2-1 おれが最強になる為に出来ること
「ちょ、ちょっとあんた! どういうつもりよ!」
あー、うるさい。
「こっちがどんな思いでここに立ってると思ってるのよ!」
いー、うるさい。
「絶対にあんたとアイシャを2人きりになんてさせないんだからね!」
うー、うるさい。
「それよりもあんた吐きなさい! アイシャにいったい何をしたの!」
えー、うるさい。
「呪いじゃないとしたら、アイシャの何の弱味を握ったのよ!」
おー、うるさい。
「あんたが――――――」
馬車の狭い客席のなかに、泡娘の怒声がこれでもかと撒き散らされる。
その横では、相変わらず地震娘が涙目で泡娘の服の裾を掴み、がたがたと小刻みな振動を座席シートに伝達させていた。
その凄まじい騒音をBGMにしながら、高級幌馬車は御者席のアイシャの手綱さばきによって、ゆっくりと街道を進んでいく。
―――うん。どうせこうなるだろうとは思ってたさ。
おれが「いらない」と秒速で拒絶したことなんか当然のように無視され、彼女たちは御者席の赤顔娘と何言か涙ながらに言葉を交わした。
その直後、我が物顔でおれのいる馬車の客席に強引に乗り込んできやがったのだ。
あいつらが大通りの真ん中に出現した時点で、おれの脳内CPUはすでにこの最悪の結末を100%予測していた。
赤顔娘が関わった時点で、おれに拒否権という名の人権が残されていないことくらい、数日間で嫌というほど学習させられている。
ここで下手に突っぱねて彼女たちを追い出そうものなら、またあの深夜の「圧迫面接&逆精神と時の部屋」が強制起動し、おれが折れて頷くまで一生部屋から出られなくなるだけなのだ。
判ってたさ。ハナからね!
しかし、本当にどうしようかな、この2人……。
はっきり言って、クソ弱すぎるのだ。
よくもまあ、ここまでイキがれるな。
逆に感心する。
このままのポンコツスペックで、この先のエリアに配置されている凶悪なモンスターのヘイトを買えば、間違いなくどこかの時点で一瞬にして肉体がドロドロに溶けるか、あるいはミンチになって死ぬ。
クマ吉からの付き合いだし、目の前でそんな凄惨なデスペナルティを見せつけられたら、さすがに効率厨のおれであっても寝覚めが悪い。
パーティで活動すること自体には、ヘイトの分散や熟練度を稼ぐ上で、明確なメリットはあるのだが、いかんせん今のこいつらの状態では、非効率なデメリットしか感じられないのだ。
―――はぁ。仕方ない。
どうせ無理矢理付いてくるというのなら、せめてパーティとして最低限の役目を果たせるくらいにまでは、おれの廃人知識でゴリゴリに鍛え上げてやるか。
後で投資分を回収できるかどうか分からない、かなりギャンブル性の高い先行投資になっちまうが……。
さて、そうなると、これからのパーティ構成とビルドはどう構築したものか。
おれは知恵の輪を解くような手際の良さで、2人の育成ルートを脳内でスワイプしていった。
―――よし。
まず、泡娘には、最終的に前衛・後衛のどちらでも立ち回れるクリティカル特化の【暗殺者】を目指してビルドしていこう。
あの斥候の試練の時の罠の精度や身のこなしを考慮すると、彼女は元々の素のステータスとして『DEX』と『AGI』の初期パラメータが異常に高いタイプのはずだ。
まずは、斥候タイプとしてパーティの索敵を完全に一任できるよう、最適化していく方向で調整する。
さっきこっそり生物鑑定のスキルを発動して確認したところ、彼女はすでに狩人の職は持っているみたいだから、まずは明日にでも盗賊の転職条件をクリアさせて、初期スキルを覚えさせるか。
その後は、とある特定の場所に行かないと上級アサシンに転職する為の基本職には転職できないので、ひとまずは基本職を片っ端から渡り歩かせ、基礎ステータスの永続ボーナスを雪だるま式に底上げさせていくのがいいだろう。
そうなってくると、もう一人の地震娘には、戦闘中のバフを担当する完全な『補助・支援タイプ』になってもらった方が、パーティ全体の生存率がグッと上がって安定するな。
ただ、この娘はステータスを覗いても調教師以外の職業履歴が一切白紙だし、最初のパラメータの偏りがまだ判別できない。
しばらくは戦闘での様子を見ながらの育成になる。
基本的には全能力を満遍なく底上げさせていくが、最終的には中盤のボス戦で必須となる【付与士】への転職を目標に据えてレベリングを進めていくとしよう。
そうなってくると……あのダンジョンで効率よく経験値を稼いで、あの街の神殿であれとあの職を回収させて……。
んー、こいつら2人が乱入してきたせいで、おれが昨日まで練り上げていた最高効率計画を、だいぶ大幅に練り直す必要が出てきたな。
まぁ、他人のキャラクターの最適育成をあぁだこうだと妄想するのは、廃人として嫌いじゃない。
とりあえず、やると決めたからには、こいつらも限界を超えた高みにまで、徹底的に引き上げてやるとしますか。
我が物顔で付いてくるからには、これからおれのレベリングの奴隷として、大いに役立ってもらうぜ。
すべては、おれがこの世界で前人未到の最強神職――【到達者】に、もう一度返り咲くために!
「――――――なんだからね! 分かってんの!?」
よー、うるさい。
「ちょっと、さっきから黙って聞いてるの!?」
らー、うるさい。
「だいたいあんたは最初の出会いからして―――」
りー、うるさい。
おれの脳内レベリング講義を完全に無視して、泡娘の機関銃のような非難の嵐はどこまでも続いていく。
―――おい、マジでいつまで続くんだよ、これ。
あんた、昨日の夜もギルドのロビーで、深夜の3時くらいまでおれの悪口を叫び散らかして大騒ぎしてたんだよね?
なんでそんな無限のスタミナが残ってるの?
対照的に、隈を極限まで濃くした赤顔娘が、睡眠不足でフラフラになりながら御者席で必死に手綱を引いている姿が見え、おれはただただ遠くなるはじまりの街を振り返りながら、深い、深いタメ息を吐き出すのだった。
おれの本格的な異世界大遠征は、初手から最大級の賑やかすぎるデバフ(一応パーティーメンバー)を抱えたまま、混沌のなかで幕を開けるのだった。




