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廃カス課金プレイヤーがチート知識で神職『リミットブレイカー』になるまで  作者: なんくるないさ~
第二章 アルカノ魔法国編

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2-28 緊張してると意外にバレないもんですね



「………はははっ」


思わず乾いた笑いが口から漏れる。


こいつ、SSランクどころか、SSSランクを、指先でちょんと触っただけで引き当てやがった。


30億分の1だぞ。


おれの莫大なマナを吸って顕現した太ったナマズ(窒息中)の立場が完全にゴミ箱行きだ。


おれの頭上で仰向けになりながら痙攣してら。



「……ぷるぷる、してる。………あなたのお名前は『ぷるぷる』ね」


そういえばこいつの命名センスは路頭に迷い込んだあげく崩壊してるんだった。


とんでもなく安直な名前が付けられた神話級スライムを、世界の滅亡を司るバケモノを、地震娘は完全にゼリー感覚で愛でていた。


おれは頭の上で完全に動きを止めた太ったナマズを一旦送還させると、これからの行動を全員に指示する。



「よし、とりあえずここでするべき事は完了した。おれはもう1つやる事があるから、アイシャ、お前がリーダーとなってみんなを連れてエルフの国へ向かってくれ。そして7日後の夕方になったら、お前の家へゲートを繋いで待機しててくれ。おれも終らしたら向かうから」


「……アキヒロ、は? 一緒に、行かない、の?」


「ああ。お前からの依頼を完璧にクリアする為に必要なことなんだ。必ず後で向かうから」


「……うん。わかった、よ」


リターナは耳を一喜一憂させながら、また抑揚の無い声で納得の言葉を口にする。



さてと、おれは直立不動のまま固まっている嫉妬獣を無視し、驚愕の目をした地震娘へと近付く。


「ルナ、ぷるぷるには召喚士(サモナー)の経験値稼ぎをしてもらうから、ちょっと借りるぞ」


そう言っておれは地震娘の腕に収まっていたぷるぷるを手に取り、デスライドダンジョンの入り口へとゲートを繋げると、モンスターを蹂躙してくるよう指示を出して、ゲートの中へと放った。


これでほっといても地震娘の熟練度は上がって行くだろう。


その間転職は出来ないが、そんなことは些細な事だ。


あのバケモノスライムであれば、おれが合流する頃にはかなりの熟練度が上がっていることだろう。


不眠不休の完全無敵の暴虐無道の行歩鏖殺する召喚獣なんだ。


Bランクダンジョン程度のモンスターなど、哀れで同情を禁じ得ない。



お次はっと、まずゲートで助平馬のところへ繋ぎ、リターナをそこで待機するように指示して送り出す。


いったい何故?と首を傾げるリターナの顔が、みるみる青ざめていくのが見て取れた。


星詠みの力を使ったのだろう、震える声で「死なないで、ね」と不穏な声を掛けながら、彼女はゲートの向こう側へと消えて行った。



さて、この場所が廃墟となるのはまずいので、おれは魔法を発動させ、まだ硬直から解けない嫉妬獣を一旦闇の中へと隔離し、スタコラシスターズへと顔を向ける。


1度脳に焼き付いた悪夢は、刺青のように消えはしないのだろう。


泡娘はその恐怖だけで、女子会後に見たあの骨の髄まで揉みくちゃにされた、挽き肉ミンチ姿へと変貌を遂げていた。


怨念とも呼べる程の強い想いは、今後の事を想像するだけで、身体への影響も及ぼすようだ。


範○刃牙ですか?


