第三十三話 魔法授業 その一
会話形式の設定説明会。今回は魔法の仕組みについてです。
なお後書きに今話のまとめがあります。
追記)魔法授業話が想定外に長引いたのでタイトル変更しました。
基本的に魔法関連の設定+日常会話的内容になります。
興味のない方は数話ほど読み飛ばして頂いても物語上、さして支障はありません。
八月も半ばを過ぎた晴天のある日。
俺たちは中庭にいた。
この場にいるのは、俺、レナ、織羽、キャルの四人。
そのうちキャルを除いた三人が胡床に座っている。
そしてキャルは俺たちと向かい合うようにして、少し離れた所に立っていた。
この場所・この面子で何をしているのかと言えば。
キャル先生主催、記念すべき第一回目の青空魔法教室である。
俺はともかく、レナと織羽が参加しているのはなぜか。
レナは先日の騒動で力不足を痛感した事が理由らしい。人間族の魔法を覚えるのはエルフとしては矜持的に好ましくないそうだが、選り好みしてはいられないとの事。
織羽は単に俺と一緒に居たいだけだ。最近、何をするにも俺にべったりなのである。知り合ってまだ一月ほどなのに、えらく懐かれてしまった。
なお織羽の中原共通語は片言程度なら会話ができるレベルに達しており、その習得速度は目覚しいものがある。若いって凄い。
「はいはーい。授業始めちゃうよー。みんな拍手ー! は、別にしなくていいから静かに話を聞いててねっ☆」
キャルのくだらないフェイントに引っかかり、拍手しようと動かした手を寸でで止める。
左右を見ればレナと織羽も俺と似たような状態で停止していた。
開幕から小学生みたいな真似すんな!
俺とレナが白い目を向けるも、キャルが気にした様子はない。
唯一織羽にはウケたようで「そんな引っ掛けが!」みたいな感心した表情を浮かべている。
織羽が影響を受けないといいんだが。
一度からかって満足したのか、心もち表情を引き締めたキャルが話し始める。
「それじゃ、基本的なところから説明するねー」
いよいよ授業開始だ。
俺は傾聴すべく姿勢を正す。
「まず魔法という技術には性質の異なる二つの系統があるの。一つは《属性魔法》。これは森羅万象に干渉して事象を改変する技術。もう一つは《信仰魔法》。これは神々から力を借りて奇跡を起こす魔法ね」
ふむふむ。
単語のイメージからすると、属性魔法が黒魔法、信仰魔法が白魔法って感じか。
「あたしが教えられるのはこの二つのうち、属性魔法の方ね。信仰魔法は専門外なので無理。あっちは基本、教会の秘儀だから。聖職者にならないと教えてもらえないの。まぁ契約魔法のような例外もあるけどねー」
ほうほう。
信仰魔法は聖職者にのみ許された魔法か。まあらしいと言えばらしい。単語的に信仰心がないと使えないっぽいし。
あと教会が聖職者以外に教えないのは既得権益が理由だろう。
だとしたら覚えられる機会はそうないだろうなあ。残念だ。
アプロデウスに聞けば教えてくれるかな?
