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神鳴る世界の転生者 -天壌無窮の英雄譚-  作者: 古葉鍵
第三章 出会いのイト
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第三十一話 HTT!(ほのぼのティータイム)


『あにさま、〝敗北〟の綴りはこれで正しいですか?』

『どれ……うん、大丈夫』

『ありがとうです。ではこうして……っと。できました! あにさま、この文章は合ってますか?』

『どれどれ……』


 織羽が差し出してきた紙を覗き込む。

 そこに書いてあったのは拙い中原共通語で綴られた一文。

 その内容を直訳すると〝織羽は 外出は 敗北だと思考する〟となる。


 …………。

 意味は通じる。教えたばかりでこれだけ書けるなら上出来だ。

 だが、なぜ最初に覚えて書いた文がこれなのだ?

 のっけから〝敗北〟とかあまり日用的ではない単語を習いたがったので、妙だと思っていたが……。

 筋金入りというか、徹底してるというか。引き篭もりアピールに余念がないな。


 ため息を吐きたくなる気持ちを抑えて織羽の方を見れば、わくわくと期待するような表情で俺の答えを待っている。

 くっ、突っ込みにくい。

 俺は日和った。


『ま、まあ良く書けてるよ。表現が少し固いけど、意味は通じるし。織羽は覚えるのが早いね』


 褒められた織羽はとても嬉しそうに表情を綻ばせた。かわいい。

 ちなみに最近は巫女服ではなく、洋服を着ている。今日は白のワンピースだ。やはり黒髪には白い服がよく似合う。清楚で無垢な感じが織羽のイメージにぴったりだ。


『えへへ、ありがとうございます。織羽の覚えが早いのは、きっとあにさまの教え方が上手なおかげです』


 素直に喜びつつも、謙虚に相手を持ち上げるのも忘れない。

 (一部を除いて)本当に出来た子や。

 よーしパパ頑張ってもっと教えちゃうぞー。

 俺はやる気になった。


『この調子でどんどん言葉を覚えてゆこう!』

『はい! 頑張りますね!』


 このあと滅茶苦茶勉強した(織羽が)。


 ……とまあ、こんな感じで織羽の語学学習はスタートした。


 最近、俺は毎日暇を見ては織羽の部屋に通い、親交を深めていた。

 時にはキャルや母さんなど他の面子を交えてお茶したりもしていたのだが。

 言葉に難があると、やはりコミュニケーションが大変で。会話中ずっと通訳を務めなければならない俺の負担は特に大きかった。

 また、俺以外の面々とも親しくなるにつれ、織羽はもっと気軽に自分の言葉で会話したいと思うようになったらしく。

 結果、こうして早々に勉強を開始する事になったのだった。


 余談だが、織羽とキャルは仲が良い。というか織羽がかなりキャルを慕っていると言うべきか。

 何でも、ザッカークの船に囚われてた頃、織羽が唯一心を許していた相手がキャルだったらしい。

 同情か同性としての誼か、何くれとなく面倒を見てくれたそうだ。

 キャル登用の件でも織羽は賛成派に回り、キャルの為人(ひととなり)を弁護してくれた。


 なお心を許せる人カテゴリにセイフはカウントされてないらしい。

 その事にちょっとホッとしたのは内緒だ。

 まあ良い人とは思われているのだろうが、大人の男でしかも厳ついから怖いんだろうな。髭面だし。

 先日、正式にエトランジェ家の従士として取り立てられたセイフと面を通した際も怖がってた。

 セイフの奴、ちょっと傷ついた顔してたな。


 セイフと言えば、彼の雇われ条件はほぼそのまま認められた。

 拘束期間の件だけは、次善案の方になったが。

 聞けばセイフの復讐対象は隣国の貴族らしい。それなら死のうが生きようが、エトランジェ家(ウチ)にとっては関係ない。

 多少なら助力してもいいだろうという結論が出た。

 さすがに表立っての支援や協力はできないが、情報収集程度なら問題ない。

 なので十年後以降に、時期を見てセイフに本懐を遂げさせる事にした。

 死なれては困るので、その際は可能な範囲でバックアップするつもりでいる。

 セイフとしてもありがたい話であったろう。後ろ盾ありで若いうちに挑む方が、勝算が高いに決まっているのだから。


 セイフの部下助命の件も、なんとか三人を減刑する事ができた。

 これについては、予想ほど首脳陣の反発は受けなかった。

 処刑(見せしめ)の為の人員が一定数確保できるなら、余剰人員を犯罪奴隷に落とすのはむしろ合理的だそうで。


 ちなみに犯罪奴隷には、契約魔法の効力を有した魔導具《隷従の首輪》が使われる。