心をキルした数で云うのであれば、嫉妬獣は間違いなくネームドモンスターだろう。


言葉は通じる、が、常識は通じない。



地震娘は、生気の欠けた歪笑を顔に貼り付けながら、残像を置き去りにする程のスピードで、ぷるぷるがいた虚空をエア撫で撫でしている。


手に木をもたせれば一瞬で火が起こるだろうが、きっとその目から溢れる大量の涙ですぐに鎮火するだろう。


その歪んだ笑みは、まるで欧米映画に出てくる不気味なガキを彷彿とさせ、背筋に冷たい気配を感じさせた。


いくら☆6の魔物師(ティマー)であっても、嫉妬獣という人災の猛獣を扱うのは不可能らしい。


道中の凄惨な未来を想像したのか、漆黒の闇に落ちていくそのつぶらな瞳を、そっと閉じた。


嗚呼、彼女は生きる事を諦めたんだな。



おれは心が壊れた2人に、自殺防止の拘束魔法と回復魔法を重ね掛けし、ゲートでいつもの草原へ飛んだ。


時間にすれば僅か5分足らずだが、おれは草の香りと頬に当たる風を感じながら、その時が来るのを待つ。


―――突如、何も無い空間から、ビキビキという悍ましい奇音を発しながらドス黒いひび割れが発生し、最後はバリンッ!と大きな音を立てて次元の壁が割れた。


そこに立っていたのは、白く輝く目から血を流し、少し斜め上を見上げる、最高難易度のレイドボス、嫉妬厄災(ジェラディザスター)。


その口元からは「あなたを殺して私も死にます」と、同じ言葉を呪言のように延々とくぐもった声で呟き続けている。



おれはふぅと一つ、肺に溜まった重い空気を吐き出し、迷うことなく彼女の方へ歩み出した。


刹那、世界の終焉を告げるかのような轟音と共に、おれを殺すためだけに練り上げられた最上級魔法の嵐が吹き荒れる。


大気を引き裂く極大の魔力の奔流。


だが、おれは歩みを止めない。


迫り来る漆黒の雷撃を紙一重のステップで躱し、吹き荒れる炎熱を大剣の腹で完璧に弾き、空間を歪める土塊の障壁を同属性のマナで完全に相殺する。


一歩、また一歩。


おれはただ真っ直ぐに、彼女との距離を詰めていく。


狂気と悲哀に歪んだ彼女の顔は、おれの卓越した動体視線のなかで、言葉にならない悲痛な叫びを上げているように見えた。


置いていかないで!―――と。


それは、底冷えする呪詛の裏に隠された、あまりにも不器用で、あまりにも一途な彼女の魂の、剥き出しの哀求だった。


放たれる魔法をことごとく処理され、もう目の前まで歩み寄るおれへ対して、彼女の目に絶望の光が爆ぜる。


おれが意地と技術のすべてを懸けて魔法を処理しきり、ついにその間合いへと踏み込んだ瞬間だった。


彼女はアイテムボックスから白く輝く、どこまでも綺麗なミスリルの剣を抜き放ち、おれの首筋めがけて刃を振り下ろした。


その時―――おれは、自らの武器である剣を、無造作に地面へと放り投げた。


「ガチィィィン!!!」


硬質な金属音が草原に響き渡る。


おれは防御の構えすら取らず、彼女の放った渾身の一撃を、左肩の白銀の装甲だけで受け止めた。


衝撃で骨が軋み、凄まじい痛みが走る。


だが、構うものか。


おれはそのまま空いた両腕を伸ばし、彼女の華奢な身体を強く抱き締めた。




「えっ……!?」


アイシャの思考が、完全に凍りついた。


世界を滅ぼさんばかりに荒れ狂っていた殺意の魔力が、嘘のようにピタリと霧散していく。


意味が分からないとでも言うように、ただおれの腕の中で人形のように硬直している彼女の耳元で、おれは一言、優しく、声を掛けた。



「アイシャ。おれには、お前が必要なんだ」


その言葉が鼓膜を震わせた瞬間、彼女の身体がビクッと大きく跳ねた。


おれの真意を計りかねるように、怯えた子供のような瞳がおれの顔へと向けられる。


おれはそっと抱き締めた手の力を緩め、彼女の視線を真っ直ぐに見つめ返しながら、言葉を重ねた。


「だから、もう落ち着け。おれはお前を捨てたりなんかしない。必ずお前の元へ戻ると、今ここに誓おう。おれの命を懸けてな」



沈黙が、静かに世界を包み込む。


どれほどの時間が流れただろうか。



やがて、彼女の生気の戻った瞳から、大粒の、透き通った涙が溢れ出した。


それは、先ほどまで彼女の頬を汚していた、痛々しい血の涙の痕を洗うように綺麗に流していく。


狂気によってバグを引き起こしていた顔が、完全に、元の美しい彼女へと戻っていく。


そこにあったのは、すべてを救われた乙女の何よりも眩しい破顔の笑顔だった。


そして、彼女はミスリル剣を地面に落とすと、おれの胸へと全力で飛び込んできた。


折れんばかりの力で、狂おしいほどの愛おしさを込めて、涙を流しながらおれにしがみついてくる。


その温もりと涙の重みを受け止めながら、おれは静かに彼女の背中を撫で続けた。



―――やがて。


彼女はおずおずとおれの背中から腕を外すと、ゆっくりと自らの胸の前で小さく手を組み始めた。


そして、愛おしげに、優しくおれの顔を見上げるその美しい顔は、確固たる『覚悟』を決めた女性の顔だった。



そして―――彼女はそっと、その大きく綺麗な瞳を閉じる。


長い睫毛がかすかに震えていた。



おれは、静かに一つだけ息を吐き、彼女のその一途な、想いに応える。




――――――ネチュッ。



次の瞬間、顔を真っ赤っ赤っ赤にしながら、大慌てで体ごと後ろを振り向き、顔を自分の手で仰ぎながら「これで、私達も夫婦なんですね」と喜び勇んで跳び跳ねていた。



おれはそんな戯れ言をほざいてる嫉妬獣に気付かれないよう、素早く後ろに隠し持っていたそれ(・・)を、そっと【送還】を使って送り返した―――。




さぁ、これで憂いは無くなった。



次に向かうは、エルシオン聖王国だ―――。




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