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14 戦が始まる

「ランス、無理はしないでね!」

「大丈夫ですよ。戦自体は初めてじゃないですし」

「それでも心配よ。前線で戦うなんて」

「俺、強いですよ」


 笑ってそう言うランスロットに「知ってる」と返す。


「姫様……! ローヴァン大公とゼクト公爵を討って、王城を陥落し、国を取り戻すことが出来たら、聞いて欲しい話があります」

「なぁに? 今話してくれても良いのよ?」


 いつにないランスロットの真剣な表情にクリスティーナはドキリとする。


「い、いや……! 全てが終わったら、聞いてください」


 動揺して赤くなるランスロットが面白くてクリスティーナはクスリと笑う。


「わかったわ。全てが終わったら聞かせて」

「はい……」


「話は終わったか?」


 少し離れたところで待っていたアレクシスが声をかける。


「ええ、大丈夫よ」

「あと二時間ほどでルーナ王国軍がここへ到着すると偵察部隊から連絡があった。想定通りバルミュ王国へも援軍の依頼も出ているようで、援軍の方は明日にはここへ着くだろう。ランスロットは配置につけ」

「はい」


 クリスティーナもいよいよかとドキドキする。

 クリスティーナが戦場として選んだルーナ王国の東の地。


「見事なタイミングだったわね」


 この地を戦場とすることで戦を有利に進めることが出来る。

 だが、こちらの進軍の速さと王国軍の速さ、バルミュ王国への伝達のタイミングを間違えるとルーナとバルミュと両国の軍を同時に相手しなければならなくなる。


 クリスティーナは少し小高くなった場所に陣取った本陣から帝国軍を見下ろした。


 ――これだけの兵力があれば、きっと両国を同時に相手をしても勝てそうだけど……


 これが帝国の力かと身震いした。


「タイミングに関してはお前たちに相談して良かった。上手いこと情報をリークしてくれたからタイミングを合わせやすかった」


 アレクシスはいつも絶妙なタイミングでクリスティーナに意見を求める。




 今回も、アレクシスはランスロットとクリスティーナを呼び出して、帝国軍がルーナ王国に向かって進軍しているということをルーナ王国内に確実に情報を流したいが良い方法はあるかと相談をされた。


 始めはペルシュマン辺境伯を頼ってはと思った。


「ペルシュマン辺境伯はランスロットとの繋がりを警戒されている可能性が高いから、そこは下手に頼らない方が良い」


 アレクシスに言われて納得した。


「姫様……ジョアンとケイトはどうでしょう?」


 王都に残している王家の影二人のことを思い出す。


「いいかも。ランス、連絡は取れる?」

「はい! 進軍の途中で俺一人、単騎で一旦抜けてルーナ王国内どこでも良いので町まで行ければ、そうですね……五日もあれば指示を出すことはできるでしょう」

「五日か。ちょうど良い!」


 アレクシスは地図を広げて線を描く。


「私たちはこっちのルートから属国を経由しながら進軍するから、お前はここから単騎でルーナ王国に侵入し、そのお前の部下たちに帝国軍が進軍しているという情報をリークさせろ。そうだな、進軍速度を考えるとこの辺りで合流できるか……」

「わかりました」


 それからランスロットはまたすぐ訓練のために部屋を出た。


 帝国軍という圧倒的な力を持っていても確実に勝利するためのアレクシスは全く手を抜かない。


「アレク、あなたって本当に主導者に向いているタイプなのね」


 クリスティーナはアレクシスからアレクと呼ぶよう言われてそうしている。

 しばらくはアイテール皇帝陛下と呼んでいたが、軍議を重ねるうちに徐々にくだけていった。


 アレクシスの発言はいつも説得力を感じるし、人を使うことが上手い。国を引っ張っていく資質を感じ、それでいて剣技も強い。


「羨ましいわ」

「そろそろ惚れたか?」


 アレクシスは一歩前へ出てクリスティーナの顎を手で掴む。


「まさか」


 冷めた目で笑ってそう言うと、アレクシスはすぐに手を離す。


「どんな女もすぐに落ちるのにクリスティーナはなかなか手強いな」


 アレクシスはクリスティーナと二人きりになるとクリスティーナを口説いてくる。

 一度殴っているので、強引に何かしてくることはないが、わかりやすい好意を示してくる。


 だが、アレクシスはクリスティーナを「欲しい」「手に入れたい」とは言うが「好きだ」「愛している」などという表現はしてこない。


 ――私を手に入れて利用しようとしているようにも思えるのよね……


 それに、やはり彼の四人の側妃は伊達ではなく、誰が一番に彼の後継を身籠るかと側妃たちの間では火花が散っていた。


 宮殿に部屋を用意された当初はドレスを用意されていたクリスティーナだったが「変な争いに巻き込まれると面倒だ」と、アレクシスから男装を続けるように指示があった。

 アレクシスと軍事のことで頻繁に顔を合わせることがあり、クリスティーナも側妃たちから勘違いをされるのも嫌なので、男装を続けた。


 アレクシスが側妃たちに「いつ夜伽に来て下さるのですか」と囲まれている姿を見るとムカムカする。


「四人も側妃がいる気の多い男性なんてごめんだわ……!」


 一度そうはっきりと言った。それなのに……


「独占欲を出してくれるなんて可愛いところもあるんだな」


 となぜかクスリと笑われた。



 クリスティーナは自分だけを大切にしてくれる人がいい。

 ユージーンの時のように他の人に気移りされて傷つきたくない。


 一途に、自分だけを……


 そう思ったとき、何故かランスロットの顔が浮かんで胸がドキンと跳ねた。


 ――や、やだ……私、なんでランスロットを……?