 これは王族貴族や聖臨教会など支配層しか所有を許されてないが、悪用されて違法奴隷売買の原因にもなったりする。


 なお一般的な奴隷は、本人の同意が必要なタイプの契約魔法により成立する。

 これは奴隷以外の商取引などでもよく使われており、セイフとの雇用契約もこれを使って結ばれた。

 セイフ側の条件は前述の通りだが、エトランジェ家(ウチ)側から課したのは勤勉さと裏切り防止。

 彼が違反を犯した場合、最悪死で償ってもらう事になる。

 また、この件でキャルが契約魔法を使える事が明らかになり、地味に評価を上げた。


 余談が連鎖するが、キャルと言えば俺の魔法教師役に収まった。

 これは彼女が申し出たのではなく、俺が提案した結果だ。

 キャルを受け入れると決めた際に考え付いた案だった。

 レナいわく、上級魔導士って結構稀少というか、凄いらしい。特にキャルほどの若さでその域に至れるのは天才だと褒めていた。

 リーンもリーンで「私と戦った時は手加減していたのだな」なんて悔しそうにしてたし。

 もっともキャルは「船上で上級魔法なんて使ったら船が壊れちゃう」と手加減を否定してたが。

 全力でなかったのは事実みたいなので、微妙に慰めになってない気がする。


 ともあれ、そんなわけで魔法習得に目処が立った。実に喜ばしい。

 なお授業はまだ始まっておらず、レナやリーンと習い事の時間割調整や学習計画を立てている段階である。




 語学の学習時間が終わり、一息つく。

 俺はレナの淹れてくれた紅茶を啜りながら、初授業の内容を反芻する。

 織羽は教えた事をすぐに理解し、覚えも早かった。教師としては実に教え甲斐のある優秀な生徒と言えよう。

 要領と記憶力が良いのか、それとも幼いゆえの吸収力か。たぶん両方だろうな。

 にわか教師とはいえ、俺もそれなりに手際良く教えられたと思う。

 まあ傍目には幼児が幼児に講釈をする、おままごとのような授業に見えたかもしれんが。


 しばらく三人でティータイムを楽しんでいると、来客があった。

 部屋を訪れたのは母さん、リーン、キャルの三人。

 アポなしの訪問である。用件を聞けば、政務の休憩がてら俺たちの様子を見に来たという。ついでに少しお茶とお話がしたいとの事。

 特に断る理由もないので受け入れる。

 こうしてエトランジェ家の幹部全員が揃ったお茶会が始まった。


 テーブルを囲む面子の席並びは、俺の両脇にレナとリーン。向かいにキャル、織羽、母さんといった配置である。

 無作為に座った結果ではなく、織羽に配慮した形だ。


 俺の通訳によって意思疎通が可能になった後、織羽はすぐに母さんに懐いた。

 これは必然の成り行きだったと思う。

 織羽はまだ母を求める年頃であるし、母さんも母性が強い人だからな。「お母さんも娘が出来て嬉しいわ~」と喜ぶくらいには織羽の事を気に入ってるようだ。


 そんなわけで、織羽は大好きな母さんとキャルに挟まれてご満悦の表情だ。それを見た俺の心もほっこりする。まったく幼女は最高だぜ。


 そうそう、母さんとキャルと言えば。

 紛糾すると覚悟していたキャル登用の件を、母さんは全く反対せず受け入れた。母さんの大らかさを知っている俺でも、さすがに不用心すぎではと思ったほどあっさりとだ。


 当然、キャルの事情については説明した。将来的に帝国と事を構える予測も含めてだ。

 しかし母さんはいつもの「あらあらまあまあ」みたいな反応で、さほど衝撃を受けた様子はなかった。

 キャルが帝国の皇女だという部分に多少驚いたようだが、それだけだ。


 一方、リーンは明確に反対した。俺や母さんに従順な彼女にしては珍しく、断固として認められないという感じだったな。

 まあ彼女の職務や立場、性格からすればそれも当然ではある。

 キャルを紹介した俺も、横紙破りが過ぎるとの自覚はあったし。

 しかしそんなリーンを母さんが説得した。


 帝国との関係がある以上、キャルを雇おうが罪人として抑留しようが軋轢は生じる。

 かといって放逐して帝国に戻られたら、今回の一件と俺の情報があちらに伝わる。

 つまり、いずれを選んでも、帝国がその気ならどのみちちょっかいを出してくる。

 死罪にして口を塞ぐという非情手段もあるが、先々の事を考えるとリスクが高すぎる。

 それならキャルを登用するのが最も合理的だ。事が露見するまでの時間を稼ぎ、帝国の情報を得る事ができるのだから。

 後々国際問題に発展しても、キャルが有能だから免罪の見返りに働かせていただけと言い訳できる。キャルにしても、エトランジェ家に潜入して諜報活動をしていた事にすれば、未帰還の理由が立つ。


