私を放置する婚約者
「ちょっと、ジャクリーン! あんたの婚約者、今日も例の幼なじみのとこ行ってるの?! いくら何でもおかしいでしょ!」
私の親友のロレッタが我慢できないとばかりに憤慨している。
「⋯⋯仕方ないわよ、急に幼なじみの体調が悪くなったらしいから。さっきエドワード様の侍従からエスコートできないって知らせが入ったの」
そう言いつつ私はため息をついた。
婚約者との交流もせず、病弱な幼なじみにつきっきりなエドワードに、いつしか期待しなくなっていった。彼が重要なお茶会や夜会を欠席するたびに、クレイ伯爵家の侍従が我が家に詫びに来たものだ。
今日の夜会もそうだった。突然やってきたクレイ伯爵家の侍従を思い出す。
『申し訳ありません。エドワード様はナンシー様が苦しんでいるのに、放ってはおけないと仰せになっております』
『⋯⋯婚約者が夜会で笑いものにされるのは放っておけるのに?』
『⋯⋯面目次第もございません』
侍従エリオットは、それ以上言い訳もせず頭を下げた。長い黒髪で隠されているが、涼やかな茶色い目元は、どこかエドワードを彷彿とさせる。
『エドワード様が不在なのはあなたのせいではないでしょう。私も気にしてないから大丈夫よ。
だいたい、婚約者と悠長にダンスなんかしてたら、料理にありつけないかもしれないじゃない』
私の冗談に、ようやくエリオットが小さく笑った。彼に微笑み返し、私は一人夜会にやってきた。
実際、私はエドワードのことなど気にしていなかった。私は待つのが苦手なのだ。顔合わせ以降、まったく会おうともしない婚約者。待ち続けるには、あまりにも時間が経ちすぎてしまった。
今日は王太子の婚約記念パーティーだ。それなのに、幼なじみの具合が悪いというだけで重要な夜会をすっぽかすなどありえない。
それどころか、ここ数年エドワードの姿を見たことはない。
「⋯⋯一度、クレイ伯爵家を訪ねてみようかしら」
そろそろ婚約を見直すべき時期かもしれない。幼なじみを理由に、婚約者である私を放置するエドワード。一度くらい、伯爵家に文句のひとつくらい言ってやっても良いはずだ。
耳ざといロレッタが、私のつぶやきに反応する。
「いいわね! 私も一緒に乗り込んでいって、エドワードとかいう婚約者とその浮気女に、どういうつもりか問いただしてやるわ!」
息巻くロレッタに若干圧倒されるが、私のために怒ってくれているのだと思うと、なんだかくすぐったい。
本当にロレッタを連れて行くかどうかはともかく、父に婚約見直しの話をせねばならない。
この婚約は、わがスペード子爵家とエドワードのクレイ伯爵家との交易を前提とした政略だ。父がすんなり婚約を見直してくれるとは思わない方が良いだろう。
私は不安な気持ちに蓋をするかのように、ぎゅっとこぶしを握りしめた。




