一日の終わりと二日目の朝
一部視点変更あり
そしてシャルの冒険者講義が始まってから数時間後。
途中に夕食をとってからも続いた講義はまだ続きカムイは冒険者についてある程度頭の中で情報をまとめていたがカムイには今強烈な眠気が襲い掛かっていた。
カムイは元の世界で一日門下生四人と組み手をしてからこの世界に来て戦闘を含めもう一日過ごしている。
要は約一日半以上行動しっぱなしであった。本来カムイは元の世界で一週間ほど睡眠なしで鍛錬を行うこともできた。しかしそれ以前に世界の壁を超えるというのは肉体的にも精神的にも疲弊するため段々と身体が睡眠を求めていたのだった。
「話を途中で切るようだけどごめん、シャル。冒険者の話の続きは明日の朝でもいいかな?ちょっと眠気が来ちゃってて・・・・耐えられない程じゃないけどちょっと今続きを聞いても覚えられそうにないかも。」
「はっ、ごめんなさいです。昔から冒険者に憧れていてちょっと暴走してしまったのです。確かにもうこんな時間なのです。もう寝てしまって明日のほうがいいかもですね。」
シャルはカムイの言葉で外を見て外が真っ暗になっていることを見て夜だということを確認する。
「うん、改めて話を途中で止めちゃってごめんね。とりあえず、寝ようか?ただこの小屋も狭いからもう一個ベッドは出せないし、一緒に寝るかボクが床に寝るかどっちかになるけどどうする?」
「いえいえ、構わないのです。わたしもカムイさんの事も考えずに話してたですし。それと二人で寝ましょうです。今日頑張ってくれたカムイさんが床で寝るのはダメなのです。むしろわたしが床で寝るです。」
「いやいや、ダメでしょ。シャルは一応とはいえ王女様でしょ?なんでそんな考えに至っちゃうの?この場合は床に寝るのはボク・・・・ってああ、こんなことで言い合っていると余計厳しくなりそうだね。一人用だから狭くなっちゃうけどシャルがいいのなら一緒に寝ようか?」
「はいなのです。えへへです。これもわたしが憧れていたことの一つが叶いそうなのです。親しい人と一緒に同じベッドで寝ることも昔から憧れていたのです。」
そういって二人は『収納庫』から大賢者謹製の防犯用の魔道具をセットし、寝る支度を整え、ベッドに二人でもぐりこむ。
そしてしばらくした後に一つの寝息が聞こえてきていたのだった。
シャルは隣で眠るカムイの顔を見る。
今日は本当にいろいろとあった。
いつものように執務の前に息抜きとして中庭に行っていたら召喚陣が起動して、それに願ったら伝承通りに勇者がやってきてくれた。
その勇者はその後にやってきた十魔将とその部下を簡単にやっつけてくれてわたしを城から連れ出すために動いてくれた。
その後大賢者様が城に施したことについて聞かされたり、自分自身の昔の話もしてしまった。
大賢者様についてはいろいろと驚いたりした。わたしの話をカムイはしっかりと聞いてくれてそのうえ抱きしめられて泣いてしまったけどとても嬉しかった。
まだ出会って少ししか経っていなかったけど、こんなことをしてくれた人は父様と母様くらいだったから。
そして城から抜け出して改めて今度はカムイを信じる理由について聞いてきた。
それについて話すのは私の思ったこと全部吐き出すみたいで少し恥ずかしかったけど、それでも最後までしっかりと話せたと思う。話を聞いた後のカムイの行動もとても嬉しかった。
ずっと欲しかった、対等な存在になってくれたから。隣で共に歩んでくれると誓ってくれたから。
そして『収納庫』の確認をして今ここにいる。
父様と母様が亡くなってからわたしにはこんな自由になることができるなんて思えなかった。
十魔将や他の魔族にいい様に使われて最後は独りで死んでしまうのかなと思っていた。
それが今はどうだろう?隣で眠るカムイの手によってここにいる。
まだスラッド魔王国の東の地であろうとしか予想できてないから大変なこともたくさんあるかもしれない。
けど今までに比べたら全然大変じゃないと思える。なんて言ったって隣にカムイが居てくれるだろうから。
カムイがいるだけでどんなことも楽しいことに変わってしまいそう。そう思えてしまう。
昨日まで明日なんて来なければいいのになんて思ってなかなか眠れないでいた、でも今は明日が楽しみで早く来ないかなとも思えてなかなか眠れない。
でも眠ろう。カムイの隣で。そうすればきっと明日はいつもと違う朝が来るだろうから。
わたしはそう考えて、一緒にベッドに入るとき、カムイがつないでくれた手をもう少しだけ強く握る。
