トラブルがっかり
「はぁ、《ウコウ様》に伝言って、別に私はそんな事が可能な位には付いてないのだが?伝える事の出来ない事付けなんぞ無意味ですよ」
「それなら大丈夫だろ。お前をここで殺して死体を世界教の本部にでも贈り物として届けたりすりゃぁよ。反応ぐらいはしてくれんじゃねーかな?」
「はぁ、その手の“贈呈品”は結構届いてるから無意味ですよ。世界中に根を張ってる世界教は「恨み」もそこそこ買ってますから。勿論、知られない様に処理してますから、表沙汰には、ならないですがね。そんな贈呈品が1つ増えても「その他」と一緒くたに処理されて終了です。残念ながらウコウ様に届く事なんてあり得ません」
「マジかよぉ」
さらっと悍ましい世界教の裏話を聞いてしまったギルド内の冒険者や職員がルワコ以上にたじろいでしまう。
周りのざわつきを尻目に青年僧侶は魔具等を扱っている販売カウンターに向かっていく。
「ギルド長に頼んでた「アレ」もう届いてますよね。やっと引き取りに来れたんで受け渡してもらえます」
「え、えあ。えっとあの、アレとは?」
空気を読まない青年僧侶の問いかけに売店担当のギルド職員が状況が理解出来ず戸惑う。
「おや?聞いてないですか?それともまだ届いていない?えっと…。《タオ=クニンキ》宛で届いてると思うのですが」
「え?え…。えっと…あの……しょ、少々お待ちください。今、確認してきますので」
「はい、お願いします。ずっとずぅーと待っていたもので!」
こんな状況下での催促に困惑しながらも売店担当のギルド職員が奥に引っ込んでいった。
青年僧侶は誰もが分かるぐらいに興奮しており状況についていけない周りの面々は困惑していた。
そんな中、1人の冒険者がこっそりと外に向かって動き出した。全員が困惑してあたふたしている中、青年僧侶との問答し、何やら思考しており呆然と動きを止めているルワコを見て、「今しかない」と逃げようとした。
だが、そんな事は許されなかった。
バガンと音が聞こえたと思ったら剣が逃げ出した男の首を貫いて壁に刺さる。
「逃げんなよ。もうちょっと付き合ってくれよな」
ルワコは物思いに耽っておきながらも視野は狭まってはいなかったらしく逃げよとした冒険者を逃さない為と同時に見せしめの為に一撃で殺して見せた。
そんなふうに人、また1人殺害されてしまったのに青年僧侶は、そんな事お構い無しで興奮を隠しきれず上気していた。
「おい、お前を殺して送り届けても無意味なのは、まぁ理解したよ。でもよ。なんかムカつくからお前にはやっぱり死んでもらうわ」
青年僧侶は殺害予告をされてるにも関わらずそれを無視して何やらだらしない表情で妄想にふけっている様な感じだった。
「聞けや。メガネ」
「ダメだ。我慢できない!!」
青年僧侶は大声を上げると突然に僧服を脱ぎ始めた。
鍛え上げられた筋肉質の上半身が顕になる。無駄に膨れ上がった筋肉では無く動きやすく、研ぎ澄まされた実践向きの筋肉だと分かる人には分かるだろう。
こんな状況下なのにも関わらず一部の冒険者が“ほぉ”と見惚れてしまう程だった。
「なんだ?いかれてんのか?」
筋肉を見せびらかしながら1人キャッキャしている青年僧侶を“気持ち悪い物”を見る様な目で見つつ逃げようとした冒険者の首に突き刺さった剣を抜いて青年僧侶に向ける。
剣を向けられ、それ相応の殺気を飛ばされてるにも関わらず、それでも青年僧侶は意に介さない。
そうこうしてるうちに購買カウンターの奥から何やら持ってギルド職員が戻ってきた。
そして何故が上半身裸で悶えている青年僧侶を見て言葉を無くして呆然としてしまった。
「待ってましたよ!ソレが!『聖女様』の!」
「え、あ、あの…。はい、コレがクニンキ様宛にギルド長が取り寄せておいた品物です」
「聖女?お前は『覇王派』じゃねーのか?」
ギルド職員から物を受け取った青年僧侶は子供の様にはしゃぎながら品物を受け取って愛おしいそうに抱きしめた。
「なんだか、もうどうでもいいな。取り敢えず、お前殺して、ここら辺の奴らも殺して、ここのギルド長が帰ってくるのを待つとしようかな」
そう言って剣で青年僧侶を示す様に向けて振る。その際に剣にまとわりついていた血が飛び散り青年僧侶の方にも飛んでいった。
