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12 傭兵志願

「ここもアイテール帝国の属国なんですよね」

「ええ、そのはずなんだけど、ここもアイテール帝国と同じように活気のある国ね……」


 クリスティーナとランスロットは一週間ほどかけて広いアイテール帝国を出て、隣の国へ辿り着く。

 クリスティーナは周辺諸国の視察も兼ねて、行きとは違う国を経由して自国へ戻ろうと考えていた。


 属国と聞くと宗主国の支配下にあり、ギスギスとしたイメージがあったが、実際に目で見てみると国民は活き活きとしていて、町が寂れているということもない。



「おう! にーちゃんたち、良かったら今夜はうちで飲んでくかい! サービスするぜ」


 酒場の前で客引きにあった。


「ああ、悪くないな! 邪魔させてもらおう」


 クリスティーナが馬を降りて、馬立てに馬を繋ぐ。


「ひめ……クライヴ様!」


 クリスティーナは男の格好に合う偽名としてランスロットにクライヴと呼ばせることにした。

 ランスロットはクリスティーナに近づいて耳打ちするように話をする。


「姫様、ここは酒場ですよ! 姫様のお口に合うような食事は……!」

「私に合う食事って何よ。地下牢の食事や野宿の食事だって私は平気よ。それにこういう店の方が情報が集まりやすいでしょう」

「た、確かにそうですが……」


 クリスティーナはさっさと店に入り「二人だ」と店員に席の案内を頼んだ。


 そして食事と酒が進むとやはり周りの常連客が見ない顔の客だと絡み始めてくる。


「二人は旅人なんだって? どうだい、うちの国は」


 店の常連客が目の前にドンと酒の入ったジョッキを二つ置いた。


「ありがとう! 良い国だ。アイテール帝国の属国と聞いていたから、もっと色々と制約の厳しい国かと思ったが、全くそんなことはないのだな!」


 クリスティーナは男口調を意識して返事をした。


「だろ? 敗戦して属国になるって聞いたとき、貴族連中らはかなり反発したようだが……」


 いざ、属国になってしまうと、アイテール帝国からの指示で全領地での領民に徴収する税は上限が設けられ、国民の負担は減り、厳しい生活を強いられているのは貴族ばかりだと言う。


「もともと貴族たちは国民の税で、毎日パーティーだ、舞踏会だ、って贅沢な生活してたみたいだから、こんくらいでちょうど良いんだよ!」


 独裁的な政治を行っていた国王は幽閉され、アイテール帝国の指示の元、別の者が王位についたらしい。


「議会じゃ必ずアイテール帝国の口出しが入るから、嫌がる貴族も多いが、うちみたいな軍事力もない小さな国が他国に攻めいられることがないのは帝国がバックに付いてるからってのもあるから、何にも言えねぇみたいだぜ」

「なるほど……」


 色々と考えさせられる良い話を聞けた気がする。


「そいえば、さっき聞いたばかりの話だが、帝国がルーナ王国を侵攻しようと傭兵を集めてるって話だぞ!」

「っ……、それは興味深いねぇ」


 クリスティーナとランスロットは驚いた顔を見せないように話の続きを促した。


「そっちのにーちゃんなんかは腕が立ちそうだから、傭兵にも興味があるんか?」

「ああ、傭兵で荒稼ぎしていた頃もあったからな」


 ランスロットの答えに、そんな頃がいつあった、と突っ込みを入れたい気持ちを抑えて、酒場の男から話を聞いた。


 そして、その日はその店の二階の宿屋に泊まった。



     ◇



「姫様! 俺が行くんで姫様はどこか安全な場所で身を隠していてくださいよ!」

「何言ってるの。せっかく男の格好までしてるんだから私だって行くわよ! それに、安全なんてどこにもないのよ。私の姿は帝国でユージーン様に見られているの。城の兵士たちがもしかしたらすでに近くまで探しにきているかも知れないのよ」

