第10話
「他の人に銃を売る……ですか」
「そう。実は私の知り合いにも優れた魔銃を欲している人が居てさ」
「……俺は別に今、銃を売るつもりは……」
別に俺は今、お金には困っていない。
錬金術の工房が必要なら、どこかからお金で借りればいいだけだ。
それに俺は昨日、魔銃を嫌う連中から襲われたばかり。
今、人に魔銃を売れば、奴らをさらに刺激してしまう……。
流石に俺だって命は惜しい。
悪いが――この話は断ろう。
「――ふぅん? その人が『銃の名手』と呼ばれる人でも売りたくないのかい?」
「銃の……名手?」
「名前はアイラ。巷では百発百中の『銃の名手』と呼ばれてる。本来、4割程度しか当たらない従来の魔銃を使っても、弾を外すことがないとか」
「……へえ、従来の魔銃で百発百中か……」
もし、その噂が本当だとしたら……余りにも凄すぎる。
神がかっている……といっても過言じゃない。
しかし――
「どうせ誇張じゃないのか? 俺だって職人をやっているだけあって、銃弾の命中率には自信があるぞ?」
「じゃあ、勝負してみれば良いんじゃない? 私の友達が勝ったら、君の魔銃を売る。……どう?」
「……わかった。そこまで言うなら勝負しよう」
ここまで言われたら、俺もその人の実力が気になってきた。
もしも本当に百発百中の銃の名手ならば、是非とも売らせてもらおう。
「じゃあ、決まりだね……! 私の友達を呼ぶから三日後にまた来てよ」
「わかった」
「決まりだね。じゃあ……これが錬金術の工房の場所だよ」
店主さんは紙に簡易的な地図を描き、手渡してくる。
「いいのか? もしかしたら、俺が魔銃を売らない可能性だってあるんだぞ?」
「んー、その時はその時かな。まあ、ラディアが認めるほどの魔銃職人なら恩を売っても損はないだろうし」
「そうか……」
俺たちはありがたく工房を借りることにした。
――◇――◇――◇――
「よしっ……じゃあ、錬金術を教えていくか!」
俺たちは錬金術に必要な材料を購入し、早速、工房に来ていた。
鉄は熱いうちに打てというからな。
「よろしくお願いします、クライン先生!」
「お、おう……!」
先生なんて呼ばれるのは初めてだけど……悪くないものだな。
俺は大きな鍋――錬金釜の前に立つ。
「じゃあ、まずは錬金釜を清潔な水で満たす」
「はい……!」
リリスは井戸から汲んできたであろう水を持ち上げようとする。
「待った。井戸から汲んできた水は厳密には汚いから……一回、濾過してから煮沸消毒しなきゃいけない」
「そうなんですか……?」
「まあ、面倒臭いから俺はいつも魔道具を使ってるけどな」
俺は筒状の魔道具を取り出す。
「これは俺が作った魔道具で筒に通した液体の濾過と煮沸としてくれる」
「先生、魔道具も作れるんですか……!?」
「まあ……モノ作りなら大体できるかな」
「えぇ……」
リリスは化け物を見るような目線を送ってくる。
「他の物の作り方も覚えたら、魔銃作りの良い刺激になるかと思ったんだよ……」
「それにしては、手広く出来過ぎですよ……」
リリスは苦笑いを浮かべると、魔道具を使って水を浄化していく。
「それじゃあ、錬金釜の中に水を入れて……次は薬草を10個、切り刻んで、布で包んで汁を抽出する」
「はい……!」
「でも、面倒臭いからこれも魔道具で済ませる」
俺は、またしても筒形の魔道具を取り出した。
「せ、先生?」
「大丈夫、この魔道具は後でリリスちゃんに貸すから……」
「そういう問題じゃなくて……! 全部魔道具を使ったら、なんだかズルくないですか?」
「そうかなぁ……? 時短だよ時短」
それに錬金術の大事なところは、ここじゃないし。
俺は幾つかの薬草を魔道具に放り込み、液体を抽出する。
そして、それを錬金釜に入れて混ぜた。
「さて……これで準備は完了だ」
「じゃあ、これから調合していくんですね……!」
「ああ。錬金術では材料も大事だけど、調合の方が大事だから頑張って」
俺は粉が入った小瓶を取り出す。
「この小瓶の中に入っているのは魔石を砕いた粉だ。これを少しずつ錬金釜に入れながら混ぜてくれ」
「はい……!」
リリスは左手で粉を入れて、右手で木の棒を持ち、錬金釜を混ぜる。
「じゃあ、そのまま錬金釜に少しずつ魔力を込め続けてくれ」
「……え!? この状態で、ですか!?」
「うん。その木の棒は魔力をよく通すから、頑張れば出来ると思う」
と言ってみたが、魔力を込めるというのは繊細な作業だ。
それを別の行動と同時にこなすのは至難な技である。
流石に一回目では無理だろう。
リリスが泣きついてきたら、手を貸そうかな。
そう思っていたが――
「こんな感じで……どうですか……!」
リリスは眉間にシワを寄せながら、必死に錬金釜をかき混ぜ流。
錬金釜の中の液体は――徐々に淡く発光していた。
つまり――成功している。
う、嘘だろ……一発で……?
「リリス、もう少し込める魔力の量を増やしてくれ」
「はい……!」
すると、錬金釜の中は眩い光を放ち始めた。
「じゃあ、魔石を与えるのをやめて、同じ量の魔力を与えながら掻き混ぜ続けてくれ……!」
「わかりました!」
リリスは額に汗を浮かばせながら、液体を掻き混ぜ続ける。
そうして――数十秒後、光は収まった。
錬金釜の中の液体は、透き通った緑色をしていた。
「これは……成功ですか!?」
「か、完全な成功……だね」
「やったっ! ポーション作れた……! 先生、ありがとうございます!」
リリスは顔をぱあっと明るくし、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
「まさか……一回目で成功するとは思ってなかった……」
今回、作ったのは初級ポーションだ。
しかし……少なくとも俺は習得に二週間はかかったぞ……?
それを一日で……。
「リリスは錬金術の才能があるかもな」
「本当ですか……!?」
「というか、逆に才能がありすぎて末恐ろしいよ……」
俺は習得できなかったが……リリスならいずれ、上級ポーションなんかも作れるようになるかもしれない。
「じゃあ、ポーションを瓶に詰めていこうか」
「はい……!」
俺とリリスは手分けして瓶にポーションを入れて、コルク栓で蓋をしていく。
そうして……合計で20個の初級ポーションができた。
「じゃあ先生、これ、どうぞ……!」
すると、リリスがポーションのうちの一つを俺に差し出してきた。
「いいのか? 作ったのはリリスなんだし、リリスの好きにしていいんだぞ?」
「でも、先生が教えてくれなきゃ作れませんでしたから……! プレゼントみたいな物です!」
「そうか……? なら、受け取らせてもらうよ。ありがとう」
「はいっ! いつか中級ポーションを渡せるように頑張りますね!」
リリスは健気に笑みを浮かべた。
俺は照れ臭くて、ポーションに視線を逸らした。
にしても……このポーション、よく澄んでいるな。
ポーション越しにリリスの顔を見てみると……彼女の顔がくっきりと映った。
「ちょっと鑑定してみるか」
俺は小さな台秤のような形をした魔道具を取り出した。
この魔道具の上に収まるくらい小さな物なら、基本的になんでも鑑定できる。
これを使い、俺は試しにポーションを鑑定してみた。