 ランスロットがクリスティーナを大切にしてくれているのは王命を今でも忠実に守っているからだ。勘違いをしてはいけない。

 自分にそう言い聞かせた。



     ◇



 カン、カン、と剣がぶつかる音が聞こえてきて、いよいよ始まったかと緊張した面持ちで、戦場を見渡す。


「さぁ、私も行ってくる。お前にはヴィクターを付けておくから、絶対に本陣から出るなよ」


 アレクシスの従者のヴィクターは護衛も兼ねているらしく彼もかなり腕が立つらしい。


「私も戦場で自分が活躍できるなどとは思えないからここで大人しくしているわ」


 アレクシスは抜剣して片手で剣を持ち、いつもの黒毛の立派な馬に跨って戦場へ駆けていった。


「アイテール帝国軍に勝利を!!」


 アレクシスの掛け声で他の兵士たちも「勝利を!」と一斉に叫んだ。


 彼が前線に出ることで兵たちの士気が上がる。アレクシスの影響力の強さに感心した。


 しばらく互角の討ち合いが続いていたが、アレクシスが敵からの攻撃を受けて少しよろけて、陣が乱れる。


「チャンスだ! 攻め込め!!」


 敵の指揮官の声が響き渡る。


「くっ……! 退けっ! 一旦退却し、陣を立て直すぞ!!」


 帝国軍が一旦退却していくように見え、王国軍は「追えーっ!」と前進する。


 すると王国軍の兵士に向かってパシャッと赤い液体が飛んでくる。


「な、なんだ……?」


 獣臭い赤い液体。


「血か……?」


 王国軍が前進すると次々にそれが飛んでくる。

 それはクリスティーナの考えた罠だった。

 獣の血を入れた皮袋をあらかじめ用意しておき、撤退した時に隊列で隠していたカタパルトといわれる投石機にその獣の血の入った皮袋を乗せて敵陣に向けて投げつけた。


 本来のカタパルトは大きな石を飛ばして城などを攻めるときに使う兵器であるが、今回はもっと小さな物を飛ばすので、もっと簡易で小さい投石機をたくさん用意した。


「はっ! こんな獣の血ごときで怯むとでも思ったのか。天下の帝国軍がこんな愚策を用意するなんてな……! 皆、気にするな! どんどん進めー!!」


 王国軍は獣の血を浴びながらも、どんどん進行してくるが……。


 ──ピィギャアアーーッピィーギャーーーッ……


 聞こえてくるのは気味の悪い鳥の声。上空から響き渡る。


「はあ? 今度は一体なんなんだ……?」


 王国軍の陣に大きな影が落ちる。

 上空を旋回するのは大量の大きな鳥。


 アレクシスは帝国軍の兵に急いで撤退するように指示を出す。投石機で獣の血を投げつけていた兵もそれをやめて自陣へ早急に撤退する。



 アレクシスが本陣に戻ってきた。


「名演技だったわね!」

「ああ、上手いこと引っかかってくれたが……。クリスティーナ、あの鷲の数は正常か?」


 どういうことかと思って戦場の見える位置まで移動して戦場を見下ろした。


 帝国軍は全軍すでに撤退しているが、王国軍の兵士たちは鷲に次々と襲われている。

 頭の先から足の先まで鎧に包まれた兵士たちは顔から狙われて、思った以上に悲惨な状態にクリスティーナは息を呑む。


「いえ……想定以上の数だわ……! これは本当にこのまま撤退した方が良いかもしれないわね」


 数年前にこの地を調査させたときもここには大量の鷲が棲みついていた。だが、今はそのときの倍以上の鷲がいると思う。

 この場所はどこの領地でもなく、長年ただの荒野として放置されてきた。

 数年前、他領の領地を広げるためにこの地を開拓できないものかとクリスティーナは父と考え、土地の調査をさせた。

 結局、血の匂いに誘われて襲いかかる獰猛な鷲が棲みついていることが調査でわかると、この地を領地化することは危険と判断し、領地化は断念し、議会に話を上げることもしなかった。



「まあ、このまま巻き添えを食らいたくはないから、一旦撤退するか」


 本来であれば獣の血の匂いに誘われた鷲に襲わせて、その隙に一気に攻め込もうという策だった。

 だが、想像以上にたくさんの鷲に襲われて、こちらから攻め込むまでもない状況だ。


「あの調子なら、全滅ということはないだろうが、戦闘不能状態になってくれるだろう。せっかく我が軍が無傷の状態なのだから、このままバルミュ王国からの援軍を迎えに行って叩き潰すか」

「ええっ……!」


 思わぬ発想に驚いた。が……


 バルミュ王国もルーナ王国と同じ程度の大きさの小国だ。援軍となると大した数の兵を派遣していないだろうから、兵の数が減ってないこちらの方がきっと有利に戦いを進められるだろう。


「悪くないわね……!」


 クリスティーナが強張った笑顔を見せるとアレクシスは「だろ」と悪い顔をして笑って見せた。

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