「ですが! 傭兵に志願するなんて危険です!」

「危険でも、チャンスなのよ……!」




 クリスティーナはどうすればゼクト公爵の指から指輪が外せるのか悩んでいた。


「それなら、今一番ゼクト公爵に距離の近いリットレーベル公爵に頼んだらどうですか?」

「お前、簡単に言うけども、実際にそんなのどうやって外してもらうのよ。失敗して、私たちの目論見がゼクト公爵に知られたらリットレーベル公爵はどうなると思うわけ?」


 またクリスティーナの父のときのように冤罪を仕立て上げられ斬首刑にされることが容易に想定できる。そんな危険なことをリットレーベル公爵にさせるわけにはいかない。


 であれば、堂々と攻め入って公爵を捕らえて指輪を外した方が安全だ。

 もしかしたらアイテール皇帝のアレクシスもそれが目的かも知れない。




「傭兵なんて前線で戦わなければならないんですよ!」

「前線で戦って一番に城に攻め入って、私がゼクト公爵とユージーン様の首を取ってやるわ……!」


 あのとき出来なかった復讐を今度こそ果たしたい。


「姫様……」


 ランスロットはクリスティーナの気迫に気圧される。


 実際傭兵という立場では、下っ端の兵士同士で戦わされるだけなのだが、城の近くまで攻め入ってしまえば、王族専用の隠し通路から城の中へ入ることができる。


 上手くアレクシスよりも先に指輪を手に入れてしまえば、指輪を利用して帝国軍を撤退させることもできるかもしれない。



 二人は一度出たアイテール帝国に向かって再び走り出した。



     ◇



「これで志願者は全員だな! 今からお前たちの腕前を確認する! 名前を呼ばれたら、防具をつけて、そこから好きな武器を選んで前へ出よ!」


 二人は再びアイテール帝国に行き、傭兵志願について確認した。

 城下町の至る所に傭兵志願者についての張り紙があり、二人は指示のあった日に帝国軍の訓練場へ向かった。


「姫様。模擬戦もあるみたいですけど、大丈夫ですか?」

「負けたからって賃金額が下げられるだけで、傭兵にしてもらえないってわけじゃなさそうだから大丈夫でしょう?」

「そうじゃなくて……俺は姫様が怪我しないかが心配で……」

「治る怪我なら別にいいわよ」


 ランスロットがコソコソと話しかけ、クリスティーナは淡白な返事をした。


「おい、そこ! そこの小さい方! 名前は……クライヴだな……! 前へ来い!」


 さっそくクリスティーナが名を呼ばれ、ランスロットは顔が強張る。


「武器は刃を潰してある模擬戦用のものだが、実際の戦と思って戦うように!」


 クリスティーナは防具をつけランスロットに「いってくる」と言って剣を選んだ。



「なんだ、女みてーな細っちいやつが相手か。やり甲斐がねーなー! 俺が本気でやったら腕の一本くらい折れちまうんじゃねぇか?」


 相手はいかにも傭兵を生業としていそうなガタイの良い男だった。

 ランスロットは眉間に皺を寄せ、内心はハラハラしながらその様子を見ていた。

 クリスティーナは相手に何も言い返さないで剣を構える。


「けっ、つまんねぇの」


 相手の男も剣を構えた。


「開始!!」


 指揮官の開始の合図でクリスティーナは素早く走り込んで、相手の近くであらかじめ剣との間に握り込んでいた訓練場の砂を相手の目を狙って投げつける。


「うわっ、目がっ……!」


 相手が目を開けられずにいる隙にクリスティーナは剣で斬り込み相手はその勢いに後ろへ倒れ込む。

 すぐにクリスティーナは喉元に剣先を突きつける。


「しょ、勝負あり!!」


 あっという間の出来事だった。

 すぐにクリスティーナは剣を引いて、ランスロットのいる場所まで戻ろうとした。


「卑怯だ! 反則だ! やり直せ」


 相手の男が立ち上がって大声を出した。

 クリスティーナはくるりと相手の方を向き直す。


「指揮官は戦だと思って戦えと言ったが……、お前は戦争中に相手の兵士に砂をかけられたら卑怯だ、反則だと言ってやり直しを要求するのか?」

「くっ……」

「私だって腕を折られたら傭兵が出来なくなって困るんだ。使える手段はなんだって使う。指揮官、やり直しが必要であればもう一度戦いますが」


 指揮官は難しい顔をして少し考えから答えを出す。


「必要ない。ただし、本来の実力がわかりにくくなるから、次の試合からは先ほどのような砂をかける行為は禁止とする」


 指揮官は大きな声で言い渡した。


「姫様……今のちょっとまずくないですか?」

「え、なんで?」


 ランスロットは先ほどクリスティーナが戦った相手がクリスティーナにすごい形相で睨んでいることが気になった。



 しばらくしてからランスロットが名を呼ばれランスロットは武器を選んで前へ出た。



 するとクリスティーナの後ろから声がかかる。


「おい、ちょっと面貸せよ」


 振り向くと先ほど戦った相手が別の傭兵二人を引き連れて立っていた。


「嫌だね」


 どう考えても碌なことにならない。


「いいから来いよ」

「いっ……!」


 ぐっと肩を思いっきり掴まれる。


「わ、わかったよ……」



 クリスティーナが仕方なく後ろをついて行くと、訓練場の裏へと連れて行かれた。

 そして着くなり思いっきり壁に向かって突き飛ばされて背中を打つ。


「うっ……!」


 強い衝撃にずるりとそこに座り込む。


「ハハッ! こいつホント細くて女みたいだな! お前本当にこんなやつにやられたんかよ、情けねぇ!」


 一緒に来た男の一人がクリスティーナの顔を覗き込む。


「こいつが卑怯な手を使ったんだよ! くそっ! 痛い目に合わせてやる」

「まぁ、待てよ」


 もう一人の男がクリスティーナと戦った男との間に入り込む。


「こいつの顔よく見てみろよ。貴族の女みたいな綺麗な顔してるぜ! どうせ模擬戦終わるまで、まだ時間あるんだから、ひん剥いて楽しんでからしようぜ」

「はっ、それも楽しそうだな」


 男たちの視線が、下卑たものに変わる。


 クリスティーナは顔を青くした。


 腕を折られるわけにはいかないので、卑怯な策を取った自覚はあるが、ここで服を脱がされれば女だとバレて酷いことになる。


 男の手が伸びてきてクリスティーナは胸の釦を手で押さえてギュッと目を瞑った。

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