#22
いい加減に更新時間を戻したい人生でした(諦念)
「アノンが、仕組んだ? それに魔王が生まれる? それっていった、い、ぅぁ、っ」
世界の破滅? 魔王?
耳に馴染みのない言葉に意味を問い返そうと私は口を開いたのに、言葉が続かない。
口に出そうともがいても、声が、音が出ないのだ。
アノンも何かを続けようと口を開きかけていたのを取りやめて、険しい顔で虚空を睨んだ。
それから私と目が合うと、申し訳なさそうに謝ってくる。
「もう気付いたのか。……ごめんね、今はこれ以上言えないみたい。まあ知る必要があれば向こうから関わってくるから、多分、大丈夫。リリは僕より好かれてるしね」
「好かれてる? ねえアノン、あなた一体」
一体、私は誰に気づかれ、好かれているのか。アノンは何を知って、何をしようとしているのか。
もう一度、尋ねようとした私の後を引き継いでアノンは答える。
「何者か、って言われても今の僕はただの孤児だからね? 結構三歳の子どもからは離れちゃった気がするけど……。今ここで断言してあげられるのはリリの敵じゃない、ってことくらいかな」
敵じゃない、その言葉が本心であったとしても、彼は既に私の記憶の中の彼からは、離れてしまっている。
幼い体に成長後の精神が宿っているのは、私も一緒だけれど、それが真実だと証明する術は何処にもない。
それなのに、私にあっさりと自分の正体も告げてしまうあたりもあまり信用できるようには感じられない。
私は彼の成長後のことを何も知らないのに、向こうは私の経験したことを知っているというのも何か怪しい。
敵ではなくても味方でもないかもしれない。
警戒するように視線を向けると、アノンは重ねて謝ってくる。
「ごめんね、遅くなっちゃって。もう少し前まで戻れていれば、リリたちも怪我しないように立ち回れたのに。リリも戻ってきていたのには助けられたよ。ビリーが売られてからじゃ、取り戻すのに時間がかかっただろうからね。公爵たちにも本当に助かった」
顔はにこやかだけれど、その瞳は本当に悔やんでいるような色がにじみ出ている。
確かに、アノンが今くらいの知恵を提供できたなら、人生のほとんどが加護の鳥のようなものだった私よりも良い案が出せたかもしれない。
別にそうではない可能性もあるけれど、アノンからは絶対にそうはさせなかったという強い気持ちが見える。
私は、アノンは彼なりに私たちのことを想っていることも事実らしいと少し警戒を緩める。
それに気づいたアノンは嬉しい顔をするどころかむしろ少し不満そうな顔になって言い出す。
「リリ、今、僕に対する警戒を緩めたね? それは良くない。ついでに言っておくけれど、決して貴族を簡単に信用しちゃいけないよ? いや、貴族だけじゃなくて使用人もだ」
「分かってるよ、私のことをよく思っていない人がいることくらいは」
「ううん、分かってないよ、リリは。現に今日連れて来た侍女の正体、知らないんでしょ?」
そう言われて私は首を傾げた。
ミディの家柄は爺やの孫であれば保証されているはずだし、第一お姉さまがあんなことがあった後で信用できない人間を私に付けるとは思えないからだ。
「ミディの正体? ……爺やの、執事長の孫なんじゃないの?」
「血縁はどうだっていいよ。あの人、侍女って嘘だよ多分。動きが暗殺業とかに関わるやつのそれだ。しかもあれは相当数「消してる」ね」
「……」
なぜそんなことがアノンに分かるのか。
「消してる」なんて言いまわしはそういう世界に関わりがあったといことじゃないか。
そう言い返すことも出来たのに、私はそれが出来なかった。
何かをミディが隠していることは恐らく間違いないからだ。
彼女はとても私に良くしてくれるいい人だけれど、時々気配もなく私の後ろに立っていたり、私が何かを落とした時も床に着く前に必ず拾うことが出来る。
身のこなしが良いのは、執事長である彼女の祖父もそうだから、そういうものかと考えていたけれど、確かにそういう職業だというなら納得できてしまう自分もいた。
「あれ、もしかして心当たりある? まあ今のところリリの命を狙ってる感じはしないけど、雇い主の公爵に命じられればリリの命も狙われるかもよ?」
「お姉さまはそんなことしないわ!」
その言葉だけは即座に否定する。
お姉さまが私を殺せと命じるなんて絶対にありえない。
あんなに存在が足を引っ張っていた前回の生だって、彼女は最後まで私の死に涙してくれたのだ。
「そうだね。公爵はそんなことはしないだろうね。彼女がリリのことを大事に想っているのは知ってるから」
アノンはあっさりと私の意見を肯定してくれるけれど、それでも私に対する厳しい言葉は変わらない。
その小さな手で私の頬を包むと、私にぐっと顔を近づけてじっと見つめてくる。
「けど、周りも全員そうとは限らないよね? 主人の立場を脅かしかねない私生児を消したい、あるいは目障りな姉を消して幼い妹の後見として権力を手にしたい。そんな奴はいっぱいいるんだよ。そいつらと繋がっていない保証がどこにあるの?」
「それ、は……」
言葉に詰まって、私はその続きを持っていないことに気づく。
急に爵位を引き継いでいるお姉さまが内政に苦しんでいることは前回の私も承知していた。
今だって、私を気にしながらも一日のほとんどを書類仕事に費やしているのはそれを任せられる人間が少ないという証拠でもあるのだ。
前回よりもお姉さまに近い扱いをされている私に、どういう近付き方をされるかなんて、想像もしていなかった。
と、ぱっと可愛らしい笑顔になったアノンは私から顔を離すと私を立ち上がらせて椅子に座らせる。
その表情は、私の知っているアノンの顔だ。
「なんてね、少し怖がらせすぎたかな。でも警戒してほしいのは本当だから。……リリや大事な家族には今度こそ幸せになってほしいからね」
「アノン……」
アノンは思案するようにしばしの間目をつむると、目を開け、私に向かって指で二つを示す。
「僕が敵じゃない証拠に、リリが知らない情報を二つ、教えてあげようか。上手く活かせば、公爵家の裏切り者を二人見つけられる。何も知らないままなら、リリのお姉さんは信頼できる側近を二人失う」
ただし、そいつらはリリには否定的だ。
失敗すれば、リリとお姉さんの仲も破綻するかもしれないね、そんな風にアノンが続ける。
私は思わず、生唾を飲み込んだ。
どちらを取っても、リスクはある。
なら、私は一体どうするのがベストなのか?
アノンが微笑んだ。
「さあ、どうする?」
お読みいただきありがとうございます!
作者はアノンが一番のお気に入りです。
次回更新予定 3/18(いい加減に) 12:00




