことを1番に想って、愛してくれてる」
「最初のは自分じゃ判断できないけど、優梨のことに関しちゃ間違いないな」
過去はどうあれ、いまの俺は間違いなく、優梨のことを1番に想い、愛している。
俺が優梨に対する想いが変わらない限り、理想のお兄ちゃんでいられるんだったら、優梨への愛を堅く誓った俺からすれば容易いことじゃないか。
「んふー、でしょ〜!」
優梨の満足気な笑顔に、俺が掴み取った未来は――。
俺にとっても、優梨にとっても、理想と呼べるハッピーエンドだと胸を張って言える。
もうゲーム世界も終わりでいいんじゃないか、Y2。
俺はハッピーエンドを迎えた世界で、優梨と一緒に未来の第一歩を踏み出すことが楽しみでしょうがないぞ。
…………。
……。
――パシャッ。
「は?」
終わった――なんて、肩の荷が下りた矢先。
茂みからシャッター音が嫌なくらいに響いた。
「お兄ちゃん……!」
「とりあえず、シルヴィーと奈々さんのところに!」
俺は優梨を連れてすぐさま砂浜に戻り、シルヴィーと奈々さんの側に駆け寄った。
シャッター音の人物の狙いがもし優梨だったら。
海まで追ってこられたとき、泳げない優梨は逃げることができないし、俺も自由に身動きが取れない。
シルヴィーや奈々さんがいる、地上のほうが撃退できる可能性が高いと踏んでの行動だ。
パラソルの下に集まって、茂みを警戒する。
「……」
「……」
何分経っただろう。
暑さによる汗なのか。死と隣り合わせによる緊張汗なのか。
全身から噴き出る大量の汗が時間の経過を示してくれている。
「……車の用意ができました。物は後で片付けさせるので、みなさんは何か羽織ってここから離れましょう」
「んっ」
「もう遊ぶって空気じゃないもんね……」
「まだ周辺にいるかもしれませんから。車内であれば、安全だと思います」
優梨はラッシュガードを、シルヴィーや奈々さんはTシャツを着る。
この中の誰かの差し金じゃないかと警戒するけど、怪しい挙動は見られない。
水着に上着1枚と身軽な格好なこともあり、凶器を隠し持ってるとは考えにくいが……。
「では、行きましょう」
奈々さんを先頭に、俺が後ろから周辺を見渡しながら、急ぎ足で駐車場に向かう。
「これって盗撮、ですか……?」
「あれはスマホのシャッター音だったと思います。自分たちが出した音でないとなるとその可能性が高いかと」
「海は貸し切ってたはずだよな?」
「そのはずなんですが……」
「みんなは、スマホをどこにしまってたんだ?」
「……」
「……」
シルヴィーと奈々さんの表情が強張る。
「あっ……」
俺の明らかな失言。疑いの目を向けられていると感じ取ってしまったんだろう。
「自分はポーチに入れています。濡れたら大変ですから」
「ワタシもポーチ、です。車内に置いていくつもりだったんですけど、記念写真を撮るときに必要かと思って」
「そう、か」
ポーチに入れていたからって疑いが晴れたわけじゃ――。
「いま犯人探しをしたところでって感じじゃない?」
「でも、優梨の近くに危険が迫ってるかもしれないんだ」
「私のことは、お兄ちゃんが守ってくれるでしょ? だから、だいじょーぶっ」
「守るのは当然だけどさ」
「もちろん、お兄ちゃんのことは、私が守ってあげるからね!」
場にそぐわない優梨の笑みに、和解した相手を疑うなんてと思い直す。
用心に越したことはないだろうが、協力して安全を確保することがなにより大事だって反省する。
「ごめんなさい。自分が――」
「いや、俺も疑って悪かった。優梨のこととなるとついつい……」
「優ちゃんの命の危機が迫っていたのかもしれないんですから、お兄さんからしてみれば当然の反応だったと思います」
「でも、ここにいる誰が悪いとかじゃない。盗撮した奴が悪いんだ。奈々さんが気にするようなことじゃないよ」
「……。別にお兄さんに慰められても」
「お兄ちゃん、そういうことドヤ顔で言うから勘違いされちゃうんだよ、もう……」
「本当のことを言ったまでなんだが」
「ほんとのことでも。そういうのは私やシルヴィーちゃんが伝えてあげることができるんだからさ」
「んっ。んっ」
優梨の言葉に、シルヴィーは何度も深く頷いた。
「別に。自分は優ちゃんに謝罪したのであって、お兄さんのことはなんとも思ってませんから。勘違いしているのはお兄さんのほうです」
「だとよ。……すまんな、俺の勘違いのせいでややこしくしちまって」
「わかればいいんです、わかれば……」
「奈々ちゃん……」
「ナナ……」
「なんですか、2人して!?」
不貞腐れたようにそっぽを向いた奈々さんに冷ややかな目で見つめる2人。
しどろもどろする奈々さんも可愛いな。
「いやらしい視線を向けないでください。お兄さんの子を孕みたくありません」
「見ただけで妊娠させることなんてできるか!」
「奈々ちゃんが下品な言葉を使うなんて……」
「普段の優ちゃんであれば、他人をそんな目で見るお兄さんを叱責してますよね!?」
「ユーヤを意識、してる……」
「それはない絶対にないありえない。はぁ……もういいです、ほらお迎えの車が見えました」
「助かったな……」
「んっ。なにもなくてよかった、です」
「この後もなんもないといいんだけどね」
優梨がフラグを立ててしまったような気がしたが――。
奈々さん家の車に乗り込むとその後は何事もなく、家まで送ってもらえた。
「今日はありがとな」
「いえ、お礼は……」
「もう奈々ちゃんってば〜! まだ気にしてるの?」
「優ちゃんの貴重な時間を無為にしてしまったので」
「全然ぜんぜん! お兄ちゃんはもちろん、シルヴィーちゃんと奈々ちゃんと一緒に遊べて、すっごく楽しかったもんっ」
「だな」
「お兄さんがどう思っているかは別にどうでもいいです」
「おい」
「だから、予定が合うなら、今度は私とシルヴィーちゃんと奈々ちゃんの3人で遊びにいこ」
「んっ。ワタシもすごく楽しかったから、また遊びたい、です」
「……わかりました。そのときはよろしくお願いします」
そんな感じで、海デートは幕を閉じた。
俺と優梨のデートというよりは4人でワイワイ楽しくだったが、優梨、シルヴィー、奈々さんの関係性が垣間見えたようなイベントだった。
兄としては、友達とも仲良く過ごしてほしいからな。
友達は多くなくていい。数少ない友達を大切に青春を送ってくれ。




