目覚めの時ですか。②
その後、ボーザックとは他愛ない話をずーっとした。
白薔薇の先のことは皆が居るときにしようって、ボーザックが言ったからだ。
養成学校のこと、初めて依頼を受けた時のこと。
俺のバフが重ねられることを打ち明けた日のこと。
思い出話はいくらでもあるし、何度だって楽しいもんである。
気が付けば夜も更けて、誰もが寝静まる時間になっていた。
「あ-、楽しかった!ありがとうハルト」
「ま、奢りだったしな!」
部屋に戻って、俺達はゆっくりと眠りについた……はずだった。
******
「おらー、起きろー」
「ううーん、待ってーもうちょっとー」
「ふあぁあ……グラーン、眠い~」
ボーザックと一緒に答えたけど、いかつい声は容赦なく言い放った。
「知らねぇよ、自業自得だ!」
グランのモーニングコールは雑で、俺とボーザックはぽいぽいとベッドからひっくり返される。
……もとい、投げ飛ばされた。
「うえっ!」
「おわぁっ!?」
背中を床に打ち付けられて悶絶していると、ディティアがくすくすと笑いながら覗き込んでくる。
そんな彼女は既に準備万端。
いつでも出発出来ます!って感じだ。
「……起きなきゃ駄目だよハルト君、ボーザックも!もう依頼は受けてきましたので」
「えぇ…」
上半身を起こして欠伸すると、彼女は紙を突き付けてくる。
「これ!」
俺は目を擦りながら、紙を読んだ。
魔力回復の妙薬、テルロッサの採取。
目標数3個。
群生地は特定済み、魔物の目撃有り。
「魔力回復の妙薬……?」
思わず口にすると、ディティアがうんうんと頷く。
「もしかしたら、この薬……ファルーアにも使えないかなと思って」
「どうやら、メイジが疲れたときに飲む栄養剤みたいなもんらしい。ラナンクロスト王都から少し離れるが、3日もありゃ戻れる」
「ギルド長がアイザックさんに連絡しておいてくれるって。今のところ、会議の連絡は来てないし」
グランは早速大盾を背負い、ぼけーっと聞いていたボーザックの頭をわしわしした。
「行くぞ!さっさと準備しろー」
俺とボーザックは顔を見合わせて、立ち上がった。
フェンも毛繕いを終わらせて、一緒に立ち上がる。
グランもディティアも張り切っているし、ファルーアのためになるとか聞いたら、なあ?
ちょっくらやるとしますかー。
******
テルロッサの群生地は、ラナンクロスト王都から東へ1日。
災厄の黒龍アドラノードの話題で持ちきりの街を後にして、徒歩で移動する。
「軽いなぁ」
「仕方ないだろ、借りられただけでも有り難いと思えよ~」
ボーザックはギルド長が貸してくれた鎧を着ていて、腕を回したり軽く走ってみたり。
……さすがに、魔物の目撃情報が有る場所に防具無しってわけにもいかなかったからな。
「帰ったら、鎧探すぞボーザック」
グランがちょっと振り返って言う。
「……うん、格好良いの見つけるまで探すから付き合ってね」
少し残念そうに答えるボーザックに、俺は笑った。
「アドラノードの素材貰えるかわかるまで待ってみる?」
「それもねー、考えたんだけどさぁ…何時になるかわからないじゃん?」
肩を落としてみせるボーザックの足元で、フェンがふすっと鼻を鳴らす。
「やっぱりフェンも待ちきれないよね?」
「わふっ」
「それじゃあ薬草採って、薬にしてもらうまでに探しに行こうねボーザック」
ディティアが笑う。
「ついでに、ハルト。お前とディティアの鎧はメンテナンスしとけ。剣もな」
グランに言われて、俺はふと思い出した。
「そういえば、甲冑がどうとか言ってたな」
「……甲冑は邪魔ですハルト君」
「いやいや、真面目に返してるけど言ったのディティアだぞ?」
「あれは、ちょっと、その、お城で……ひゃあ!?」
恥ずかしそうな彼女に、俺はわざとその頭を撫でた。
「何かあったのか?それ聞かせてもらおうか」
「は、ハルト君!顔!すごく笑ってる!」
真っ赤になる彼女に、ボーザックが便乗した。
「俺も聞きたいなーティア!昨日は結局、起こしてもらえなかったし~」
グランに助けを求めたディティアに、グランは苦笑。
鬚を擦りながら、言った。
「甲冑が珍しかったみたいで、勝手に被ってはしゃいだんだ。そりゃあもう騎士達の目線が痛くて……なあ?」
「うぇあ!?ぐ、グランさんっ!?盛らないでくださいよ!!」
俺とボーザックはそれを聞いて、思わず笑った。
お酒を飲んだディティアが、楽しそうにそうしている姿がありありと浮かぶ。
「もー!ファルーア~早く起きて~」
ディティアはその後しばらく、頬を膨らませていたのだった。
******
「はあぁ――ッ!!」
気合一閃。
疾風の一撃が魔物の横っ腹を切り裂いた。
平原で、背の高い草が左右に茂った細い道で、魔物の群れに遭遇し戦闘になったのだ。
鱗状の黒光りする外皮を持つ大きめの鼠といったところで、地中に巣を作る魔物である。
確か、最後に戦ったのは鍛治士の街ニブルカルブから王都へ向かう馬車旅の途中だったなあ……なんて呑気なことを思った。
大きさは50~60センチくらい。
毒のある鋭い前歯が武器だけれど、それほど速くもないため、初心者でも相手に出来る。
俺はバフをかけずに、双剣を抜いて応戦した。
「行ったよハルト!」
ボーザックの声に、反応して身を捻る。
「任せと……けっ!!」
ザシュッ!!
飛び掛かろうとする黒い鼠を斬り伏せて、俺はディティアを振り返った。
「ディティア、もう少しこっちに回していいぞ」
「わかった!」
ディティアはフェンと一緒に5匹を相手に足留めしていてくれた。
その内2匹をわざとこっちに流し、残りの3匹を相手に腰を落とす。
「仕留めちゃうよ!」
「よし、一気に行くぞ!」
グランはボーザックと一緒に同じく3匹を相手にしていて、珍しく大盾の内側に隠している短剣を使っていた。
魔物は、瞬く間に殲滅される。
……でも。
「……ふうー、何て言うか、ちょっと遅かったねぇ」
ボーザックが大剣を振り払って苦笑。
グランも拭き取った大盾を背負い直して、唸った。
「ファルーアがいねぇとこんなに違うとはなぁ」
そうなのだ。
ずっと一緒にいたから、正直気付けなかった。
「当たり前になるって、恐ぇなあ」
「ファルーアが起きたら聞かせてあげなくちゃ!」
それを聞いたディティアだけ、すごく嬉しそうににこにこしていたのだった。
更新できない日があったりしていますので、
そういう時はせめて活動報告をします。
いらしていただいた方々にはとっても申し訳ないです。
梅雨あけが発表されはじめましたね。
熱中症、本当気を付けていきましょう!




