奴隷少女
カムイが話し始めて三十分程で話は終わり、平原に静寂が流れる。
そこに聞こえるのは風が流れる音、風が草木を揺らす音、カムイ、シャル、そして奴隷の子供の呼吸の音だけだった。
その静寂も長くは続かず、先ほどまで語っていたカムイが口を開く。
「さて、とりあえずボクの話はこんなところかな?・・・・うん、しっかり聞いていてくれたようで何よりだよ。」
いつの間にか近づきカムイの話に聞き入っていた子供はカムイの問いかけに素直に答える。
さっきまで怯えていたのが嘘のようにそのエメラルドをはめ込んだような翠の瞳はまっすぐとカムイを見つめキラキラと輝いていた。
その眼を見たカムイは自分の話をしっかりと聞いてくれたことに少しほっとしていた。
「これがボクが経験したことの一つ。他にもあるけどボクの経験談はねいろいろと信じられないことが多くて人に話せることってなかったんだ。だから人に直接話したのはこれが最初。話したら少しすっきりしたかな。うん、昔本で読んだことは正しかったね。人に話すだけで少し気が楽になる。今まで絶対に信じてもらえないし話したらボクが避けられるかもって思って秘密にしてきたことが多いから特にね。ねえ、君にもあるんじゃない?人に聞いてほしいこと、伝えたいことがたくさん。だからボク達に少し話してみない?」
カムイは続けてそう尋ねる。
子供は自分が今どうしているのかを思い出したのかハッと我に返り考え出す。
そこには怯えの色はもう見えない為カムイは子供が答えるのを待つ。
「と、答えを待っている間に聞きたいんだけどシャル、なんで君はそこで聞き耳を立てていたのかな?シャルには確か周囲の警戒を頼んでいたはずなんだけどなぁ?」
「はっ、そ、そうだったのです。カムイさんの話が興味深くてつい聞き入ってしまったのです。」
「まあ、いいけどね。今回はボクも話しながら周囲の警戒はしてたから。次からは気を付けるようにしてね。そうじゃないとボクが体調崩してるときとか、一人で行動してるときに大変な目に合うよ?寝込んでる間にシャルが死んじゃってましたとか、攫われました~とか言われてもどうしようもないからね。今回は一回目だから何もしないけど次やったら怒るよ。ボクの方針は一度目は笑顔で二度目は容赦なくだから。」
カムイはシャルが自分の役割を放置して自分の話に聞き入っていたことを注意した。
「わ、わかったのです。次からは気を付けるのです。」
「うん、わかればよろしい。シャルが気になったことがあれば空いている時間にいつでも答えるから。自分の役割があるときはそれをしっかりとやってね。じゃあ、早速だけどこの場でいいから周囲の警戒を続けてね。」
「はいなのです。」
こんなやり取りをした後カムイが子供の方を向くと、子供はじっとカムイの事を見つめていた。
どうやら答えは決まったようだが、カムイが岩陰にいる誰かと喋っていて話しかけるタイミングがつかめず戸惑っていたようだった。
「あ、ごめんね。今話してたのはボクの仲間なんだけど、自分のやるべきこともやらずにボクの話に聞き耳を立ててたらしくてね。それを注意してたんだ。で、どう答えは出たかな?」
子供はそんなカムイの言葉に首を縦に振ることで答える。
「じゃあ、聞かせてもらおうかな?君はボク達と話したい?それとも話したくない?話したいならしっかりと聞くし、話したくないなら最低限君の安全を確保してから立ち去るよ。さあ、どっちにする?」
「・・・・・ぇっと、おねえちゃん・・・おねえちゃんたちは、・・・になにもしてこないの?たたかない?びりびりしてこないの?」
「うん、大丈夫。びりびりの意味は分からないけど、君に危害、叩いたりもしないし怒ることもしないよ。君が悪いことをしなければ、だけどね。」
「・・・・・・・わかったの。・・おねえちゃんたちとおはなししたいの。」
「うん、わかった。ボクはカムイっていうんだ。よろしくね。じゃあ早速と話そうかっと言いたいところだけどその前にそれを外したり、今の服を着替えたりしちゃおうか。ちょっとじっとしててね。」
「・・・う?」
そういったカムイの言葉に子供は首をかしげる。