血の飛沫が品物に触れそうになるのを青年僧侶は腕を伸ばして防いだ。
「お前、大事な…大事な……『聖女様グッズ』を汚そうとしたな!私が!!遂に手に入れる事が出来た特別仕様の特注品を!!汚らしい血で汚そうとしたな!!!」
「はぁ?聖女様グッズだぁ?やっぱ、いかれてんな。なんならその聖女様グッズと一緒に斬り刻んでやるよ」
「黙って端っこにでも居れば、お前の事なんぞ放置して出て行ってやろう。と思っていたのですが…。こんな事をされたんじゃあ、もう、取り返しは付きませんよ」
青年僧侶は持っていた聖女様グッツを丁寧に売店のギルド職員に渡そうするも、そんな行動を待つ様なルワコでは無く斬りかかってくる。
しかし青年僧侶は、見向きもせずに裏拳を剣の刃の付いてない面の部分に当て、斬撃を逸らす。
聖女様グッツがしまわれるを確認した青年僧侶はルワコの方に向き直る。その目は先程まで少年の様にはしゃいでいたとは思えない程に据わっており、明確な敵意を通り越した殺気を放っていた。
「なんだよ?やっとヤル気になったのか?」
「貴様の様なゴミカスの事などどうでも良いし、ここで何が起ころうともどうでも良かった。だが私の至宝を汚そうになった。あまつさえ斬るなどと…。万死!万死に値する愚行!!貴様にはもう生きる価値など無い!!!」
「おいおい、僧侶様とは思えない言葉だなぁ。オイ」
青年僧侶は構もせず一歩踏み出す。普通にただ前に進むかの様にルワコに近づく。
無作為に近づく青年僧侶にルワコは斬りかかるが、当たる前に弾かれる。しかも弾いた拳が早すぎて見えなかった。
ルワコは咄嗟に青年僧侶と距離をとる。それでも当たり前の様にスタスタ近づいてくる青年僧侶に斬りかかり続けるも当てる事は出来なかった。
青年僧侶に気圧され壁際まで追い詰められたルワコの頬に青年僧侶の裏拳が打ち付けられる。
軽く当てた様に見えたがルワコは身体ごと吹き飛ぶ。吹き飛ばされた先で怖気付いて固まっていた冒険者ごと壁にぶつかり崩れ落ちた。
壁の瓦礫や冒険者を押し除けて体勢を立て直そうとしたルワコの顔面に再び青年僧侶の前蹴りが炸裂し壁をぶち壊して外に吹き飛ばされる。
ルワコは理解が全く追いつかなかった。目の前の半裸の男の動きに全くついて行けない。今まで何度か「武闘僧」ともやり合って来たが、これほどまでに圧倒的にやられる事など無かった。
息も絶え絶えで取り敢えず立ちあがろうとするも、上から拳で叩きつけられ地面にめり込んで余波によってクレーターを作った。
最早、意識を無くしたルワコを青年僧侶がメガネの位置を直しつつ見下ろす。
「な、何があった?貴方はさっき入って行った世界教の僧侶さんだよな」
ギルドの周りに集まって様子を見ていた冒険者の1人がおずおず状況を確認する為に聞いてきた。
「別にゴミを処理したまでですよ」
そう言うと意識を失って倒れているルワコを凄まじい勢いで蹴り飛ばす。蹴られたルワコは変な形になりながら海の方に吹き飛んでいった。
「後の処理はお願いします。もうあんなゴミを近づかせない様にして下さい」
「え?あ、ああ。分かった。おい!いくぞ」
吹き飛んだルワコを捉える為に外にいた冒険者達が動き始める。
青年僧侶はため息混じりにギルドの建物内に戻っていった。
ギルドの建物内は既に職員達が慌ただしく事後処理を始めていた。
その中で先程までルワコの相手をしていたギルド職員がカウンターから出てきて青年僧侶にお辞儀をする。
「オクニンキ様、どうも、ありがとうございます」
「別に大した事では無いですよ。ただ、あの壁の修繕はそちらでお願いします。つい、力み過ぎてしまいぶち抜いてしまいましたが、ゴミを制せなかったギルド側の不手際って事で…」
「それは、ハイ、大丈夫です」
「それと」
青年僧侶が壁際でルワコにやられてぐったりしていた冒険者を指差しながらギルド職員に告げる。
「そいつ多分、あのゴミのお仲間ですよ。さっさと押さえた方が良い」
「な!」
仲間だと指摘された冒険者がガバッと起き上がってギルド職員に襲いかかってきた。
「…んてね」
「がっ!!」
