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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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194/847

華は散るだけなので。①

ごおおおおおおおおぉぉぉぉ!!



凄まじい炎は、空を焦がすかと思うほど。


ぐるぐると巻き上がるオレンジ色の花びらが、今や完全に閉じて蕾に見えた。


バシュンッ……!


一瞬、炎の花びらを突き破って光が漏れたが、それだけ。

それはすぐに炎に飲み込まれて掻き消された。


……あれ、ブレス…か?


ぶわっと、今更になって汗が噴き出る。


やばかった、ホントにやばかった。


尾が、ばたばたとのたうち回って彼方此方の地面を叩く。

そのたびに岩や土が飛び散っているのが見える。


「…………が、頑張って、ファルーア!」

ディティアが、髪を靡かせるファルーアにしがみつくようにして声を上げる。


「……頼んだぞファルーアぁ」

その足元からも、声が。

「グラン!」

駆け寄ると、グランは大の字に転がったまま親指を立てて、にやりとしてみせる。

「ファルーア抱えて落ちたからな……ぺっ、くそ、土の味しかしねぇわ。ボーザック達はどうした」

首を巡らせて唸る大男は、そう言って顔をしかめた。


「大丈夫、無事……ではないけど、生きてる」

俺が苦笑すると、グランはゆっくりと息を吐き出した。


「……そうか……。良くやった、ハルト」

「へへ……」


「もう、まだ早いですよ2人とも!……ファルーア」

ファルーアの眼が、ちらりとこちらを見る。

苦笑にもとれるし、嘲笑にもとれる。


けれど、血ばしった眼は鬼気迫るものがあって、腕や足は震えていた。


そこで、俺は気付いた。


持久力アップを全てかきかえたのだ。

彼女を襲うのは抗えないほどの疲労と苦痛なんじゃないか……?


「………!ファルーア、お前……っ、持久力…」

「………っ!」

ファルーアは、首を振った。


やめろ、と言われている。


俺は上げた腕を下ろし、その代わり、ファルーアの杖を共に握った。




ごおおおおおおおおぉぉぉぉ!!




華は、段々と小さくなっていき、尾の動きが止まる。


「……散る」

ディティアが呟いた。


花びらが、はらり、はらりと。


散っていく……消えていく。



燻る炎だけが、ちらちらと瞬いていた。



「終わった……か?」

グランが、身体を起こそうとする。


「ファルーア!」

ディティアの声。



がらんっ……



龍眼の結晶の杖が、ごろりと転がる。

俺は、力の抜けたファルーアの身体を支えようとして……失敗した。


「う、おお!?」

グランの上。

十字を画くような体勢で、ファルーアが倒れる。


「ぐはっ!?」


その拍子に、グランも再び昏倒。

真っ青を通り越して土気色になった顔。

呼吸は弱々しく、危険な状態だとすぐにわかった。


俺はファルーアのバフを全て消し、ディティアに叫んだ。


「アイザックを捜してこないと……!」


******


…………激しい熱波。

肌が焼けそうな程だ。


そんな中、爆炎のガルフは凄まじかった。


「ふおおおおおお!!」


ビシイッ!!


氷の壁が、そこにいた者達の周りを囲んでいく。


「氷じゃ!壁を守れえぇぇ――ッ」


「!、行け、走れ!!」


メイジ達が呼応して、壁に散らばる。


それぞれが自分の氷魔法で、ガルフの氷壁を補助し始めた。

その中でアイザックは、負傷した冒険者達の手当てに奔走している。


尾の攻撃が、直撃に近い形で彼等を襲い、怪我人がかなりの数出ていたのである。


……しかし、恐らく。

直撃していれば、全滅だった。


フォルター率いるダルアークの機転があったのだ。




尾の攻撃が向かってくるのを確認したその瞬間、フォルターが指揮を執っていたメイジ達が土の柱をいくつもいくつも突き立て、幾重にも連なる壁を造り出した。


「まだまだ足りない!手前を高くして!!早く!!」


自分達の近くは、遙か高く聳え立つ柱。

そこから尾の向かってくる方向に向け、少しずつ低くしていた。


尾の軌道を上にずらすためだ。


その意図を理解したガルフ率いるメイジ達もすぐさま土の柱を造り出す。



作戦は、上手くいった。

尾の軌道は少しずれた。


けれど、全て防げるわけもなく。


破壊された土壁と、爆風に巻き込まれた者達が出てしまったのだ。



とはいえ、燃え盛る炎の華はなおも激しく燃え上がっている。

……あいつらも、無事だったらしい。

それを、アイザックは疑わなかった。


ここが踏ん張りどころだ。


そこに、頬の傷を擦りながらシュヴァリエがやってくる。


「祝福の」

「どうした、閃光……頬は待ってろよ」

「僕を先に治療したら、君は2度とグロリアスを名乗らせないから安心してくれ。ヒーラー達に指示を出したら、彼等のところへ向かってほしい」

「……いや、でも華がまだ咲いてるぞ?」

「魔力と一緒に体力を燃やすんだろう?爆炎のが煩いのでね」

「……あ」


アイザックは、治療していた剣士の呼吸が整ったのを確認し、立ち上がった。


「そう、だったな。この規模の魔法を、ひとりで制御しているとすると……。わかった。……伝言は、あるか?」


シュヴァリエは満足げに頷いて、ひと言だけ呟いた。


******


「……はあ、はあ……!おい、アイザック――!!」

見間違えようが無い、袖無しの黒ローブが走ってくる。

夢じゃないよな?

あいつ、本物だよな!?


俺は持久力アップと速さアップを施し、走っていた。


身体は悲鳴を上げているけど、走れないことはない。

それくらいには、治癒活性で回復している。


「逆鱗の!お前らは大丈夫か!?……って、うおお!?」

聞こえた返事に、足元がふらついて、すごい勢いで俺は転がった。


「ファルーアを……!アイザック、頼む!!」

ひっくり返ったまま、俺は叫んだ。


俺を覗き込んだアイザックの顔が、歪んだのが見えた。



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