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第2章 センリュオウジュの下で *5*


 普段と変わらぬ朝を迎えたはずだった。

 フウりは不思議な夢を見たせいか、気持ちが少し落ち着かなかったが、いつもどおりに手早く身支度を整えていった。が、刀の稽古へ向かおうとした時、毎日、玄関先で見送ってくれるシャラが起きてこないことに気がついた。

「昨日久々に出歩いたから、その疲れが出たのか……?」

 今日はゆっくり休ませてあげようと思いつつ、そっと様子を覗こうとした瞬間――扉が室の内側から唐突に押し開かれた。

「わぁっ! ガセツ?」

 飛び出してきた白狼に体当たりされる形になったフウリは、(こら)えきれずに尻餅をつき、それからすぐに室の中に視線を巡らせ、目を見開いた。

「シャラっ!?」

 疲れて眠っているのだとばかり思っていた彼女は、寝台の上で苦しげに身体を折り曲げていた。

 どうやら、守獣であるガセツはそれを知らせようと飛び出してきたらしい。

 フウリはすぐさまシャラに駆け寄った。

「シャラ、どうしたんだっ? どこか痛むのかっ?」

 その声に気付いて、わずかに開かれた瞳は熱に浮かされたように(うる)んでいる。まさかと思い、彼女の額に手を当てれば、ひどく熱く、びっしりと汗が滲んでいた。

 と、シャラは服の胸元をぎゅっと握りしめ、何かをこらえるように首を振ると、かすれた声を出した。

「……いやっ……村が……人が……あつ……い……」

「村が? 人がどうしたんだっ?」

 慌てて問い返し、そこでようやくフウリは、これが予知夢のもたらしたものだと思い至る。

 こうなったらもう、落ち着くまで待つしかない。予知夢で彼女が感じてしまった何かの痛みや苦しみは、代わってあげることはできないのだ。

「シャラ、しっかり! 大丈夫、それは夢だから! ほら、ゆっくり息を吐いて……」

「……――が、消えちゃう! いやっ……いやぁ――っ!!」

「シャラっ!」

 フウリがなだめようとしたのも空しく、シャラは泣き叫びながら気を失ってしまった。

 そこへ、騒ぎを聞きつけた長老エミナが、ガセツに誘導されるようにして、ゆっくりと室に入ってきた。

 彼女は目が見えないのをガセツの尻尾を握ることで補い、それだけを頼りに歩いてきたらしい。

「フウリや、これはなんの騒ぎじゃ?」

「エミナ殿っ、シャラが! その……おそらく予知夢で恐ろしい思いをしたのかと……」

 動揺を隠せないフウリに、エミナは眉間の皺を深くした。

「お前さん、筆頭サムライじゃろて。これしきのことくらいで動揺しておったら、いざという時どうするのじゃ!」

 寝台の上でぐったりとしているシャラの手を握ったまま、どうすることもできなかったと申し訳なさそうにするフウリを、エミナは一喝いっかつした。

「すみません……でも、シャラが、本当に苦しそうで……」

「わかっておる……」

 と、エミナはまるで目が見えているかのようにシャラのひたいに手を当てると、ブツブツと(まじな)いの言葉を唱え始めた。

 すると、つい今しがたまで苦しげだった呼吸は、みるみるうちに穏やかな寝息へと変わっていった。

「もう大丈夫じゃ……」


 それから数刻後、落ち着いた様子で目を覚ましたシャラが語った予知夢の内容に、フウリは絶句した。


 ――このままでは、ニタイ村がエランクルの襲撃を受けて滅んでしまいます。


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