眠っていながらもカムイもその手を握り返してくれる。するとわたしの心の中に暖かいものが生まれ自然と安らぐことができる。これならすぐに眠ることができるだろう。あしたは・・・どんな日が待っているのかな?できれば・・・あしたは・・・もっとたのしい・・にちになりますように・・・・・。
すぅ~すぅ~・・・・・
く~~くぅ~・・・・・・
森は夜の闇に覆われている。ときおり夜行性の獣の唸り声も聞こえるがそれでも昼間と打って変わって静寂に包まれる。
そんな森の中の一つの小屋に穏やかな二つの寝息が響く。
その中には少女二人がベッドに寄り添って眠りについていた。
二人が眠りについてどれくらいたったであろうか?彼女たちの周りに少しずつ光が生まれ、そして包み込む。
その光はその日少女の一人がもう一人に誓いを立てた時に生じた光と全く同じものであった。その光はやがて彼女たちの中に入り込んでいく。数分もしたころにはその光は彼女たちにすべて入り込み小屋は元の暗闇に戻っていく。これは大賢者の手紙に書かれた祝福の効果であった。二人がそれに気づくのは朝起きて朝食を食べているときの事である。
森に朝日が差し込み、小屋にも窓から光が入りその中を明るく照らす。
小屋の中が薄っすらと明るくなってきたとき、一人の少女が目を覚ます。
寝起きのいいカムイは起きると同時に横になったまま眠る前の状況を確認していく。
門下生との鍛錬、魔法陣、シャルとの出会い、そして大賢者の仕掛けを使い城から転移してこの小屋を見つけ、改めてシャルに誓いを立てたこと、今後をどうするか考えていてシャルに冒険者を薦められたこと、それについて聞いていたが途中眠気で聞き続けれるか不安だったので中断したこと。その後シャルと一緒にベッドに入ったこと。そのときにシャルと手をつないでいたこと。
記憶はそこまでで途切れているため、この時点で眠りに落ちたことは理解できる。
しかし、今のこの状況は何なのだろうか?
カムイは自分とシャルの状況を改めて確認する。
寝る前に着替えたネグリジェは大丈夫。これは『収納庫』に入っていたもので、どんなに寝相が悪くても着崩れることもなく、睡眠時の快適な体温の調節も自動でしてくれるという効果のある魔道具。作者はもちろん大賢者で名称は〔快適パジャマ〕。
カムイは元の世界にいたときは女の子らしい服装をしたことは殆どなく、ましてや夜に寝るときにこんな女の子らしいものは来たことがなかったが今回寝てみてこういうので寝るのもありかもしれないくらいには思えていた。
まあ、その辺りの事は置いておいて、シャルからのお揃いでとの希望に着た薄いピンクのネグリジェは魔道具としての効果を発揮しているのか着崩れた様子はない。
問題はシャルがカムイにしっかりと抱き着いていることである。つないだ手は外れているがそれ以上に両腕を背中に回されてしまい、カムイは身動きの取れない状態であったのだ。
まあ起きれないこともないのだが無理に起き上がろうとするとシャルも起きてしまいそうなのである。
カムイにはそれは少し可哀想かなと思えてしまう。
シャルの話では今まで彼女は夜もあまり落ち着けない、そんな生活を続けてきた。でも今カムイに抱き着いて寝るシャルの表情はとても穏やかで安心しきっている。そんな表情を浮かべているのだ。
そんな顔で眠るシャルをどうして起こせるというのか。
「うん、シャルが起きるのを待っていようかな?別に急いでこなさなきゃならない用事もないしね。でもまあしっかりと眠れて疲れも完全にとれたかな?それになんとなくだけどいつもより体が軽くて、昨日よりはっきりと魔力を感じ取れるような気がする。このネグリジェにまだ他の効果でもあったのかな?まあどちらにしろこれは寝心地もいいし常用してもいいかもしれないね。」
そんなことを考えながらカムイはシャルの寝顔を見たり、考え事をしたりして彼女が起きるのを待っていた。
カムイが起きてから二時間後、日の光が小屋の中の空気を暖め始めたころシャルが目を覚ます。
「・・・・はれ?ここは?・・・あ、かむいさんです。・・・・そうです、わたしは城の外に出ることができたのです。おはようなのです、カムイさん。」
「うん、おはようシャル。そろそろ起きて朝ごはんを食べようか?」
シャルは少し寝ぼけていたようであったがカムイの言葉で目が覚め、自分がカムイに抱き着いて寝ていたことに気づき慌て始める。
