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1.恋人としての初デート? 妹と洋菓子店で熱いキス

 意識が身体と同化する。


 目を開けば、最寄駅前の広場を利用する家族ずれや恋人などが視界に入ってきた。


「俺は……そうか。もう一度、優梨との幸せな日々をやり直すために戻ってきたんだ」


 右下辺りには、【SAVE】、【LOAD】、【Q.SAVE】、【Q.LOAD】の単語が固定されていて、自分の成すべきことを認識させられる。


「ってもう選択肢があるんだけど!?」



▶︎デートする


▶︎デートしない



 提示された選択肢。

 スマホで時間を確認すると、5月5日9時59分。優梨がここに来るまでもう1分もない。


 俺たちが付き合ったあとからのスタートとY2は言っていたが、デートの集合時間直前とは誰も思うまい。


「ふむ……」


 選択肢が出現するということは、√分岐することを意味している。

 デートするを選び、そのままほかの選択肢が出てこなければ、当然、俺が米倉先生に殺される√を辿ることになる。デートしないを選べば、新たな結末を見ることができるだろう。


「いや、デートには行かせろ。優梨もすごい楽しみにしてるんだ。ドタキャンなんてしたら、優梨が何しでかすかわかったもんじゃない」


「ドタキャン〜? そんなことされたら、私、悲しくてお兄ちゃんを監禁しちゃうかもっ」


「じょ、冗談だよな……?」


 虚ろな瞳でにじり寄ってくる小悪魔のような女の子――多知川 優梨。声色は鈴のような甘い響きなのに、言葉の端々からは恐怖しか感じられない。


「もちろん、じょーだん。えへっ」


 なんて明るく振る舞われても、監禁なんて言葉を口にする時点で全くシャレになってない。


「いまさっき友達からこれから遊ばねって誘いがあって、さすがに優梨とのデートをドタキャンしてまで遊べないと思っただけだよ」


「友達ってシルヴィーちゃん? お兄ちゃんに友達なんてほかにいないもんね」


「シルヴィーしか友達がいないのは確かにそうだけど! てか、俺のスマホに優梨以外の連絡先が入ってないのは、毎日盗み見てるお前が一番よく知ってるだろ。ほら、この通り」


 スマホの通話履歴とSNSアプリの会話履歴を見せつける。どちらも優梨で、シルヴィーどころか他の人物の名前は一切ない。


「じゃあ、だれに誘われたの……? いまさっき誘われたーって言ってたけど」


「え、あー……ん、んなことはいいんだよ! デートしようぜ、デート。な!?」


「よくはないでしょ。……変なお兄ちゃん」


「よっしゃ、行くぞー!」


 空元気でどうにかこの場を乗り切ろうとする。

 優梨は納得のいかない顔をしているけど、言い訳したところでボロを突かれるだけ。言い訳するだけ無駄だ。


 とりあえずはデートには行き、新たな選択肢がないか探す。デートしないという選択は、アテがなくなってからでも遅くはない。


「ねえ、お兄ちゃん。私に言うことないの?」


「なんだよ、藪から棒に。何を言ってほしいんだよ」


「わからないの……? せっかくお兄ちゃんのためにがんばって、おしゃれしたのに。ぶー……」


「あ……!」


 優梨のデート服をまだ褒めていない!

 現実世界でのデートのときにたくさん褒めたため、ゲームの世界でも褒めたつもりになっていたみたいだ。


「私、可愛くない? お兄ちゃんの恋人失格……?」


 優梨の悲しそうな表情。言葉も弱々しく、いつも元気よく飛び跳ねるサイドテールも元気を失ったようにしょんぼりとしていた。


 俺は現実世界で一度デートを経験しているけど、優梨にとってはこれが初めてのデート。どこか自信なさげなのも頷ける。


「可愛くないはずがない! 恋人失格なんてありえない! 可愛い、スゲェ可愛いよ!」


「あ、ありが――」


「チェックワンピースも、カーディガンも、ふんわりとしてるスカートも、どれも優梨の魅力を最大限に引き出してて、完璧なコーディネートだ! 優梨は俺にとって、天使そのものだな!!」