奴の信者になりたいかと聞かれれば微妙なところだが、回復魔法は使えると便利だし。
「ちなみに契約魔法は信仰魔法の一種だけど、これは聖職者じゃなくても使えるし、覚えるのも比較的簡単だよ。ただ悪用され易い魔法だから、教える相手を厳しく選んだり、悪用しないよう契約で縛ってから教えたりするのが普通かな」
「そういえばキャルも契約魔法を使えたよね?」
俺が訊ねると、キャルは頷いた。
「うん。あたしの場合は実家の関係でねー。強引に覚えさせられたというか。だから教えてあげられはするけど、さすがに資格証は発行できないからね。覚えるのは違法じゃないけど、使うと罰せられちゃうよ?」
へー、資格制なのか。
まあ確かに悪用しやすそうな魔法だもんなあ。
無条件で教えたり、使わせたりはできないか。
「もし使ってもバレなきゃ大丈夫?」
「おっ、イオ君ってばワルだねっ☆ でもその通り、バレなきゃ平気。ましてイオ君は権力者側だし、いくらでも使えばいいと思うよ。契約魔法を悪用してる悪徳貴族や商人なんて、多分いっぱいいると思うしねー」
さすがはキャル、俺を窘めるどころか平然と乗ってきた。
話しやすくて助かるけど。
しかしここには……
「ちょっとキャル、イオに悪事を吹き込まないで。イオも悪い事を考えちゃダメなんだからねっ!」
超良識人のレナがいるのである。
しかもレナって奴隷制をかなり嫌悪してるからなあ。それに関係する契約魔法もその対象になってそうだ。
レナの好感度を考えるなら、習得は諦めた方が無難かもしれない。
「ふーん、そお? でもイオ君って貴族の跡継ぎだし、立場的にも覚えておいた方が今後のためになると思うけど? 違法がダメと言うなら、お金を積めば資格証なんてどうとでもなるし」
「うぐ。そ、それは……確かにそうかもしれないけど……」
しかしレナの掣肘はキャルには響かなかったようだ。
逆に理路整然とした利を説かれて反撃される。
対するレナは効果的な反論が思いつかないのか、口をもごもごさせて気勢を失った。
俺は内心でため息を吐く。
キャルの言ってる事はもっともなんだが、これは論点のすり替えである。レナは善悪を論じたのであって、合理性を問題にした訳ではないのだから。
レナの面子を潰さぬ為にも、ここは元凶の俺が取り成すべきだな。
「まあまあ二人とも、それくらいで。それと心配させてごめんね、レナ。キャルにはちょっとした興味本位で聞いただけだから。悪い事をするつもりはないから安心して」
特定部分を強調して言うと、レナはハッとして表情を変えた。
俺の狙い通り、リーンの詭弁に気付いたらしい。
レナは恨めしげな顔でキャルを睨む。
「むぅ、イオ君ってば先輩の味方かぁ。ちょっと妬けちゃうなー。まぁイオ君の本命っぽいし、仕方ないね」
キャルは残念そうな表情をして、露骨にがっくりと肩を落とした。
ちなみに先輩とはレナに対する呼び名である。教育係の先輩だかららしい。
なお他の人は、織羽=おりりん、リーン=そのまま、母さん=シャル様、となる。
関係性というか、親密さとか敬意の程度が推し量れる呼び名だ。
レナの場合は親密さ・敬意ともにほどほどってトコかな?
それはそうと、さりげなく〝本命〟とか暴露しないで欲しい。
他の女の肩を持った意趣返しという訳か?
おのれキャルめ。
ほら、レナがこっちを向いて「そうなの?」って目で訊いてきてるじゃん。
迷惑とか嫌そうな顔はしてない事が救いだな。
「? 何、レナ?」
ここは必殺、知らないふり!
俺は意識的にきょとんとした顔を作り、首を傾げて見せた。
フハハ、俺は色恋沙汰など何もわからぬ無垢な幼児なのだ!
「う、ううん。ごめんなさい、何でもないわ」
レナは心なしか落胆したような様子で、首を横に振った。
アレ、もしかして結構脈ありだった……?