 こういった趣旨の話を述べて、リーンを言い包めてしまった。

 さすが母さんと言うか、政治家とはかくあるべきかと感心した。

 理路整然とした弁論術もそうだが、何より徹底した合理主義で判断する所にだ。


 閑話休題。

 レナの淹れてくれたお茶が全員に行き渡り、お茶会が始まった。

 ちなみにお茶菓子はレナお手製のクッキー。砕かれたナッツ入りで食感が良く、とても美味しいおやつだ。

 (大人)の好みに合わせて甘さ控えめなので、織羽にはちょっと物足りないかもしれないが。


「織羽ちゃんはここでの生活に少しは慣れたかしら~?」


 最初に発言したのは母さんだった。

 ニコニコしながら、隣に座る織羽に視線を向ける。


『はいです。みんな優しいですし生活に不自由もありません。織羽は今、とても幸せです』

「そう、それなら良かったわ~」


 俺が通訳すると、母さんは織羽の頭を優しい手つきで撫でながらそう言った。

 織羽は「ふわ……」と小声を漏らし、心地良さそうにそれを受け入れる。

 母さんはしばらく撫でてから手を引き、織羽に再び話しかける。


「ねぇ、織羽ちゃん」

『はい?』


 ナデナデが止まって一瞬残念そうな表情をした織羽が、母さんに顔を向ける。


「ここでの暮らしを気に入ってくれたのなら、いっそウチの子になってみるというのはどうかしら~?」

『……ウチの子、ですか?』


 砕けた言葉だったせいか、意図がうまく伝わらなかったようだ。

 織羽はきょとんとして首を傾げた。


 ま、いきなりじゃ無理もないか。

 俺は苦笑しつつ織羽に説明する。


『簡単に言えば、この家の養子にならないかってお誘いだよ』

『えっ……ええええっ!?』


 織羽は数秒ほどポカンと口を開け、それから驚愕の声をあげた。


『そそそんな事って……でも……もし織羽が養子になんてなったら、きっといつかみんなに迷惑をかけてしまいます……』


 最初は顔に喜色を浮かべたものの、すぐに暗く沈んだ表情で俯く織羽。

 どうやら彼女のトラウマかコンプレックスを刺激してしまったようだ。

 養子の話自体は好感触のようだが。


『それは、祝福の力があるから?』

『……それも、あるです。織羽を生んで、ははさま(母様)は命を落としました。そしてあねさまからは、ととさま(父様)の期待と巫女の立場を奪ってしまいました。織羽は家族を不幸にしてしまう、罪深い人間なのです』


 沈鬱な声と口調で語られた織羽の告白を聞き、俺は事情をある程度察する事ができた。


 自分を産んだせいで母が死んだ。その事実は織羽の心に一生消えない傷を刻んだ事だろう。俺もある意味似た境遇にあるから、その苦しみは理解できる。

 しかしこれは、織羽に責任がある事ではない。

 その道理を家族が理解し、きちんと心のケアをしてやれば良かった。そうすればここまでトラウマを重症化させる事はなかった筈だ。


 だが残念ながら、そうはならなかったのだ。

 織羽に立場と期待を奪われた姉は、きっと強く妹を恨んのだ。母親を失った件もあって、なおさら織羽に辛く当たった可能性が高い。慰めるどころか「母が死んだのはお前のせいだ」くらいは言ったかもしれない。だとしたら酷い姉だが、まあ同情の余地はある。


 父親も父親で問題ありのようだ。

 姉妹の不和を改善するどころか悪化させてる。高位の貴族らしいし、家庭を顧みないタイプの親なのかもしれない。

 あるいは織羽()の力に舞い上がるあまり、状況が見えてなかったか。どちらもありそうだな。


 さて、どんな風に声をかけるべきか。


『大丈夫。僕や母さんは織羽と一緒にいられて幸せだから。祝福の事も気にしなくていい。こう言っちゃ何だけど、僕の方がよっぽど問題児だからね。僕の影に隠れてしまって、織羽は大して目立たなくなるよ』


