第二十七話 それは伝説の……
「ぅ?」
全身にビリッとした刺激を受け、目が覚める。
視界は真っ暗。
ベッドの天蓋の輪郭が薄ぼんやりと見えるが、ディティールまではわからない。
……まだ真夜中か。
俺は眠気に耐えながら、胸中でひとりごちた。
寝起きの良い俺でも、睡眠時間が足りなければさすがにきつい。
だがこのまま二度寝するわけにはいかない。
なぜなら、窓の外からお客様がいらっしゃったからだ。
俺は上半身を起こし、雷精の反応があった窓の方へ視線を向ける。
こちらの行動に気付いたのか、侵入者はピタリと身動きを止めた。
「……あれぇ、起こしちゃった?」
暗闇の先から、侵入者のものと思しき声が発せられた。
声色からすると、若い女性のようだ。
レーダーによって把握した侵入者の姿からもそれが判る。
レナと同程度の身長に華奢な体格。ただ頭のてっぺんに長い何かが二本付いている。なんだろう?
「ええまあ。僕、寝起きが良いのが自慢でして。……それで、こんな夜更けにどういったご用件でしょうか、お姉さん?」
「……ふーん、驚かないんだ? あたしの侵入に気付いた事もそうだけどぉ、すごいねーイオ君」
わずかな沈黙の後、侵入者が感心したように言った。
口調が軽いせいかあまり褒められたような気はしないが。
名前も知られているようだ。
この部屋に侵入して来た事といい、目的は俺の暗殺か拉致?
「お姉さんこそ、侵入がバレたのに落ち着いてますね。僕が大声を出して人を呼ぶとか考えないんですか?」
「んー、あんまり? そうなっても、誰か来る前にイオ君を首チョンパして逃げるくらいできるしぃ。試してみる?」
侵入者の挑発じみた発言にカチンと来る。
それはこっちの台詞だ。
今すぐ丸焦げにしてやろうか?
などの好戦的な台詞が喉まで出かかったが、何とか飲み込む。
短慮は良くない。
俺は出来るだけ穏便な言い回しで答える。
「好んで試したいとは思いませんよ。ですが、この部屋には僕の結界が敷いてあります。よって僕に危害を加えようとする者には自動的に反応し迎撃します。こんな風にね」
侵入者に見えるよう人差し指を立て、その先から軽く電気を放つ。
パチッと紫電が弾け、部屋の中を刹那明るくする。
その際見えた侵入者は、やはり若い女性の姿をしていた。
しかもかなりの美人、いや美少女に見えた。
なお頭には兎耳らしきものも生えてるし。獣人族?
不謹慎だが、オラちょっとわくわくしてきたぞ!
ちなみに結界云々については全て事実である。
最近色々あったので、念のため雷精を部屋の内外に展開させて就寝する事にしたのだ。
俺が侵入者に気付いたのもそのおかげ。
部屋のドアや窓などに誰かが触れた場合、俺の体にごく軽い電撃が流れて目が覚めるようにしてあった。(電撃耐性は自発意思で解除できる)
仮に俺が起きなくとも、侵入者が俺に一定以上近づいた時点で自動迎撃が発動する。
そんなわけで、この部屋にいる限り俺はほぼ安全なのだ。
ホント、雷精さんは頼りになるぜ。
「へぇ……てことはぁ、あたしの侵入を予想してたんだ?」
侵入者の声が先ほどより低い。警戒心を強めたか。
「まぁそうですね。あんな事があったばかりなので、用心はしてました」
実際はそこまで深い考えや確信があったわけではない。
ザッカークの死体は上がらなかったし、リーンから残党の傭兵が逃げたとも聞いていたので、万が一に備えていた程度だ。
傭兵の名前は確か……キャルリアだったか?
鑑定で調べてみよう。
というか、侵入された直後に鑑定をかけるべきだったな。
寝起きで頭がボケていたらしい。
自分は安全と思っての油断もあったか。
我ながら度し難い失態だ。
また死にたくなければしっかりしろ、俺!
深く反省しつつ、天理浄眼を発動させる。
《種族》人種・獣人耳族 人間族系混血
《名称》キャルリア・サラギット
《性別》♀
《年齢》一七
《霊格》二三二
《強度》八八
《祝福》狡兎神テイナヴァ《狡兔三窟》
《称号》首狩り兎
《状態》
やはり本人だったか。
獣人という見立ても当たっている。耳族とは……兎系?
混血との表記があるが、ハーフってことか?
いや、その辺の考察は後にしよう。
肝心の実力は……うん、普通に強い。
うちの首脳陣と較べて遜色のない霊格にレナより高い構成強度。
リーンいわく魔導士系暗殺者らしいから、なるほどこれはと思えるスペックだ。
若いだけに成長の余地はまだまだあるだろうが、能力的には完成していると見るべきだろう。
さらに祝福まで持っている。
その内容は気配隠蔽能力向上、知能向上、知覚能力向上。心がぴょんぴょんしそうな名称とは裏腹に、かなり危険で有用な祝福だ。
どこの最高神格の祝福かと疑うほどの高性能ぶりだが、デメリットもある。
それは常時精神的負荷増大。具体的には、恐怖、憎悪、悲しみ、苛立ちといった負の感情を過剰に受けるというもの。普通に生きてるだけでストレスがマッハになりそうだ。
まだ若いのに能力が成熟してたり、暗殺者なのに性格が軽そうだったりするのはこの祝福のせいかもしれないな。
最後に称号。
これが一番ヤヴァイ。
首狩り兎て。魔導士だけにリアルボーパルバニーってか?
