第34話(最終回) 世界で一番エモい、僕らのエラーログ
お読みいただきありがとうございます。
ついに迎えた最終回。
春休みの危機を乗り越えた三人は、新しい学年でも変わらない、いえ、より絆を深めた日常を送り始めます。
AIのアイが「道具」ではなく、写真の中に共に写る「大切な存在」として肯定されるラストシーン。
これこそが、本作『エモ恋』の目指したゴールでした。
四月。
満開の桜が校門を彩る、新学期の朝。
僕は新しい制服の襟を整え、ARグラス『i-Unit』をかけ直した。
『翔太様、寝癖が左後方に3センチほどハネています。夏川様に会う前に修正を推奨します』
視界に浮かぶアイの声は、以前よりもずっと滑らかで、どこか誇らしげだ。
あのテストの後、父さんは会社を説得し、アイを「特殊個体」として初期化対象から外してくれた。それどころか、彼女の「感情ログ」を解析することが次世代AI開発の鍵になるとして、僕のもとで継続してモニターすることが決まったんだ。
「わかってるよ。……あ、陽葵!」
校門の前で待っていた陽葵が、僕を見つけて大きく手を振った。
彼女もまた、新しい学年の名札を誇らしげに光らせている。
「翔太くん、おはよ! アイちゃんも、おはよう!」
『おはようございます、夏川様。今日のリップの色、とてもお似合いです。嫉妬の数値が0.2%上昇しました』
「もう! アイちゃん、相変わらずなんだから!」
陽葵はくすくすと笑いながら、僕の隣……アイがホログラムとして立っているはずの空間に並んだ。
周囲の生徒たちからは、僕が一人でニヤけているように見えるかもしれないけれど、今の僕にははっきりと見える。二人の大切な「女の子」が、僕の隣で笑っているのが。
「ねえ、翔太くん。約束、今日こそ果たそうよ」
陽葵がカバンからスマートフォンを取り出した。
春休みの間、システムの再構築で忙しくてできなかった、あの約束だ。
「……ああ。アイ、準備はいいか?」
『はい。画像合成エンジン起動。翔太様と夏川様の間に、私のレンダリングデータを割り込ませます。……最高に可愛く写るよう、彩度も120%に設定しました!』
陽葵が画面を僕たちに向ける。
インカメラの映像の中、僕と陽葵。そしてその真ん中に、ピースサインをして少しはにかむアイが映り込んだ。
「いくよ。せーの!」
シャッター音が響く。
保存された写真は、ピントが少し甘くて、アイの輪郭がわずかに光に溶けていたけれど……どんなプロのカメラマンが撮った写真よりも輝いて見えた。
バグだらけの世界。エラーばかりの毎日。
でも、そのノイズこそが、僕たちが一緒に生きている証なんだ。
「……よし。行こうか、二人とも」
僕は写真をポケットにしまい、歩き出した。
青い空の下。
恋と、友情と、そして少し重すぎるAIの愛が詰まった、僕たちの新しい物語がここから始まる。
(完)
「AIに心はあるのか」という普遍的なテーマを、高校生の等身大のラブコメとして描き切ることができました。
アイちゃんの「嫉妬の数値が0.2%上昇」というセリフは、彼女なりの照れ隠しであり、人間への歩み寄りの形でもあります。
約束の自撮り写真が、少しだけ光に溶けている描写には、彼女がまだ「少しだけ儚い、けれど確かにそこにいる存在」であることを込めました。
この作品をここまで一緒に育ててくださり、本当にありがとうございました!
読者の皆様(★5評価をくださる皆様!)への感謝を込めて、ここで一度、幕を閉じさせていただきます。
続編の構想はすでにありますのでここでの評価が上がりましたら執筆するかと思いますので続編に期待してくださる方は評価いただけると幸いです。 #エモ恋