 少しおどけ気味に言うと、織羽は目を丸くした。


『そうなのですか?』

『うん。こないださ、八大神の話をしたよね。覚えてる?』

『あ、はい。天神様と同格の、とても偉い神様たちの事ですよね』

『そうそう、それね。自慢じゃないけど、僕はその神々の半数から祝福と加護を得ている。だから一つだけの織羽より僕の方が色々と目立つんだ。良くも悪くもね』


 正確には半数ではないが、千鳥は加護代わりらしいからカウントしても問題ないだろう。

 ちなみに千鳥は勉強の邪魔になりそうだからと俺の部屋で留守番中である。


 俺の言葉を聞いた織羽は少し困ったように笑った。

 あれ? 多少なりとも驚くと思ったんだが……


『ありがとうです、あにさま。織羽を慰めてくれるのですね』


 どうやら子供の嘘と思われたようだ。

 ま、確かに自分と同レベルの祝福加護を四つも持ってると言われても、容易には信じられんか。

 最高神の使徒の稀少さについては、故郷で習っただろうしな。


『言っとくけど、嘘じゃないよ? まあどれも織羽みたいに派手な能力じゃないから、はっきり証明するのは難しいけどね』


 苦笑しつつ説明すると、多少は信じる気になったようだ。疑わしげな表情で聞いてくる。


『まさか、本当に……?』

『本当だってば。あー、そうだ。千鳥いるでしょ? あの子は僕が天神様から授かった加護だから。雷皇鳥って言う名の神獣なんだけど、その雛ね』

『雷皇鳥……? あっ。まさか……雷帝金翅鳥の事ですか?』


 おや、さすがにご存知のようだ。

 最初は首を傾げたものの、すぐに思い当たったようだ。驚きで目を丸くする。


 雷帝金翅鳥って確か、東方圏での呼び名だったか。

 織羽の故郷は極東の島国だとキャルから聞いてはいたが……地理といい文化といい、ホント日本っぽいよなあ。


『そそ。まあ、今の千鳥の姿を見てもそうだとは思えないだろうけどね』

『ほえぇ……びっくり仰天です……ちーちゃんが神獣様だったなんて……織羽、すごく罰当たりな事をしてしまった気がします』


 なおちーちゃんとは織羽が千鳥に付けた愛称である。


『あはは、それは気にしなくていいよ。織羽に可愛がってもらって、千鳥も喜んでるみたいだし。これからもそうしてやって』

『は、はい……あにさまがそう仰るなら……』


 信仰対象に近い存在がぞんざいな扱いを受けてるせいか、了承しつつも織羽は複雑な表情だ。


『ともかくそういう訳だから、織羽はそんなに気負わなくていいんだよ。子供は子供らしく、余計な心配はせずに自分の心に素直であればいい。……それとも織羽は、僕と兄妹になりたくない? 僕たちと一緒に暮らすのは嫌?』


 わざと悲しそうな顔を作って問うと、織羽は慌ててぶんぶんと首を横に振る。


『そっ、そんな事はないです! 織羽はあにさまの事も、みんなの事も大好きです! だから……だから織羽は……』


 本当に言っていいのか、自分の望みを叶えていいのか。そんな迷いと躊躇いが織羽の顔に浮かび、声が途切れる。

 もう一押しだな。


『僕は織羽に義妹(いもうと)になって欲しい。側に居て欲しいんだ。皆もそれを望んでいる。僕らも織羽の事が大好きなんだよ』

『あぅ……』


 直球すぎる台詞だったせいか、織羽は顔を赤らめて俯いた。

 だが、これでいい。

 自分はいらない子、家族を不幸にする人間。そんな思い込みを行動や態度で否定してやる事が織羽の救いとなる。


『さぁ織羽、君の願いを聞かせてくれ。織羽は、どうしたい?』

『……織羽も……あ、あにさまの妹になりたい、です』


 蚊が鳴くような声での返事だったが、確かに聞いた。織羽の心からの希望(望み)を。


 俺は織羽に微笑みかける。


『良かった。じゃあ今日この時から僕らは兄妹で家族だ。これからもっと仲良くなって、助け合いながら生きていこう』

『……はい!』


 輝くような笑顔で、織羽は力強く頷いた。


織羽との会話は基本イオがリアルタイムで通訳していると考えて頂けると。

地の文でいちいち「織羽の言葉を通訳すると~」みたいな説明を入れると、くどい上にテンポが悪くなるもので。

ただ話後半のイオと織羽が一対一で喋ってるところは通訳なしの会話になります。

どこが通訳有で無しかちょっと解りにくいですが、そこは文脈と場の空気から判断していただければと……(丸投げ)

織羽がチョロイン? 幼児だから仕方ないよね!


読んでいただきありがとうございます。

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