物騒すぎるわ。
「そっか~、うんうん。用心深いのは良い事だねー」
人を食ったような反応、とでも言えばいいのか。
相変わらずの軽いノリで俺を褒めるキャルリア。
状況の不利を知ってもなお、余裕は崩れない。
底知れない女だ。
とりあえず目的を聞き出してから電撃で気絶させるか。
「そうですね、僕もそう思いますよ。ところで、本日ここにいらしたのはどういったご用件で?」
「あっ、それ聞いちゃう? イオ君のエッチ!」
「え、えぇー……」
イミフな言い草に俺は唖然とした。
ホント調子狂うな。
油断させるための擬態や演技という感じでもないし。
「でも他ならぬイオ君のお願いだから教えてあげる」
「そ、それはどうも……」
いつの間にか俺がお願いした事になってる。しかも妙に親しげだ。
ハッ、まさか俺を篭絡しようと!?
……って、流石にそれはないわ。
七歳の幼児を誘惑とか正気を疑うレベルだし。
「実はあたし、イオ君に夜這いをかけに来たの!」
「……は?」
今なんつったこのアマ。言うに事かいて夜這いだと?
大歓迎です!
いやまてこれはヤツの狡猾な策略。孔明の罠だ。
冷静になって対応しろ。ビークールビークール。
……よし、落ち着い
「あたしの初めて、もらってくれる?」
「!?」
なん……だと……
この女はまさか、薄い本の中にのみ存在するという伝説の……
処女ビッチでは!?
「うふふ、イオ君ってやっぱりエッチだー。動揺したって事は知ってるんでしょ? イオ君が今、何を想像したのかお姉さん知りたいなぁ」
「ななな何を仰っておられるのか当方には皆目見当がつきかねる次第ですはい」
「ふーん、本当に?」
疑わしいというより、面白がるようなキャルリアの声。
完全に遊ばれている。
というか、まんまと彼女の企みに乗せられてしまった。
精神年齢的に年下の少女に弄ばれるとは、情けないぞ俺。
「ま、いっか。どうせすぐにわかるから」
そう言って、キャルリアは「くふふ」と小悪魔的に笑う。
暗闇越しに伝わって来る妖艶な雰囲気に当てられ、思わずごくりと唾を飲んだ。
「そ、それはどういった意味で……?」
「もちろん、これからイケナイ事をするって意味だよ?」
「マジすか」
「マジでーす」
回答が直球すぎる。というか軽すぎる。
いや言動はともかく、本気かコイツ。
どう見ても精通すら来てない幼児を相手にしようなど、ショタコン通り越してペドだろ。おまわりさんこちらです。
キャルリアの頭の中身を疑っていると、ついに彼女が行動に出た。
何の恐れも感じてないかのように、すたすたとこちらへ近づいて来る。
「動くな!」
焦りからつい大声になって警告すると、キャルリアは素直に足を止めた。
そして、
「あたしの事が怖いなら、攻撃しちゃってもいいよ? その時はあたしの見込み違いだったって諦めるから」
今までにない真摯さを帯びた口調で、思わせぶりに言った。
「なに、を……」
「あたしの気持ち、受け止めて」
一方的にそう告げて、再び歩きだすキャルリア。
「待て!」
「待たない」
俺の制止をキャルリアはきっぱりと拒否した。当然、歩みも止めようとはしない。
馬鹿な、何を考えている?
攻撃されるはずがないと高を括っているのか?
いや、奴の思惑などどうでもいい。騙されるな。
あんな危険人物に接近を許したら、何をされるかわかったもんじゃない。攻撃すべきだ。
何も殺すわけじゃない。気絶させるだけだ。事情など捕縛してからゆっくり訊けばいい。
心の天秤が攻撃に傾く。
しかし、至近距離まで近づいたキャルリアの顔を見た瞬間、そんな考えは吹き飛んだ。
彼女は、泣いていた。
結局、迷って何もできないうちにキャルリアの最接近を許してしまった。
彼女はベッドの横に立ち、無表情で俺を見下ろしている。
男は女の涙に勝てないというが、これはまさにそれだな。
暗殺者で、危険な女だと判っていたのにこのザマとは。
つまり俺には覚悟が足りなかったんだろう。敵であれば子供でも女でも攻撃するという覚悟が。
まあいいか。
ゼロ距離であっても俺の絶対有利は変わらない。復活の加護もあるしな。
ならばこのまま流れに身を任せるのも悪くはない。
もうどうにでもなぁーれ、だ。
やや不自然かもしれませんが、長くなったので切りました。
タイトルは相変わらずしょーもないネタに走ってます。てへぺろ。
それにしてもいいですよね処女ビッチ。大好きです。
伏字(処○とかビ○チ等)にすべきか迷いましたが、とりあえずそのままで。教育的指導が入ったら修正します。
なおこの表現に特定女性を誹謗したり差別する意図はありません。あくまでネタで使っているだけです。気分を害した方がおられましたら申し訳ありません。




