第12話 きな臭いとはまさにこれ!!
勇者一行は魔王国に侵攻してから何もやることが無かった
「オイ、バゼルはどうした?」
朝起きてそろそろここの暮らしにも飽きてきた。
バゼルからは外に出てもいいが、ここを出たらなにも援助はできないと言われていたため 従っていたが勇者として、いつまでもこうしているわけにはいかない。
現に魔王国には行ったが、魔族とやらは対峙せずに帰ってきたのだ
なのにどうしてこの国に帰ってきてからというもの、バゼルとやらにこの屋敷に案内され英雄と持てはやされたが特に何も起きないのだ?
魔王が倒れていなければこの土地の安寧はないだろう?
それがどうしても引っかかっているので確かめたいが、最近バゼルに会うことがなくなった
使用人に聞いても誰も知らず
むしろその名前すら誰だかわからないような口振りだった
胸騒ぎがする
「ユーリス」
目の前から歩いてきたのはセドリックだった
「セドリック、バゼルを見ていないか?」
「見ていないよ。どうしたの?」
前髪は相変わらず長く瓶底めがねでどこを見ているかわからない
「昨夜からこの屋敷がせわしない。それに俺たちが撒いた液体についてだがあれは一体なんだったんだ?」
「さあね。僕も撒くのに必死だったけど、それをまいてから死人が出た話もなければそれで追いかけられている感じもないからただの液体だったんじゃない?」
そんなわけないだろ。あれは多分除草剤だ。前の異世界では普通に使われていて伸びすぎた草を刈るのに面倒だった町の住民が使っているのを僕は見たことがある
あの色といい、匂いといい間違いないだろう
だがなぜあれがあそこにあったんだ?僕らのパーティーで使うとしたら知識を持ってる僕くらいだ
リュシアは支援魔導士だし、ガルドは考えなしの戦闘部門、僕は魔術だけど治癒系だしな
ユーリスはもちろん勇者であって剣士だ
今までのことを振り返っても除草剤のことを知っていたとしても、まさかダンジョンから異世界に飛んで除草剤を撒くなんて考えができる気がしない
ぢゃあ誰が?
僕もバゼルに聞きたいことができたから一緒に探すことにしよう
「ユーリス、もしかしたら商人ギルドにいるんぢゃないかな?」
「なるほどな。たしかにあいつの仕事先には行ったことがないからいるかもしれない」
場所を聞くためにこの間飲んだ酒場にでも行って情報を仕入れよう。
・
・
・
・
・
・
「バゼルはいるか?」
酒場はまだオープン前だったのか、開店準備をしているようだ
そこの店員らしき人物に話しかけた。たしか店のマスターだったか?
「バゼル?誰ですか?そんな方この街にいましたかね」
「知らないはずは無いだろう。この街を統治しているものだ」
剣をつきつけなかば尋問のような形で脅してみるが怯えた感じが本当に知らないのだといわんばかりだ
「この間、我々がここで飲んでいたのは覚えてますか?」
あまりにも怯えているので周りの視線がつきささる、ユーリスに剣を収めるように促して再度別の角度で聞いてみた
「ええ。とても羽振りがよかったので覚えておりますとも!一週間くらいずっと通ってくださっていたので記憶に残っております」
「その際に太った背の低い男が一緒にいたのだが、そいつのことを聞きたいんだ」
「太った小さい男性……?いたような気がしますが、最初に来店された日に多額の寄付をいただいて、あなた方が望まれる限りの食事と酒を出してくれと頼まれたのは覚えているのですが」
なんだかだんだん怪しくなってきて、じわりと何か嫌な気持ちが沸いてくる
「ちょっと待て。初日だと?その後も来ているはずだ。ちゃんと思い出せ!!」
今度は胸倉をつかんで聞こうとするユーリスを止めて一歩下がらせる
「失礼しました。マスター、ちなみに金額は何日分だったのでしょうか?」
「ゴホっ、そうですね。たしかひと月分はいただいたかと。その後のことは全く知らないのでもう店の準備に戻ってよろしいですか?」
嫌な予感がする
「ユーリス、もしかしたら私たちははめられたのかもしれません」
「どういうことだ?」
「とりあえず二人と合流しましょう。話はそれからです」
怪しさしかなかったので、
酒場から屋敷に戻る際に屋敷のものにも確認したが、ここは屋敷ではなく空き家だったらしい
僕たちパーティーがいる間は身の周りの世話をして、もし出ていったらここも引き払う手筈になっていた
こうもあっさり教えてくれるのはすぐに気づかれるだろうとバゼルも思ってたに違いない
最早バゼルだったのかも怪しいが、今はそれ以外で呼ぶ名前がないのでこのままでいい
こわいのは我々になんの危害もないということ
何もないのは逆に怖い。今はまだ何もないだけで後々なにかに撒きこまれた時にきっと切られる
用はトカゲのしっぽ切りだ
そうなる前にこの街を出た方がいいと思うが行く当てがないのも事実
とりあえず合流して今後のことを話さないとだめだ
屋敷(仮)に戻って二人を探すとまだ寝ているようだった。
ほんと気楽なもんだ。これから謎の何かに巻き込まれるかもしれないのに
二人の寝顔がことの重大さとは無縁すぎて、考えるのもバカらしくなってくる
心を鬼にして数少ない自分の攻撃魔法を二人の頭の上に展開した
小さいが氷の塊が出せるのだ
さらに小さくして粒くらいの氷を頭から連続で数十個おとした
「いったーーーー!」
「なんだ?!敵襲か?!」
「おはようございます。おバカさんたち」
「なんだセドリックじゃない」
「ユーリスもいるじゃないか!二人そろってどうした?酒の時間か?」
ほんっとに空気が緩くて嫌になる
これからこの二人に説明するのが面倒くさいし、きっと半分も理解してもらえないのだと思うと頭が痛かった
******
第12話 読んでくださりありがとうございます!
今回は勇者一行ターンでした。
きな臭い感じになってきましたが、次回は主人公ターンに戻ります
次回もどうぞよろしくお願いします!




