哲学の性質
――ソフィア宅。インテリアとは別に、魔導書が山積しポーションが棚に整然と配置されている。
「人生で辛い思いを生み出してしまった時哲学を思い起こすのだけれど、それでも苦痛がすぐに癒えないわ。どうすればいいのかしら」
向かい側のソファへ座るソフィアはそう言った。
中傷に出会した時に人は反射的に苦痛を感じるが、これは他の凡ゆる苦痛同様に不正を宿したことによる帰結であり本質的要因は自身にある。他人が何をしても、例え僅かでも自身が不正を犯して良い理由にはならない。中傷による苦痛は不正を正当化している典型であり、これを履き違えると一生苦しむことになる。ということをソフィアは言っているのだろう。
余談だが私が悪ではなく不正という言葉を用いるのは、脳が否定語を出力する際肯定語を否定する二段回演算処理が施され否応無しに肯定語を誘引するために、これを利用しプラスの感情を想起させることができるから。
「哲学とは、言語という絶対的な限界の有る脆弱な器で形成された代用品で、朧げに真理を指し示すものでしかないから、我々は自分が何も知らないということすら知ることはできない。従って哲学や信仰を思い起こしても完璧な対処はできない」
「私は哲学を学ぶことで、何かを知ったと思い込んでいたのね。これじゃ神様へ首を垂れているとは言えないもの。すると、直観つまり自分がどうしたいかが大切で他のことは些事ということかしら?」
「その通り。答えを導出できたようだね。他人の書いた哲学を真似たところで真に迫ることはできない。日々の実践で自分のものとし、自分の望みを叶え続け、自分だけの哲学を作らなければならないのだ。私はそれこそが哲学の性質と思うし、そうでなければ追従でしかない」
「大切なのは心の成長であり、哲学はそれを僅かばかり表現しただけのものなのね」
暫し談笑した後、幾つかお手製ポーションを受け取り帰路に着いた。
自宅へ赴くと、玄関前に一人の爽やかで美しい容姿の男がいた。正統派の騎士といった様相。
よく見たらロポスだ。
「や。僕の真名はアガトン。国王直属の近衛兵をやってるよ」
太陽のように眩しい笑顔でそう言った。
「単刀直入に言うけど、アーサーは今隣国のスパルタスに狙われてる。もっと正確に言うと、勇者の固有能力を持った人物を実験対象として捕縛しようとしてるんだ。だから、全ての刺客を簡単に退けられるようになるまでは固有能力の使用を認められない。アーサーを失うのは、国としても知人としても困るからね」
アガトンが以前話したことは全て真実であり、ロポス名義の活動は彼の一側面に過ぎないようであった。彼は金銭に囚われないように最小限しか携帯しないため、冒険者になる他なかったそう。高位の職ほど人徳が要求されるため、我が国では給与が低く設計されていることも因子であろう。
「それはそれとして〜♪ はい」
アガトンは一つのチケットらしきものを差し出した。
「これは?」
「今度王宮で舞踏会が開かれるんだけど、最近物騒だから保険をかけておきたくて。アーサーには参加者の護衛を頼みたいんだ。贅を尽くした一般的なそれと違って、高位魔法で彩られた環境で錬金された食事が出るよ」
「それは楽しみだ」
私が受け取ると、アガトンは結界魔法を私の部屋へ発動し手を振り去っていった。