不意を突いて襲い掛かろうととした冒険者が中途半端な状態でブルブルと小刻みに震えながら硬直していた。
襲われそうになったギルドは何やら魔具を手にしており、その効果で冒険者を捉えたらしい。
「何だ、分かっていましたか」
「ええ、流石に。今回の件をルワコ1人では難しいでしょうから、内通者か手引きした者がいるのは確実。そう考えた上で状況から判断したら何故か殺されてない彼が1番怪しい」
「ギルド内に内通者がいるかもとは?」
「その可能性もまだ捨て切れてはいませんが、ソレはおいおい。何はともあれ、タオ=クニンキ様。今回の助力、誠にありがとうございます」
「全く、あの程度は貴方なら、どうとでもなったでしょうに」
「そんな事はありませんよ。では、先程預からせていただいた、お品物をお受け取り下さい」
ギルド職員は丁寧な口調で告げてくるが手元では魔具の拘束具で雁字搦めにする作業を同時進行で行っていた。
「そーです。そーですよ!待ちに待ったんです。ギルド長に頼み込んでやっと!やぁぁっと!手に入れることが出来たのです!」
青年僧侶は物販カウンターで再び聖女様グッツを受け取るとその中からズバっと上着を取り出した。
それはピンク色の生地に黒字で『アイ♡聖女』(♡は赤色)と描かれた半袖のTシャツで青年僧侶は愛おしそうにソレを着た。
青年僧侶は今着たシャツ以外の聖女様グッツを確認する様に取り出していく。
“色とりどりに光る棒”に“聖女様の似顔絵が描かれたうちわ”“聖女を敬う言葉が描かれた長めの手拭い”“聖女様の等身絵を透明の板に貼り付けてくり抜いた物”“カラフルに可愛い絵の描かれた湯呑み”“聖女様を模った人形““ディフォルメの効いたぬいぐるみ”などetc
青年僧侶は目を輝かせながらソレらを確認していった。
「素晴らしい!この至高の宝はルバンガイセクイの技術があってこそ成立する造形!他で作られている粗悪品とは天と地の差!!300年前に大賢者様がもたらした叡智に感謝を!!」
青年僧侶は涙を流して感動していた。
ギルド職員は表情を変えず微笑んでいるが内心ではドン引きしていた。
青年僧侶は一度丁寧に出して確認した品々を再度丁寧にしまい込んで満足そうに微笑んだ。
「クニンキ様はこの後はどの様に?当ギルド長に会われますか?」
「そうですね…。私は修行を題目に放浪中で時間もありますから、感謝の念を伝える為にも何日か滞在しようと思います」
「分かりました。ギルド長に伝えておきます」
「では」
青年僧侶【タオ=クニンキ】はホクホク顔でギルドの建物を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
コジッハ海門が開放された。どうやらギルドでの“いざこざ”は解決したらしい。
入港したら港のあたりでも何だか騒ぎが起こってい様子だった。
「何だか騒がしい場所だな」
「そうね…」
俺もウヨジィも船酔いで気分が優れない為、騒動事に野次馬する元気も無い。
船酔いの薬を求めて取り敢えずこの街の冒険者ギルドに向かう事にした。トボトボ歩いていると目の前に“ケッタイな格好”をした男が何かを掲げぶつぶつ言いながら迫ってくる。
スキップでもしている様な動きで、このまま進んできたらぶつかると思い避けようと思ったが、気分が悪く咄嗟の動きが遅くなったのと前から来た男の思った以上に早い動きに回避が間に合わず結局ぶつかる事になった。
「ぎゃば!!」
ケッタイな格好の男が俺にぶつかって転ぶかと思った瞬間、吹き飛ばされた。
スキップ気味の動きだったとは言え、ただ前に向かってきてただけの男にぶつかっただけなのに「バイク」にでも轢かれたかの様な衝撃だった。
バーンと大人と子供の体格差があるとは言え人同士がぶつかった音とは思えない音を響かせて俺は空を舞った。
力なく首から落ちてグシャっとやな音を鳴らす。更にはぶつかった衝撃で肋骨や鎖骨など何ヶ所か折れた感じがした。
普通なら多分死んでる。
まぁ、俺の場合は強化細胞で魔力を巡回させればこの程度なら意識が無くなっても回復する。
即死レベルの怪我を治せる強化細胞でも船酔いは治せない。そんな理不尽を感じながら意識を落とした。




