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20.人の忠告は聞くべきだ


 リンウッドの忠告を素直に聞いた方が良かったのかも知れない。


 そう後悔したのはそれから3日後の事だった。


 モニカはいつも通り、畑に出て作業をしていた。しゃがみ込み、虫がいないか確認し、葉の裏までめくる。そんな地味な作業をしていると、木々に留まっている鳥達が何やら騒がしくなったのだ。いつもピーヒョロ鳴いてはいるが、それよりも少し鋭い鳴き声に「どうしたのだろう」と腰を上げる。


 するとどういう訳か、件の3人組が険しい顔でこちらへ歩いてきていたのだ。しかも鍬やスコップ、平鎌を手に持ちながら。一見すると畑仕事を手伝いに来てくれたのかと思うが、表情を見るとそれは違うと分かる。明らかな怒気を孕んでいた。それはそれは恐ろしい顔である。平時も穏やかな顔かと言われればそうでは無いが、明らかな自分への敵意にモニカは怯えから喉が鳴った。


 これはもしかするともしかするのかもしれない。

 

 まだモニカの家の敷地内には入っていないが、あれは絶対に何かをしようとしている顔だ。持っているのものからみて、畑を荒らすであろう事がわかる。


 そんな事させはしないが、だがどうやって男3人に立ち向かえば良いのか。モニカは自分が丸腰な事に気付き、急いで近くの枯れ葉の山に刺してあったピッチフォークを手に取った。


「どうしたんですか?ジョンさん達」


 モニカはそれを手に急いで男達の元へ近寄る。畑には近付いて欲しくなかった為だ。勿論、万が一の為に農具が当たらないであろう距離は取った。


 怒れる男達はピッチフォークを持ち、仁王立ちするモニカを鼻で笑うと聞き覚えのある言葉を再び投げかけてきた。


「お前が来てからオレたちゃ商売あがったりだ。もう市場に来るんじゃねえ!」

「そうだ!お前が来る前は俺達野菜もそこそこ売れていた!なのに何だ!?勝手に市場のバランス崩してんじゃねえよ!」

「お前の野菜を食うと病気が治るなんておかしいだろ!そんなわけねえのにそんな言い文句で商売しやがって!」


 男達は農具を振りかざしながらモニカに詰め寄る。モニカはその主張に眉を寄せ、数歩下がった。


 幾度も聞いた主張ではあるが、やはり面と向かって悪意を向けられるといい気はしない。


 確かにこの人達はモニカが野菜を卸し始めてから売り上げが減ったのだろう。彼らの奥様方が嘆いているのをモニカも聞いた事がある。だが、新参者が入って来た事で売れなくなったのであればそれは本人たちの問題ではないかとモニカは思う。偉そうな事は言えないが、売れなくなってきた時に何か策を講じれば良かったのだ。事実、他の人らは何かしら対策をし、客を戻した。大きな事ではない、小さな対策で何処も客を戻していた。


 そしてモニカは決して自分で「モニカ製の野菜は食べれば病気野菜が治ります!」など宣伝していない。本当かは不明だが、購入した人達がそう言ってくれていただけだ。それに病気というと大きなように思えるが、大体は「元気になった」「子供も進んで食べる」というようなもの。モニカの野菜は薬ではない、そんな野菜を食べるだけで病気が治るわけないのだ。


 モニカは険しい顔をしたまま、情けないと頭を振り溜息を吐いた。神経を逆撫でする行為だとは分かっているが、弱い顔も弱弱しい笑顔も見せたくはない。


「以前から言ってますが、私云々ではないと思いますよ。事実、他の人達の売り上げは落ちてないじゃないですか。お三人方の売り場は前から問題があったと色んな人から聞いています。よく洗ってなかったり、明らかにシナシナなものを売っていたり。あと隣のブースへお客さんが入るとわざと大声を出して邪魔をしてたとか?本当なんですかね、だとしたら人間性疑いますけど。お客さんも人間なんですから、同じものが売っているのであれば品物が良かったり、店主の人柄で店を選びますよね?」


 いつもは主婦達に守って貰っているが今日はモニカ一人だ。少し怖いが主婦達の威圧の真似をし、モニカは息継ぎもせず、弱さに付け込まれぬ様に自分の主張を言い切った。


「なっ!」


 男達はそんなモニカの指摘に顔を真っ赤にし、口をパクパクと動かす。まるで魚のような動きだ。


 男達の中でモニカは弱い小娘という認識だった。いつも主婦達に守られている存在、自分自身ではなく他人に攻撃させている卑怯な女だと。


 だが、実際はモニカも自分の口ではっきりと意見できる人間だった。弱ければ攻め入り、もう市場へ行きたくないと言うまで心にも、体にも、そして畑も徹底的に痛めつけてやろうと思っていた。自分よりも一回りも二回りも若い女だ。それが可能だと思っていた。しかし、目の前にいる女は決して小娘ではない。あの主婦達と同じ激しい舌と眼を持っていた。


「それに私の野菜を食べれば病気が治る?そんな事私は一言もいってませんけど。美味しいから元気が出るとは言われた事ありますけどね」


 語尾に挑発的な笑いを含ませれば、カッとなった男の内の一人が鍬を振り上げる。それをモニカはピッチフォークで牽制した。


「商売態度も変えない、売れないのを責任転嫁する、自分の子供くらいの娘に手を上げる。言葉にすると分かりません?凄いクズだって」


 これ以上激情させては駄目だと思ったが、ついポロリと本音が飛び出る。でも出てしまったものはしょうがない。モニカはニコリと笑った。


「こっ!この!お前言わせておけば!」


 激情した男は振り上げた鍬をそのままモニカへと振り下ろす。いや、下ろすだろうなとは思っていたが、実際こうなってみると恐ろしいものだ。モニカは自分の魔力を思い出し使おうとしたが、こういう時に限ってうんともすんとも言わない。


(本当、使い方わからない!)

 

 魔術の事は諦めてモニカは防御する為にピッチフォークを前に出す。そして怪我の一つや二つ出来る事を覚悟し、来るであろう衝撃にぎゅっと目を瞑った。


 その瞬間モニカの背後で爆発音のようなものが響く。それは何時ぞや聞いた塔脱出時の音に似た激しい音だった。




読んで頂き、ありがとうございます。


♦︎先日短編を投稿致しましたので良ければどうぞ!

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