変な奴は変
薄れゆく意識の中で目の前の奇怪な格好の男が『やってしまった』的な表情をしているのを見て、変な奴だが“良識はあるらしい”などと思った。
そして意識を取り戻したら見知らぬ天井と言うヤツだった。
「お、起きたか!」
「ん、あぁ」
ちょくちょく意識を失っては看病されるのも定番になってきた気がする。
「大丈夫か?少年!どうやら傷は完治してるし、後遺症も無さそうではあるが…」
「誰?」
目の前には例の奇怪な格好の男が、心底安心した顔をしていた。
「お、起きたか」
「クッフ船長もいたんだ」
クッフ船長は柄にもなく真面目な表情をしていた。
「すまん。護衛の任務を請け負っているにも関わらず生死の関わる事態に陥らせちまった」
クッフ船長は深々と頭を下げて謝罪してきた。
「いやいや、まさか人とぶつかっただけで死にかけるなんて、誰も思わんでしょ」
「いや、そう言う問題じゃ無い。トヒイで無ければ“死んでいた状況”を作り出してしまった事、事態が問題なんだ」
「いや、ぶつかっただけで人死がでる状況は予想できんでしょ」
「確かにこんな風になるとは『普通』は考えないだろうが、すれ違いを装った“暗殺者”や“賞金稼ぎ”である可能性は充分にあった。今のお前はそう言う「立場」なんだ」
「は?」
「お前は、限定的とは言えギルドで正式に『賞金首』として扱われてる。その上でウソンセを「あんな風」に出てきてる訳だ。この先、いつ命を狙われてもおかしくねーんだ」
そう言えばちゃんと認識して無かったが、今の俺は“獣人の英雄を殺した賞金首”となっていた。
『命を狙われる日常』と言う異常性を非日常性の中にいる事実を認識出来ていなかった事に気付かされた。
「モンスター」なんてモノが闊歩して、「冒険者」なんて職業が当たり前の世界で、生まれた時から命懸けの人生を経験している筈なのに、どうにも『そこら辺』の考え方が甘い傾向がある。
「お前やお嬢ちゃんの命を守る事が前提の護衛任務を請け負っている。その筈なのにお前を死なせかけてしまった」
「まぁ、そうなんだろうけど、そうなると潜水艦での俺の行動を許した事はどうなるの?あそこでも充分死にかけたと思うんだけど…」
「アレは任務度返しで『依頼主』が主導で行動したんだ。切羽詰まった状態でもあったし、選択肢が無かった。だが今回、お前が死にかけた理由はそんな状況下で起こった訳じゃねー」
「まぁ、そう言う事なら…」
「少年は本当に大丈夫なのか?私が不注意で殺してしまったと思い、ヒヤヒヤしていたのだが、他の者が言うには“何の問題も無い”と言う事だったが…」
「はい、この程度なら慣れてますんで、死にませんよ。ただ、悪いと思うならここでの経費を少しばかり払っていただけたら」
「この程度…。君は首がひしゃげ、内臓が破裂し、眼球が1つ潰れ、衝撃で足が引きちぎれそうにまでなっていた。ここで使える回復術や回復薬でも元に戻すには間に合わない状態だったのだが」
おやや?思っていた以上に重症だったわ!人とぶつかっただけで、そこまでの重症になるのか?即死レベルのダメージを喰らうって本当に車に轢かれるのと同様の衝撃だったって事か?いや、それ以上じゃねーのか?
