3.突然の別れ
ゴールデンウィーク明け。
「米倉先生がどうしてなのよー!」
「一身上の理由ってなんだよ。俺らにも詳しく理由を教えろ!」
「米倉先生に何かあったのかな? 私たちのことをよく気にかけてくれてたのに……」
急遽開かれた集会で、全校生徒に米倉先生の移動が告げられた。
多くの生徒が嘆き、心配の声も聞こえる。彼女が生徒たちにどれだけ慕われていたのかがよくわかる。
「結局、一身上の理由ってなんだよ。波風を立てないためのプラフなんだろ?」
昼休み。奈々さんに呼び出されて、中庭にやってきていた。多くの生徒に賑わっていた中庭も俺が来ただけで全員が捌けた。優梨の圧力恐るべし。
その優梨はというと今日はシルヴィーと空き教室で昼食中だ。
付き合って以降は俺と優梨の2人きりで過ごすことが当たり前になっていたのに、今日は何事もなく奈々さんのところに行かせてくれた。きっと俺が裏で動いていたことは全て筒抜けで、黙認してくれているのだと思う。
「表向きは移動ということになってはいますけど、懲戒解雇が下されたようです」
「懲戒解雇ってのは、要するにクビになったってことだよな?」
「教員免許も取り上げになりますね。教員への復帰は難しいかもしれません」
「は……? 処分が重過ぎないか?」
「お兄さんがどの程度の処分を望んでいたかは知りませんが、名前と経歴に虚偽があったんですから、雇い主としては当然の権利だと思いますよ」
「米倉先生はこれからどうなっちまうんだよ……」
「さあ? そこまでは伺い知ることができませんでした。新しい職が見つかるといいですね」
「……ってことは、俺が蚕お姉ちゃんの人生を狂わせたってことか? ただ俺らの成長を見守りたくて先生になって、側にいてくれてたのに」
「後悔ですか? その覚悟があっての行動だと思っていたんですけれど」
「……ッ」
俺もこの結果を望んでいた、はずだった。
でも、心のどこかに、蚕お姉ちゃんにいつか俺たちの関係を認めてもらえたらという甘えがあった。
覚悟が足りていなかったんだ。
「茨の道を進む以上、全員が幸せにというのは夢物語です。シルヴィー・フォッセを振ったお兄さんであれば、わかっているはずです」
「そんなこと、わかってる! だから、俺は優梨と――」
「あ、振った相手と仲良くしてる人にはわかりませんか。優ちゃんも甘いんですよ、恋敵を野放しにするなんて」
「シルヴィーは俺にとっても優梨にとっても大切な友達だから。仲良くするのは間違っちゃいないだろ!?」
「間違ってる間違ってないの判断は自分にはできませんけど、本気が感じられませんよね。口先だけですし」
甘えがあっても。覚悟が足りていなくても。優梨のためであれば、何でもするという決意は本物だ。
その決意を年下の女の子に否定されている。黙ったままでいいのか言い返せ。言葉、行動で納得させろ。
「口先だけなわけ。俺は利用するためにシルヴィーと仲良くしてる。シルヴィーは俺に心酔してるからな、俺が命令すれば、何だってやってくれるさ」
「自意識過剰、ナルシスト。それが勘違いだったら、恥ずかしいですね」
「真実なんだから、どうしようもないだろ!? 愛人でもいいって宣言するくらいだしよ」
「こんな人のどこがいいんだか。……でも、好きな人のためなら、どんな相手も利用する――それでこそお兄さんです。きっと優ちゃんも同じ理由から仲良くしているんでしょうね」
「もちろん、奈々さんのことも利用させてもらうからな。優梨との幸せにできることは惜しまない」
「ええ、自分は優ちゃんのためにありますから。存分に使ってください」
「おう!」
米倉先生の懲戒解雇は俺にとっても大きなニュースで、一瞬、自分の仕出かしたことに後悔をした。
だけど、奈々さんに甘さを指摘されて、自分のやるべきことに向き合ういい機会になった。
「あ、優ちゃんを待たせていいんですか?」
「優梨はシルヴィーと過ごしてるはずだろ? 大丈夫じゃないか」
「シルヴィー・フォッセと過ごしてるからといって、逢瀬を許していただけているとは限りません」
「逢瀬って誤解が過ぎる。この密会は黙認してくれてるって思ってたんだが」
「いいえ、お兄さんに無理矢理呼び出されたので、1人で行ってきます。もしかしたら、告白からもしれませんね、と伝えてきましたよ」
「優梨を煽ったのか!? 誤解を招くことを言うなってーの!」
「優ちゃんがいるのに、他の女の子と仲良くするお兄さんは痛い目に会ってください」
蚕お姉ちゃんという不安要素も解消されて、これでしばらくは優梨と平和に過ごせそうになった。――と思いきや、優梨に許しを乞わなくてはいけないとは……骨が折れる。




