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【第五章:海底の日常と争いの無意味さ】

ノーチラス号での不思議で美しい海底生活。 ハンナとの語り合いの中で、ネッドは「本当の怪物」の正体に気づき始めます。歩み寄ろうとする彼らですが、そこに予期せぬ砲撃が……!

太陽の光が降り注ぐ海上を、無事に修復を終えた軍艦スコーシア号が、再び黒煙を上げて力強く進んでいた。 その遥か下、静寂に包まれた海中では、鉄の潜水艦ノーチラス号が滑るように進んでいる。 そして――それよりもさらに深い、一切の光が届かない深淵の闇の中。ぬらりと不気味に光る「二つの目」があった。漆黒の冷たい水に溶け込むように、巨大な吸盤のついた触手がゆらりと蠢く。人間の争いなど意に介さない真の脅威が、そこには確かに潜んでいた。

ノーチラス号の船内は、外の暗い深海や不穏な気配とは打って変わって、あたたかな光と穏やかな空気に包まれていた。 ハンス艦長から与えられた居住区画で、ネッドとハンナは巨大な丸窓の前に並んで腰掛けていた。窓の向こうには、彼らがこれまで知らなかった色鮮やかな珊瑚礁や、光を浴びて煌めく魚たちの群れが果てしなく広がっている。

「この船での生活は、毎日が驚きの連続なのよ」

ハンナは微笑みながら、ノーチラス号での日々をネッドに語って聞かせた。 窓の外に広がる、神秘的で美しい深海の景色のこと。いつもドジばかり踏んで仲間から笑われている、愉快な乗組員のこと。そして、無口で恐ろしく見えるハンス艦長が、実は誰よりも優しく、行き場を失った人々を気遣ってくれる温かい心の持ち主であること――。

地上では決して味わえない、心躍る冒険の数々。ハンナの話を聞いているうちに、復讐心で張り詰めていたネッドの心からも、少しずつ強張りが解けていった。

「はははっ、本当にすごいな。そんな生活をしてるんだ」

ネッドが声を上げて笑うと、ハンナもつられて楽しそうに笑い合った。

「それでね、妹のローラは、ハンス艦長のことを『堅物さん』って呼んでるの」 「島にいる妹さんだよね。両親はどうしてるの?」

ネッドが何気なく尋ねると、ハンナは微笑んでいた顔を曇らせ、力なく首を横に振った。

「私の国でも、戦争があったの。両親はその戦争で……私とローラを村にあった船で逃がしてくれて、そのあとは……」

ハンナの言葉が途切れる。彼女は少しだけ俯き、悲しみを押し殺すように言葉を続けた。

「そしたらクラーケンに襲われて……そこを、このノーチラス号に助けてもらったの」 「ハンナは、ご両親と離れ離れなんだね」

ネッドは痛ましそうに呟き、ハンナの隣で前を向いた。

「僕も、国に母さんを残しているんだ。僕は父さんの仇を討ったら、絶対に母さんのところに生きて帰るんだ。君のご両親も、きっと国で生きているよ」 「お父さんの仇……? ネッドは、お父さんを亡くしたの?」

ハンナが驚いたように問い返すと、ネッドはコクリと頷いた。

「君と同じ、海の怪物に襲われたんだ。僕はこの船を怪物だと思って、敵討ちに討伐隊の軍艦に乗り込んだんだ。でも……違った」

ネッドの瞳に、怒りとは違う別の感情が宿り始める。

「君の話を聞いてわかったんだ。父さんは海の怪物に襲われたけど、本当の怪物はクラーケンでも、このノーチラス号でもない。人間が起こす戦争なんだ」

ネッドは拳を固く握りしめた。

「僕が乗ってきた軍艦は、怪物の正体が人が乗っている船だとわかってからも、大砲を撃ち続けた。その船の中には人が乗っているはずなのに、考えもしないで……」 「ネッド……あなたも、辛い思いをしたのね」

ハンナの優しい声に、ネッドは首を横に振り、前を向いたままはっきりと言った。

「僕、ハンス艦長にもお願いするよ。もう船を襲うのをやめてもらうように。そしてもし今度会えたら、ファーガラット少佐にも、もうこの船を攻撃しないように言うよ。だって、二人には……戦わなきゃいけない本当の理由なんてないんだから」 「その通りだ」

背後から声が響いた。 ネッドが振り返ると、アロナックス教授とメアリーが歩み寄ってくるところだった。

「教授」

アロナックスは、ネッドの言葉に深く頷き、静かに語り始めた。

「私たちは、ハンス艦長もファーガラット少佐のこともどちらもよく知っている。ハンス艦長は、戦争になった国の虐げられた人たちに手を貸している。ファーガラット少佐のアメリカ合衆国だって、かつては植民地からの独立のために、自分たちの自由のために戦った国だ」

教授は、二人の少年の間に立ち、熱を込めて続ける。

「この二人が戦う意味は、何もないじゃないか。この二人を説得して、戦いをやめさせるのは、私たちにしかできない仕事だ。取られたら取り返す、やられたらやり返す……そんな無駄な争いは、もう終わりにさせなければならない」 「僕も、そう思います」

ネッドが力強く頷く。

「私も!」

メアリーも、メガネの奥の瞳を輝かせて同意した。

「ハンナも、そう思うよね?」

ネッドが振り返ると、ハンナは嬉しそうに微笑んで頷いた。

「はい!」

四人の心は一つになり、無意味な争いを終わらせようという希望の光が彼らを包み込もうとしていた。 しかし――。

ズッドォォォン!!!

突然、凄まじい爆発音と共に、ノーチラス号全体が激しく揺れ動いた。

「うわあっ!」 「きゃあ!」

船体が大きく傾き、四人はたまらず床に倒れ込んだ。

「どうしたんだ!」

アロナックスが叫ぶ。ネッドとアロナックスは、とっさにハンナを庇うように覆いかぶさった。

「ちょっと! わたしは守ってくれないの!?」

メアリーが一人で転がりながら不満の声を上げる中、重い扉が開き、部屋にハンス艦長が足早に駆け込んできた。

「軍艦だ! 軍艦の砲撃を受けている!」 「なんだって……!?」

息を呑むネッドたちに、ハンス艦長は冷酷な現実を突きつけた。

「君たちの乗っていた船だ」 「スコーシア号……!」

三人の声が重なり、希望に満ちていた部屋の空気は、一瞬にして絶望的な緊張へと塗り替えられた。


第5章、お付き合いいただきありがとうございました。 ハンナとの交流を通じて、ネッドの心境に大きな変化が生まれましたね。「人間の争いこそが本当の怪物」……そう気づき、皆で争いを止めようと決意した矢先の、スコーシア号からの砲撃! せっかくわかり合えそうだったのに、両者は再び戦わざるを得ないのか!?

もし「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ページ下部より【ブックマーク追加】や【★での評価】をしていただけると、毎日の執筆の何よりの励みになります! 緊迫の次章へ続きます!

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