「君にかかった経費との事だが、君の傷は私の低級の回復法術をかけただけで全解したし、この場所はギルドで無償で貸し出している休憩所みたいな場所だから、金銭的なモノはかかってない」
「あっそうなの…。それならまぁ、気にしないで…」
「いや!いやいや!!そう言うわけには行かない!自分のしでかした事に責任を持つのは人として当たり前の事」
どうにも俺を轢き殺しかけた奇怪な格好の男は“責任”を感じている様子。まぁ、普通は人を殺しかければ責任を感じるのは当たり前なのだろうが、そんな前世で当たり前な『倫理観』はこの世界でも通用するわけでは無い。
今でこそ冒険者となって“身分”がハッキリとしているが、身分の定まっていない頃ならばモンスターとさほど変わらない扱いで、場所にもよるだろうが、いきなり殺されても文句の言えない世界だったりする。
現状、俺はギルドに懸賞金がかけられている様な存在で、最悪、殺されても仕方がない犯罪者の様な扱いになるだろう。
それなのに目の前の男は律儀にも責任を取ろうとしている。
「聞いた話によれば君たちはルバンガイセクイの学園都市に向かっているとの事!ならばその道中、私も護衛に加わろう。君らを生きて学園都市に届ける事ができて初めて償いとなろう」
何だろう…。償い云々を唱えているが胡散臭い。
責任を果たそうとしていると言うより、護衛をする為にこじ付けてる様にしか感じなかった。
だが、目の前の奇怪な格好の男からは、『クズの臭い』はしてこない。故にこの提案が『悪意』から来るものてば無いのは分かる。しかし完全なる『善意』とも受け取れない“何か”を感じる。
「金銭以外の償いなんて求めて無いよ。こっちは元からの護衛役がいる。アンタにまで守ってもらう必要なんて無い」
「そう言わないでくれ。手前勝手に私の懺悔を押し付けているのには理解している。しかし、しかしだ!そうでもしなければ治らん!治らんのだ!」
「治らん??」
「そうだ!私の中にある負目が、私を苦しめる。この後悔の念を晴らさねば!私の中に“一生の悔い”として残り続けてしまう。それでは辛い。余りにも辛い」
「はぁ?」
「故に!君を助ける事で償いを完了し、後悔の念を消し去らなければならない」
「つまり、こちらの都合なんて関係無くて、貴方の一方的な願望で私達を護衛したいと」
いつの間にか部屋にいた、ウヨジィが奇怪な格好の男の真意をつく。
「そうだ。その通りだ。先程も言ったが、手前勝手なのは承知の上で申し出ている」
「な、なるほど…。クッフ船長はどう思う?」
「んな。まーこの件に関しては既に話し合ってはいるんだがよ。コイツはこんなナリだが『世界教の武闘僧』らしくてな。戦力的には申し分ねーのは確認済みなんだがよ」
「武闘僧?確認済み??」
「あー、お前が寝ている間にな。ちょっくらな」
「何かあったの?」
「まー何だ…。コイツが護衛に相応しいかどうか実践してみせるってうるさくてな、うちの若い衆に相手させたんだがよ。確かに言うだけの事はある実力だったよ。うちのがコテンパンだったからな。実力は同席してた嬢ちゃんもお墨付きだ」
「ええ、私の知ってる武闘僧より、かなり実戦慣れしてる様子だし、対人戦も問題なさそうなのは分かった」
「なるほど…」
『なんか面白い子やねぇ』
ンサヤイバリが俺とウヨジィにしか聞こえない声で話しかけてくる。
ウヨジィ以外の人間が目の前にいる状況で話しかけられた事は無かったが、どうやらンサヤイバリの声は俺とウヨジィにしか届いてはいないようだ。
魔力のパスを繋げてる者にだけ聞こえている声だと言う認識は、なんとなくあったが、確実かどうかを試した事は無かったのでそれをしっかりと知れた事は良かった。
「そう言うわけで少年!一緒にルバンガイセクイの学園都市まで行こう」
「何で俺らが逆に誘われてるみたいな感じになってんの?」
「ま、“ついて来たい”って言うんなら別に断る必要も無いんじゃない。無償で護衛役を引き受けるって言ってるんだから」
「こちらとしては微妙な立場だ。受け入れは個人的には勘弁して欲しいところだが、雇い主の判断次第で受け入れる」
『私はぁ、賛成よぉ』
「んー。反対する必要は無いかぁ…。でもなぁ……」
「おや?まだ何か?」
「何かなぁ…。確信は無いんだけどさ……。自分の為にって言うのは納得出来たんだけどさ。「償いたい」って言うのは“嘘”だと思うんだよね。そういう意味で信用おけない人物を近くに置きたいとは思えない」
そう奇怪な格好の男の目を見ながら突きつけると男はギョっと目をひん剥いて分かりやすく動揺した。
その反応に周りの連中も再び警戒の色を強くした。クッフ船長あたりはいつでも武器を抜ける様に構える。
「やっぱり、別に“何か”ありそうですね」
「た、確かに本音を言えば「償いをし後悔の念を消したい」と言うのは二の次で、ついて行きたい本当の理由は…」
「本当の理由は?」
「ルバンガイセクイの学園都市にいる『【聖女】ナン=オルナイセ』様に会いに行きたいのだぁ!!!」
「は?」
奇怪な格好の男は大声を出して立ち上がり宣言するかの様に言い放って来た。