ま、まあいいか。
ともあれ今回は騙せたようだ。……いや、騙されてくれたという可能性もあるか。
いずれにせよ突っ込むべきではないだろう。
「あ、うん。わかった」
無難に答えて正面を向くと、キャルがニヤニヤしてこちらを見ていた。
「イオ君はヘタレだなー」とか考えてそうな顔をしている。
くっ、この恋愛テロリストの愉快犯め。いつか覚えてろ。
「話を戻すよー。次は魔法を使うために必要とされる〝魔力〟について説明するね」
おっ、今度は魔力か。
魔法と言えば魔力。ファンタジーのお約束だな。
キャルの切り替えの早さに鼻白みつつも、次の言葉に耳を傾ける。
「魔力の正体は〝星気と霊気の混合体〟。性質面から言うなら〝属性が付与された星気〟。ちなみに属性魔法と呼ばれてる所以がそれね」
えーつまり、魔力=星気+霊気で。魔力の性質=星気+属性か。
霊気は何となくわかるが、星気ってのは初耳だ。
「あ、属性について説明いる?」
「お願いします」
俺は頷いた。
属性が何なのか、大体の想像はつく。だが念のため聞いておいた方がいいだろう。
「あいあい。えっとー、属性というのは森羅万象を司る元素の事ね。火とか水とかあーゆーの。全部で八つあって、光・闇・火・風・土・雷・木・水。あと属性には相性があって、魔法を使って戦ったりする場合には重要になるんだー。このへんは先輩も詳しいかな?」
ね? という視線をレナに向けるキャル。
レナは軽く頷いて話し出す。
「火は風によって燃え広がり、風は土石を風化させ、土は雷に動じず、雷は木を灼き、木は水を吸い上げ、水は火を鎮める。光は影を駆逐するも、闇の深淵には届かない。エルフではそのように語られているわ」
「へぇ、さすがはエルフ。詩的な表現だねー」
キャルの物言いに、レナがムッとした表情をする。揶揄されたように感じたのだろう。
「でもそれだとちょっと不十分かな。先輩が語ったのは精霊同士の親和性を基にした話だと思うけど、実際はもっと複雑なの。例えば火だって木を燃やすし、風は水を巻き上げたりもできる。属性魔法における相性って、すごく現実的なものなんだ」
「なるほど……」
レナの語った法則は精霊魔法における有利不利で、属性魔法の相性は現実の自然現象に準拠する、という事か。
属性関係の話を纏めると。
属性の種類は八つで、光・闇・火・風・土・雷・木・水。
属性相性は《火⇒風⇒土⇒雷⇒木⇒水⇒火》。光と闇は相克関係(お互いが弱点)。
ただしこれは精霊的な相性で、属性魔法の場合はもっと現実的。
こんなところか。
「属性の話はとりあえずこれくらいで。何か質問ある?」
俺は首を振った。レナからも声はあがらない。
ふと織羽の方を見てみると、退屈を我慢しているような表情をしている。
日常会話程度なら多少理解できるが、専門的な単語が飛び交う話になるとついていけないのだろう。
後で俺から授業内容をレクチャーしてやるか。
「次は星気について説明するねー」
お、気になってた単語の話だな。
集中集中。
「星気というのは、自然物に宿っている霊的エネルギーでね。魔法学的には〝無属性魔力〟と言った方が解りやすいかも。で、霊気というのが、魂から生み出される霊的エネルギー。こっちは霊力という呼び方もあるよ」
んーちと理解が正しいか怪しいが。
木石や大気などに宿っている霊的エネルギー=星気。
魂というか生命体が生み出す霊的エネルギー=霊気。
といった感じか?
「さて、ここまでの説明である程度想像できたと思うけど。魔力を生み出す為には、周囲から星気を体内に取り込み、自分の霊気と混ぜ合わせるという作業が必要になってくるの。しかもただ混ぜるんじゃなくて、属性という方向性を与えないといけないから、慣れないうちはちょっと面倒なんだ。逆に慣れてくると体外でも生成できるようになるけどねー」
ふーむ。
ファンタジー作品でよくあるパターンだと、魔力自体は最初から体内にあって、それを自覚して操るみたいな感じなんだが。
この世界ではもう一手間、必要になるわけか。確かに面倒そうだ。
↓ 今回のまとめ
・魔法には種類がある。大別すると属性魔法・信仰魔法の二つ
・属性魔法は魔力によって現象改変する黒魔法的技術
・信仰魔法は神に祈る事で奇跡を起こす白魔法的技術
・キャルの専門は属性魔法。なお信仰魔法はほぼ聖職者専用
・契約魔法は信仰魔法の一種だが、例外的に一般人でも覚えられる
・魔力は星気と霊気の混合体。魔力の性質=星気+属性
・星気は木石や大気等に宿っている霊的エネルギー。無属性魔力とも言う
・霊気は魂を持つ生命体が生み出す霊的エネルギー。霊力とも言う
・魔力を生み出すには星気を体内に取り込み、己の霊気と混ぜ合わせるという作業が必要。上級者は体外でもその作業が可能
・属性魔法の属性種類は、光・闇・火・風・土・雷・木・水の八つ
・精霊には属性相性があり、火⇒風⇒土⇒雷⇒木⇒水⇒火、光⇔闇。属性魔法の相性はより現実的(自然現象の法則に基づく)。




