目覚めの時ですか。①
ギルドに戻ると、ボーザックはフェンに寄り掛かって床で寝ていた。
フェンは諦めたようにぺったりと伏せていて、俺達が入るとふすーっと鼻を鳴らす。
「ボーザック、疲れてたのかなー」
幸せそうにぽかんと口を開けて眠るボーザック。
ディティアはその前にちょこんと座って、頬をつんつんした。
「うぅん……くすぐったいよ、フェン」
「あはは、フェンだって」
ディティアが笑うと、フェンがあおんと鳴いた。
「寝かせといてやれ、風邪引いたら自業自得だ」
グランはさっさと荷物から着替えを取り出す。
「共同の風呂行くが、お前らどうする?」
「あ、俺も行く」
「私もそうしますー」
部屋には立派な湯槽がある。
でも、ここでゆっくり入るのも気が引けるんだよなあ。
「んじゃあ、風呂上がったら飯でもするか。まだだろ?」
「賛成ー」
「じゃあ早めに出ますね!」
俺達はボーザックと恨めしそうなフェンを置いて、また部屋を出た。
******
「はっ」
ボーザックは飛び起きた。
「あれ、あれれ?」
宿……つまりギルドなのはすぐ理解したが、床に突っ伏してたようだ。
起き上がると、ファルーアが使うはずの空いているベッドにフェン。
他の皆もすっかり眠っている。
部屋は真っ暗だ。
「も、もしかして、俺眠ってたのかな」
途端、ぐうとお腹が鳴る。
「……俺達はもう食べたぞー」
「は、ハルト!?……ええ、起こしてよー」
ハルトがもぞもぞと手を上げるのが、暗闇の中はっきり見える。
ボーザックは慌てて駆け寄った。
「グランとディティアは、酒飲んだみたいだから起きないぞー」
確かに、両サイドのベッドではぐっすり眠るふたりの姿。
「そんなあ。ハルト、ご飯付き合ってよ。奢るから」
「えぇ……」
ボーザックはすぐにハルトの手を掴んで引き起こす。
「ほら、早く」
「うわ、俺、眠いよ……」
「皆と食べようと思って待ってたら寝ちゃったんだよ!仕方ないじゃんー!ハルト、お願い!」
「……しょうがないなぁ」
もそもそと、ハルトはベッドから這い出した。
ボーザックはにんまりと笑って、その肩をばしりと叩く。
「流石ハルト!」
******
たまには、ボーザックとゆっくり話してやろうと思わなくもなかっただけだけど……などと考えながら、俺は黒髪黒眼の大剣使いの向かい側で、お酒を頼むことにした。
「それで、何か話したいことでもあったのか?」
定食を頬張るボーザックに聞くと、ボーザックは囓りかけていた肉を止めて、口を開けたままぱちぱちする。
「んあ、今聞く?」
そろそろっと肉を降ろすボーザック。
「いや食えよ」
突っ込んで、俺は手元の酒をひとくち飲んだ。
ボーザックはちょっと笑うと、肉を置く。
……今日の定食は骨付き肉とパン、黄色と赤のグリル野菜だ。
そこに葉物の緑色をしたスープを追加しているので、中々彩りの良い食事になっている。
ギルドに併設された食堂兼バーでは、基本的にバランスの良い食事が摂れるよう工夫されてるらしい。
「ハルトには特別聞きたいことあったんだよね、フェンのことなんだけど」
「フェン?」
「そう。ほら、俺、アドラノードの尻尾避けた時に岩に当たって飛ばされたでしょ?あの時、フェン、危なかったんじゃないかと思ってさ」
「……」
俺は、一瞬考えた。
あの時、確かにフェンは危険な状態だった。
それは間違いない。
ボーザックは岩に当たった瞬間に意識を飛ばしたのか、それとも落下の衝撃でそうなったのか……そういえば聞いてなかったな。
「聞かせて。フェン、危なかったの?」
「……そうだな」
正直に言うと、ボーザックはやっぱりね、と苦笑する。
「受け身もとらずに落ちたはずだし、よくあんなもんで済んだと思ってたんだ。……きっと、俺の下敷きになってくれたんだ。フェン、血塗れだったじゃん」
「ああ、それはちゃんと見てたんだな」
「うん。……ハルト、フェンにバフしたんでしょ?……フェン、その時はどうしてた?」
俺は、ボーザックが真剣なのがわかって、グラスを空けた。
気付いた店員がすぐにやってくるので、メニューを顔の高さに広げて追加を頼む。
「正直言うと、助けられないんじゃないかと思うくらい酷かった」
「……」
ボーザックの表情が、ぐっと歪む。
「フェン、お前を守ってたよ」
「……やっぱり、そうなんだね」
少しの沈黙。
そこに、追加したお酒がすぐに運ばれてきた。
……二杯。
「ほら」
「えっ?何これ?」
ボーザックはグラスを受け取って驚いた顔をする。
メニューに隠しながら、俺が二杯頼んだのだ。
「こういう時こそ楽しく飲まないと。フェンだってその方が嬉しいと思うぞ。…不屈のボーザックに乾杯!」
「…ハルト……。うん…逆鱗のハルトに、乾杯」
こん、と、グラスを軽く合わせて、飲む。
よく熟した果物の、濃厚な琥珀色のお酒だった。
甘くて、香りが口いっぱいに広がる。
…ファルーアやディティアが好みそうな種類である。
「……悔しいなあ」
「うん?」
聞き返すと、ボーザックは杯を乾かして、コトンとテーブルに置く。
「フェンすら守れないとか、情けなくてさ」
「……まあなぁ。でもさ、ボーザックは強くなってるじゃん」
「えっ?」
「俺からしたら、羨ましいよ」
本心だった。
ボーザックは、本当に強くなったと思う。
「次は、お前が守ってやればいいじゃん。俺から見たら、不屈はめちゃくちゃ格好良いぞ」
言うと、ボーザックは俺から眼を逸らした。
「は、ハルト……ハルトがそんなこと言ってくれるなんて、俺ちょっと感動してる、今」
「……お前、それ俺に失礼だからな!?…お姉さん、お酒2杯追加してくれますか-!」
どうせボーザックの奢りだし。
俺はその言葉を飲み込んで、悩める大剣使いにもお酒を追加してやるのであった。