「……はぅ!? んもー! んもうぅぅ!」


 言葉を遮り、まくし立てるように褒め殺した。これが俺のために可愛くなってくれた優梨に対する感謝の気持ち。


 だけど。

 優梨は、声にならない呻き声をあげて、モジモジと照れてしまった。可愛いなぁ……。


「あうぅ……ほ、褒めすぎ。んもー、最初から褒めてくれたら、変なこと考えずに済んだのにぃ……!」


「ごめん。いろいろ考えちゃってさ。あとで美味しいもんご馳走するから許してくれって」


「ほんとのほんとー?」


「こういう機会でなきゃ、優梨のわがままを聞いてやれないからな。食べたいものを言ってくるよ」


「じゃ、じゃあ……あれが食べたいなーって」


「あれって……」


 優梨の指の先に視線を移す。ファンシーな外装のお店が目についた。


 洋菓子店『シュガーメアリー』。最近近所にオープンしたチェーン店で、本店は北海道にあるらしく女性の間では、非常に人気がある店らしい。

 らしいというのは、クラスの女子の会話を盗み聞きしたレベルの知識しかないからである。


「お兄ちゃんと食べに行きたいなって思って、どーかな?」



▶︎デートプラン通りにする


▶︎デートプランを捨てる



 短いスパンで選択肢が現れた。


 優梨に食べたいものをご馳走すると宣言した以上は、後者以外選択肢はない。それに前者を選んだところで、一度経験したようなデートになるだろうし、結末も一度見ている。

 だったら、優梨に楽しんでもらえるほうを選択したほうがいい。


 さようなら、寝る間を惜しんで考えたデートプラン。happyエンドを迎えたときに、利用させてもらおう。


「優梨は甘いものに目がないもんな。幸い、開店したばっかで混雑もしてないし、俺は構わないぞ」


「やったやったー! 普段はすっごい並ばなくちゃらしいから、ほんとラッキーだよ!」


 優梨は、満面の笑みで喜んでくれた。

 可愛いなぁ、まったくよ。




 ★ ☆ ★ ☆ ★




 注文した苺ムースのドリップケーキをフォークで一口分すくい、小さな口へと運ぶ優梨。味わうように咀嚼すると、次第と頬が綻んでいって――。


「ほぅぅぅ……甘くて美味しいっ……」


 にこにこと幸せそうな笑顔を咲かせた。

 優梨の笑顔だけで、デートプラン破棄という英断をしてよかったと思える。それくらい妹の笑顔は本当に可愛い(今日n回目の惚気)。


 まあ、人気メニューである苺ムースのドリップケーキ1個の値段が1500円もするんだから、美味しくなくては困るんだが。


「それはよかったな。けど、俺には甘すぎて、これ以上は食えそうにない。俺の分もやるよ」


「女の子にはちょうどいい甘さだけど、男の子には甘すぎるのかもね。でもね、お兄ちゃん」


「なんだ?」


「私がお兄ちゃんの分も含めて全部食べちゃうと太っちゃうかもじゃない? だから、甘いのを我慢してお兄ちゃんも食べて……?」


 優梨は、自分が使っていたフォークでケーキをすくい、俺の口元まて運んでくる。


「家でならまだしも、人前でやんのは恥ずくないか?」


「どこでやっても同じじゃないかな。私たち2人の世界にほかの人間は関係ない、でしょ?」


「そりゃそうなんだが……」


「だめ……?」


 優梨はテーブルの上に身を乗り出し、大きな瞳を滲ませて、上目遣いでせがんできた。


「……」


「だめなの……?」


 はぁ……あざとく見えても、可愛いもんは可愛いだよなあ。


「……はよ、食わせろ」


「んふーはい、あーん」


「あーんんん」


「どう?」


「甘くて美味しい」


 使用済みフォークを通しての間接キス。優梨の唾液も相まって、とてつもなく甘く感じられた。


「それはよかった。……私ね、恋人になって初めてのデート、すごく幸せだよ」


「学校帰りに行ったのはまだ告白前だったし、今回が本当の初めてってことになるのか。……お、俺もスゲェ幸せだ」


「私をデートに誘ってくれてありがとう、お兄ちゃんっ」


「いや、俺は――」


「ちゅっ」


 テーブルの上に身を乗り出したまま、俺の唇にキスをする優梨。苺よりも甘くて柔らかい、恋人同士のキス。

 しかし、誰が見ているのかもわからない店内でキスをするのは駄目だと距離を置こうとするが、


「誰も見てないから気にしなくていいよ、んれろ……お兄ちゃぁんっ、んむっ……」


「ん……!?」


 優梨の舌が俺の口内に侵入する。口内に残っていたクリームを舐めとり、歯茎に挟まった苺を吸いとっていく。

 口内に垂れ落ちる唾液の甘さに脳が蕩ける。そのあまりの甘さに思考が鈍くなり、人目があるにもかかわらず、妹――恋人を独り占めしたいという欲求に襲われる。


 俺が優梨のことを愛していたとしても、俺たち兄妹の関係は許されるべきものではない。


 米倉 紬――多知川 蚕が俺たちの幸せを阻む。


「んっ、んん、えへへ……!」


「ん、うむ、んぅ……」


「んぷはぁ……んふーお兄ちゃんも積極的になったね」


「まあ、な」


 だからこそ、俺たち兄妹にどんな試練が待ち構えていようとも、乗り越えなくてはならない!

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