「聖女様は今、ルバンガイセクイの学園都市の学校に在学中となっており、本国から離れられて簡単には会えない状態なのだ!」
「お、おう」
「更に私は『隣師』とは言えまだまだ修行中の身の上、理由無く国外に出向く事は固く禁じられているのです。ですが、「他の想い、自の想いが共にあるならば、その身を持って致すべき」と言う“教え”に従いその過程で国外に出る必要があるならば、出国が許されるのです!!」
「おい。ちょっと待て!つまりってーとアレか、謝罪したい贖罪したいっつー事も実際は建前で、その聖女様ってのに会う為に体良く利用しようとしてるって事か?」
「そう言う事で間違いない」
「素直なのは良いけれど、そんなに堂々とされてもね」
俺らを利用すると宣言する男に呆れ顔のウヨジィ、そして警戒色を強める海賊団とあまり良く無い空気感で部屋に広まる。
「成る程。つまり世界教や俺らに“スジ”を通した上で自分の思い通りに動きたいって訳だ。うん、良いんじゃないかな」
「おい。良いのか?」
「なまじ、腹に一物抱えてそうな輩より、コレだけ“あけすけ”な方が信用できるってもんでしょ」
「なるほど…か?」
実際、目の前に奇怪な格好の男からクズの匂いを感じない。“本当に信用できるか”どうかは別にして俺らを騙してどうこうする程の『悪意』は無い様に思える。
ならば断る理由はそこまで無い。
「ルバンガイセクイまで一緒に行く理由は「護衛」で有り、「贖罪」の為だから褒賞の類は必要無いって事で了解?」
「もちろんだ!私としては聖女様に会えれば何の問題も無い」
「じゃ、クッフ船長。そう言う事なんで」
「はぁ、まぁ、雇い主がそう言うなら受け入れるけどよ。コイツを向かい入れた結果、何らかの不都合が起きた場合の保証は出来かねるし。『こちら側』に損益が出た場合は、雇い主側に【保証】を求める事になるからな」
「そら、そうなりますよね。でもまぁ、良いですよ。なんかあった時の“責任”はこちらで持ちます」
とは言いつつ、何の「責任」をどの様に「保証」すれば良いのか分からないのだが…。
「寛容な判断に心より感謝を」
「それはそうと、一緒に着いてくるなら先ずは「名前」を聞かせて欲しいのだが」
「コレは申し訳ない。他の者には名乗っていたのだが、意識を失っていた少年には、まだであったな!申し訳ない。私は【タオ=クニンキ】気軽にタオと呼んでくれ」
「んじゃ。タオさん。俺はトヒイ=ナエサ、取り敢えずルバンガイセクイまでよろしく」
「うむ。よろしく任された!」
タオがにっこり笑って満足そうに頷いている。
周りの連中は少々訝しげな表情をしていた。
「ところで、その服装は何?まさかその格好が世界教の正装とかじゃ無いよね?」
「確かに世界教の正装では無いが、ある意味『正装』である事には代わりない!これこそが聖女様を慕う者が着るべき正装である!!」
「『アイラブ聖女』が…」
「何とトヒイ少年!この『柄の意味』を知っているとは!まさか!お主も私と同胞なのか!」
タオの上半身はピチピチのピンク色Tシャツで胸元に「アイ♡聖女」と書かれている。但しその文字は【日本語】だった。
アイが片仮名でラブはハートの絵で聖女が漢字で書かれていた。
確かに、この世界で日本語を見たことは無かった。ギルドの適正試験の各国、種族の文字の確認テスト的な問題の中にも日本語は存在してなかった。
この世界では一般的な認知の無い言語であるらしい。だが曖昧にでも前世の記憶を持つ俺にはコレ《アイ♡聖女》が「絵」としてでは無く「文字」として認識できた。
前世でオタクや勘違いした外国人がよく着るネタ服の一種に近いデザインだ。前世では片仮名や漢字よりは英語が使われているのが多かったと思うが。
「聖女様ってのは『アイドル』なのか?」
「いや、聖女様は『聖女様』だが?」
聖女はアイドルでは無いようだが、タオの服装は、どう見ても前世で見たことのあるやうな“アイドルオタク”そのソレだった。
今までにも、この【世界の世界観】に合わない文化物に触れた事はある。獣人の国での宿屋関係などもそうだった。
明らかに【日本的】で明らかに【後付けされた】感じを受ける。
このオタク文化的な衣服も確実に“日本から持ち込まれた物”に違い無いだろう。
前から思っていたが確実に俺以外の“転生者”だか“転移者”がいると見て間違いない。
その上で「アイドル」そのモノの文化は伝わっていないのだろうか?それとも既に廃れてしまったのだろうか?まぁ、それを知ったところで何がどうなる訳でもないが。
『ねぇ、ねぇ。アイドルって何なんぇ?』
ンサヤイバリがアイドルに興味を持ってしまったようだ。
「んじゃ、聖女様に会える会えないは別として、ルバンガイセクイの学園都市までの護衛。お願いします」
「うむ、このタオ=クニンキ。【世界の意思と自身の心】に誓ってトヒイ少年を災いから護りきる事を誓おう」
そう言うとタオが右手の親指と人差し指で丸を作りOKサイン様な形にして自身の胸と額に交互に押し付ける様な仕草をとった。初めてみる仕草で多分宗教的な仕草なのだろうと思う。
「よろしく。タオ」
こうして奇怪な格好の武闘僧タオ=クニンキが仲間に加わった。




