2.女子高生と恋バナ
「私に秘密〜? お兄ちゃんが私との約束を破ったのと関係あるの?」
用も済んで解散というところで、この場を絶対に見つかりたくない相手に遭遇してしまう。
「ゲッ、優梨……」
「ゲッ、ってなんなのー! それが愛しい妹に対する反応? 酷いなぁ……。しかも、奈々ちゃんと一緒だったなんて、もしかして浮気とか言わないよね?」
「なわけあるかー! ええと、優梨さんや、これには深いわけが……兄の言い分を聞いてから、煮るなり焼くなり好きにしてくれ……」
腕を組みながら仁王立ちで、俺たちの退路を塞ぐ優梨。ぷんぷん、というオノマトペが聞こえてきそうなくらい頬を膨らませて怒っている。
そんな顔も可愛いなぁ……。
それにしても、息は整えてきたようだが、汗で髪がおでこに張り付き、脚がビクビクと震えている。優梨が俺を探してどれだけ走り回ってくれたかが伺える。
「お、お兄ちゃん……っ。許してほしいからって、スキンシップを取るなんてずるいよぉ……!」
「違うわ。汗かいてるから拭いてやってるんだろうがい」
「んふー、ど、どうだかな〜」
「優ちゃん、満更でもなさそうですね」
「あぅ……う、嬉しいけど、それとこれはべつー! 説明してっ」
「プレゼントを落として、自分に泣きついてきたんですよね、お兄さん」
「あ、ああ。そうなんだよ……」
「プレゼントがないと考えてきたデートプランが水の泡になってしまうらしくて、ここで作戦会議をして、ちょうど優ちゃんを迎えに行くところだったんです」
「スマホ落ちてたんだけど」
「スマホも落としたんですか? はぁ……しっかりしてくださいよ、お兄さん。そんな体たらくで、優ちゃんを幸せにしてあげられるか心配です」
「奈々ちゃんが人の心配をするなんて珍しいね?」
「いえ、自分は優ちゃんの心配をして――」
「お兄ちゃんと奈々ちゃんはいつからそんなに仲良くなったんだろう。軽口を叩いたり、相談するくらい仲がいいみたいだし」
またも説明に困る質問を。
奈々さんとは、他のルートで親しくなったとも、優梨と付き合うために協力してもらったとも言えないしな。俺、素直に言えないこと多過ぎないか?
「奈々さんはよく家に遊びに来てたろ? そんときに話したりしてさ」
奈々さんが家に遊びに来てたのは真実。ほとんど優梨と奈々さんの2人きりで過ごしていたため、その時点では顔見知り程度だけど。
「ふーん……今回はそういうことにしといてあげる」
納得はしていないだろうけど、これ以上問われることはないみたいだ。助かった。マジで助かった。
これでダメなら、協力してもらったことくらいは説明するしかなかった。いや、優梨のことだから協力してもらったことも筒抜け――とは考えたくもなかった。
そーいや、1万円については聞かれなかったな。あれ……いつの間に1万円が消えて?
「よかったですね、お兄さん。誤解も解けましたし、これで仲直りです」
大丈夫ですと言いたげなにこやかな笑み。
ああ、奈々さんがすぐに仕舞ってくれたのか。ナイス奈々さん。マジで彼女におんぶに抱っこだな俺。
「これからどーするよ?」
「お兄ちゃんの相談に乗ってくれたのに申し訳ないんだけど、せっかく3人集まったんだし、このままファミレスでパーティーしよっ。デートはまた今度ー!」
優梨から意見が出なければ、俺から同じような提案をするつもりでいた。優梨は探し回ったせいで万全の状態ではないし、デートは次の機会に取っておくのが得策だろうしな。
「自分のデートプランなんて捨ててください。きっとお兄さんが一人で考えたデートプランのほうが優ちゃんも喜ばれますから」
「おう、次こそは優梨を楽しませるデートプランを考えてやるからな」
「私は、お兄ちゃんと一緒にいられるだけで嬉しい……だから、そんなに深く考えなくていいのに」
「嬉しいのはわかるけど、兄としては、彼氏としては、すごい嬉しい、めっちゃ嬉しいって気持ちにさせてやりたいだろ」
「お、お兄ちゃんってばぁ……好き、めっちゃ好きっ!」
「……自分明らかにお邪魔虫ですよね。やっぱり帰ったほうがいいですか?」
「お邪魔虫なんてそんな! 奈々ちゃんを置いてけぼりにしちゃってごめんね?」
「いいえ、自分は特等席で優ちゃんの楽しそうな姿を見られて幸せなので」
奈々さんは、俺たちの惚気に呆れてはいるけれど、俺と2人でいるときとは違って常に表情が和らいでいる。本当に幸せそうだ。
奈々さんにとっても、優梨の幸せが第一なんだな。
