5.ストーカー?
海での馬鹿げた選択肢以降、選択肢が出現することはなく、いつになったらハッピーエンドを迎えるのだろうとソワソワし始めた頃――。
俺の周囲で不可思議なことが起きていた。
「最近、誰かに見られてる気がするんだよなぁ……」
と何気なく呟く。
そんな呟きを聞けば、優梨が反応するのは当然のことで、
「誰かに見られてる? 私……じゃなくて?」
「お前も俺のことを監視してるんかーい。いや、じゃなくてだな。ほら、ゴム使い切ったから買いに出かけたんだけど、なーんかつきまとわれてる気がしてさ」
「お兄ちゃんが避妊具を買いに出かけたのは知ってるけど、私はお家にいたから違うね」
「あとは進路のことで学校に登校したときにも同じような視線を感じたな」
「その日も私はお家にいたけど……お兄ちゃんが私と一緒にいないときを狙ってストーカーしてるのかな? シルヴィーちゃんとかだったり?」
「シルヴィーがねぶるようなジメッとした視線で俺をストーキングしたりはしないだろ」
「わかんないよー。シルヴィーちゃんは、お兄ちゃんのこといやらしい目で見たりしてるから」
「いやいやいや。それはお前の偏見だから」
「シルヴィーちゃんだったら、ありえない話じゃないかなって。海だって勝手について来たし」
「勝手にじゃないだろ。情報を漏らしたのは優梨だし」
「うっ……」
「ま、いーんじゃないか。友達との思い出作りってのも。優梨とシルヴィーと奈々さんの3人で遊ぶ機会がこれから増えてくだろうし、海はその第一歩だったんじゃないか」
「お兄ちゃんがお兄ちゃんみたいなことを言ってる……。いつもは私がお世話してあげてるのに」
「事実、兄なんだから、これくらいの小言は言わせてくれ!?」
「でも、真面目な話、お兄ちゃんはストーカーされるような心辺りはあるの?」
「俺みたいな平凡な高校生が恨み辛みを売るようなことをするかよ」
「……1つだけあるじゃん」
「は……?」
「米倉先生――蚕お姉ちゃんだよ」
優梨が発した名前に和気藹々としていた雰囲気が一瞬で凍る。
「蚕、お姉ちゃんが……そんなまさかな」
まさか、なんて思いつつ。恨み辛みを買うのに十分な行いをしたことを思い出す。
「米倉先生を懲戒解雇に追い込んだんだもんな……。俺らの人生が狂ったのは間違いない」
「でも、経歴を詐称して正体を隠してた私たちに近づいてた米倉先生――蚕お姉ちゃんが、あのままの生活を続けてたら」
「……」
心のどこかに、優しい蚕お姉ちゃん、生徒に真摯に向き合ってきた米倉先生のイメージが残っているけど――。
彼女は、優梨を殺そうとした。そして、俺を殺した。
「とくになにもなければいいけど、もしかしたらお兄ちゃんに身になにかあったかもしれない。そう考えたら、しょうがなくない?」
「……ああ」
そうだ、そんな相手に慈悲をくれてやる必要はない。
だけど、それは彼女も同じ。
彼女の肉親を殺し、彼女にとって大切な存在である俺も優梨のものとなった。
恨み辛みから、何をしてくるかはわからない。警戒するに越したことはないだろう。
「まあ、蚕お姉ちゃんって決めつけるのもあれだけどね。視野が狭まっちゃうし」
「わかってる。優梨も気をつけてな?」
「はーい」
蚕お姉ちゃんを退けてハッピーエンド、なんて期待もしていたが、もう一波乱ありそうだ。