「え?・・・え?なんでわたしはカムイさんに抱き着いて寝ているですか?いつもはこんな癖はなかったのになんでです???」
「まあ、それは気にしなくていいよ?ボクもシャルの可愛い寝顔を見ることができたしね。」
「寝顔?かわいい?・・・・ひゃあぁぁぁ///」
シャルはカムイの言葉に顔を真っ赤にし始める。
今までほとんど誰かと一緒に寝たことはなかったし、そもそも本心から可愛いと言われたこと自体そんなになかったのである。カムイはそれを本心から言っていることがわかる。目をまっすぐみていってくれるから、目を見ても一切嘘をついていないことがわかるから。
カムイはシャルが顔を赤くして腕の力を緩めたと同時にするりとベッドから抜け出す。
そのまま『収納庫』から昨日食べたものと同じような食事を用意してシャルに声をかける。
「ほらシャル、落ち着いて。いったん深呼吸しようか。そして早く食べて昨日の話の続きをしよう?昨日はボクが止めちゃったけどもう一度最初から冒険者についての話や、あとお金なんかの話もしてくれたらうれしいな。」
寝顔を見られたうえそれをかわいいと言われて恥ずかしがるシャルにカムイは普段通りの態度で話しかける。
そんなカムイのいうことを聞き、深呼吸をするとシャルはさっきまで感じていた恥ずかしさが少し薄れ、カムイと面と向かって話せるくらいには落ち着くことができた。
「は、はい。そうですね。すぅ~ふぅ~。・・・うん、落ち着いたです。カムイさん、もう大丈夫なのです。でもカムイさん、いきなりあんなことを言うのはやめてほしいのです。恥ずかしすぎて死ぬかと思ったのです。」
「あはは、ごめんごめん。つい思ったことが口に出ちゃってね。まあ、それはいいとして・・・・はい、シャル。お手をどうぞ。」
「もう、そんなこと言って、カムイさんはたらしですか。(ボソッ)わかったです。はいです、カムイさん」
そういってシャルは落ち着きを取り戻すと体を起こし、カムイの差し出した手をつかんで起き上がる。
そしてそのままエスコートされテーブルにつき食事を始めるのだった。
「むぐ。・・・あ、そうだ、食事中だけどちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「いいのですよ。あまりにも不適切な話じゃなければ問題ないのです。例えば流血関係とかですね。・・・はむはむ」
「うん、大丈夫。そういう話じゃないから。でさ、朝起きた時に気になったことがあってね。いつもと違って体が軽いし魔力も昨日以上に感じ取れるようになっている気がしてね。シャルはどうかなって思って。」
「え?ちょっと待ってくださいです。・・・確かにカムイさんの潜在魔力が向上しているです。それも一日ではありえないレベルでです。あとわたしも同じくらい上がっているのです。」
「やっぱりシャルもかぁ。何が原因だろう?」
「えっと、昨日までとは違うことが原因ですよね。とはいっても昨日までとはいろいろと違いすぎて特定は・・・・って、あっ、たぶんアレなのです。」
「うん?シャル、何か思い当たる節でもあったの?」
「ちょっと待ってほしいのです。確かこうやって・・・・コレなのです!!」
シャルは自分の指輪から『収納庫』の中を探り一つの物を取り出す。
それは一枚の紙。カムイとシャルが誓いを立てた時に現れた紙だ。シャルはその紙の一部分を指さしカムイに見せる。
『あなたたちの未来に幸あれ。どんな困難も乗り越えれることを願っています。
P.S. さっきの誓いは過去から見せてもらったよ。それと魔術の方はただの演出のようなものだから気にしないでね♪まあ少し対象の潜在魔力を底上げする効果があるけどね。じゃあお二人ともお幸せに♡ 遥か昔の大賢者より』
「ここに書かれている、“対象の潜在魔力を底上げする効果”ではないですか?」
「ああぁ、そういえばそんなことが書かれていたねぇ。『収納庫』の中身の確認でもいろいろとあったからすっかり忘れてたよ。・・・そっか、これがその効果なんだ。まあ、大賢者さんのやったことなら納得・・・・・なのかな?」
「そう思っていた方が楽だと思うです。」
二人は大賢者について深く考えないようにすることにした。
昨日一日でかなりいろいろとあったのだ。約九割が大賢者が原因で・・・・・。
そこまでいけばもう対応の仕方は見えてくるものである。
そんなこんなでカムイとシャルの一日が始まるのだった。
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