「んふー、私たちが仲良くするだけで、奈々ちゃんが幸せになれるんだったら、すっごい嬉しいね。兄妹で付き合ってるって普通引かれちゃうのに」
「2人の人となりを知らない人からすれば、そうかもしれませんが、自分は優ちゃんがお兄さんをどれだけ愛しているか知ってますから」
「愛してるってもう〜! えへへ……顔がにやけちゃうな」
奈々さんは、優梨を乗せるのが上手い。本心からそう思っているのかもしれないけど、優梨はデートをすっぽかされたことを忘れて上機嫌だ。
「ねえねえ、奈々ちゃんは好きな人とかいるの?」
「唐突な質問ですね。自分の発言は必要ですか?」
「私が一方的に恋バナしてばっかりで、奈々ちゃんのお話は聞いたことなかったな〜って」
「気を利かせてくれたんですね」
「聞いてみたかったーっていうのが一番の理由だけどね!」
「はぁ……。まあ、い、いませんね……」
言い淀んだ。
好きな人を前にして、好きな人がいますとは言いづらい。誰と追及されたときに答えられなければ、邪推されかねないだろうし、Noとしか答えられない。
好きな人が俺と勘違いした日には、優梨に殺さry
「じゃあじゃあ、どんな人が好みー?」
「それも答えなくちゃダメですか……? 自分の恋バナなんて聞いても、優ちゃんを楽しませてあげることなんてできませんよ」
「えへへ……いますっごい楽しいよ〜! この3人でおしゃべりすることなんていままでになかったし」
「恋バナに突入した途端、俺が割って入る隙がないけどな」
「お兄ちゃんがどれだか私のこと愛してるか知ってるから、だいじょーぶっ」
「かぁ……そうかよ」
「優ちゃんの楽しみのためだったら頑張りますけど……そう、ですね。……努力家で、自分よりも頭がよくて、勉強に限らずたくさんのことを教えてくれる人。なにより自分が好きになった人が好きです」
「ふむふむふむ……あっ」
優梨が何か思いついたように手を合わせる。奈々さんの好みに当てはまる相手も見つけたのだろうか。
「ゆ、優ちゃん!? 自分が誰が好きなのか気づいて――」
「お兄ちゃんと真逆の人だね!」
「おいおい、俺、関係ないだろ。恋バナに俺を混ぜるな」
「言われてみれば、そうですね。自分、お兄さんのこと嫌いですし」
「本人の前で嫌いって告げる必要あったか!?優梨以外眼中にない俺でも傷つくぞ」
「私は安心しちゃったぁ……これで浮気の心配もないねっ」
「でも、好きな人を一途に愛するところは共通していて、優ちゃんはもちろん、お兄さんもまあ……魅力的に感じているかもしれませんね」
「は?」
赤くなった頬を隠すようにそっぽを向く奈々さん。恋する女の子がするような顔に驚きが口に出る。
これは優梨に対しての照れなのか。それとも――。
「やっぱり全然安心じゃなかった〜! お兄ちゃん、浮気したら許さないんだからっ」
「いや、だから、浮気しねーって」
「お兄さんにも優ちゃんに似てる部分があるってだけです。優ちゃんがいないお兄さんなんて身のない魚も同然です」
「もうそれ骨しか残ってなくね? ゴミ箱行きじゃねーか」
「骨が刺さるのも不快でしょうがないです。あなたの相手をする気もさらさらないのに」
「ガチの骨扱い!」
「貶されてるのになーんか嬉しそうだし、怪しいなぁ……」
「もういいわ! 飲み物取ってくる、お前らは何する?」
「私はとりあえずお水っ」
「いえ、自分が行きます。お兄さんはなににしますか?」
「そ、そうか? んなら、フルーツジュースで」
「はい」
と奈々さんは短く返事をするとドリンクバーに向かって行った。
そんな後ろ姿を見つめながら優梨は、
「もしもの話だけど、この世界に私がいなかったら、奈々ちゃんがお兄ちゃんの彼女になってほしいな……」
「生きる価値もない世界の話をされても全くイメージできないんだが」
「頭がよくて、面倒見もよくて、お金がある。私の代わりになれそうだよね」
「この世界には女なんてごまんと居る。その条件に合う女くらいいるだろうな。けど、優梨に対する想いだけはどうしたって他の女には代用できない」
「んふー、その言葉を聞いたら浮気の心配をするのがバカみたいだよね」
「浮気をするはずないって散々言ったよな」
「ちなみにシルヴィーちゃんは嫌いだからだめ」
「マジでシルヴィーのこと嫌いだよな」
「本当に彼女のことがお嫌いですよね」
飲み物を注いで戻ってきた奈々さんも同調し、突っ込む。
その後は悪い意味でシルヴィーの話で盛り上がった。主に優梨が。