カムイはその瞬間に『収納庫』から魔石をセットしてある魔道具を取り出すとそれを子供の首についている首輪にかざす。すると首輪から魔道具へ向かって黒い靄のようなものが吸い込まれていく。
そのまま数秒ほどかざし続けるとやがて黒い靄は全て魔道具に吸い込まれていった。
パキリッ
そんな小さな音が鳴ったかと思うと子供についていた首輪が二つに割れ地面に落ちる。
子供は何が起きたかわからずに首を傾げたまま固まる。
「うん、うまくいった。首輪が外れたよ。これで君はもう奴隷じゃない。」
「はず・・れた?はずれたの?・・う、う、うぇ~ん。はずれた。はずしてくれた。うぇ~~~~~~。」
カムイが発した言葉で首輪が外れたことを知り落ちた首輪の残骸を見た子供は次第に声を上げて泣き出した。
その奴隷の少女、クルルは泣きながら思い出す。
それは、二年前の九歳の時に親に売られて奴隷になってからずっと望んでいたこと。でも叶わないと諦めて、せめて良い人に買ってもらおうと思っていた。それは叶うこともなく奴隷商に連れられて町を転々していた。
それが終わったのはつい数時間前、奴隷商人やその護衛が馬や身体を休めるため
食事のにおいに釣られたのか一匹の魔獣が突然現れた。それと同時に商人も、護衛も、そして他の奴隷さえもパニック状態になった。そんななかクルルは近くの木箱に隠れ震えていた。やがて人の声が途絶え、魔獣の息遣いだけとなる。クルルは魔獣が去るのを必死に願いながら木箱の中で震え続ける。どれくらいたっただろうか身体の震えが収まると同時に外が静かになっていることが分かった。魔獣の息遣いなどもしなかったため外を確認しながら木箱からでる。そしてクルルが見たのは地獄のような光景であった。
自分の仮の主人であった奴隷商人はその魔獣に下半身を喰われ絶命していた。商人の護衛も剣や鎧が破壊され爪のようなもので切り裂かれていた。馬車で一緒にいた他の奴隷も全員死んでおり、ある者は体の一部を喰われ、ある者は護衛と同じように切り裂かれていた。その光景にクルルは怖くなりその場から逃げた。一心不乱にかけ続けいつの間にかこの岩場にたどり着いていた。そしてそこでうずくまり泣いていたところにお姉さん達が現れる。
お姉さんが声をかけてきたとき、とても怖かった。魔獣に喰われた奴隷や商人たちの誰かがやってきたのではないかと。
けどそれは違った。クルルが怯えているときお姉さんは誰かと話していた。それが終わってすぐにまたこっちに来ると今度は話を聞かせてくれた。お姉さんが経験した話を。それは数年前にお母さんに聞かせてもらった難しい小説の様であり、お姉さん自身が思ったことも話してくれて本当に面白かった。そしていつしか感じていた恐怖も消え去っていた。
お姉さんの話が終わった時、クルルはもっと聞きたいと思えた。その後にお姉さんの言った言葉を一生懸命考えてクルル自身の話もお姉さん・・・カムイさんに聞いてほしいと思えた。
それを答えたらどうだろう?カムイさんがクルルに向かってじっとしてるように言った。それに何をするか不思議に思いながらも従った。カムイさんはどこからか道具を取り出し、クルルの首輪にかざす。
その首輪はクルルが奴隷である証。これがあったから時に人として扱われず、時にいろいろな人に見られ恥ずかしい思いもした。ある時その首輪を外そうとした少年がいた。クルルが奴隷になって半年ほどしたころだった。その少年は自分が奴隷なんてありえないと言い放ち首輪を無理やり外そうとした。少年が首輪に手をかけて少しした頃それは起きる。突然首輪が電気を発しやがて少年は悲鳴を上げる。電気により肉の焼けるにおいがしてそれが三十分は続いた。電気により少年の肌は焦げ、髪は燃え落ちた。少年はかろうじて生きてはいたがそれだけであった。それを見てクルルは恐怖しながらも察する。この首輪は外すことはできないんだと。自分は一生奴隷として生活するのだと。そう思っていた。
カムイさんがその首輪に道具をかざすと首輪から黒いものが現れた。それは徐々にカムイさんの持った道具に吸い込まれていく。数秒すると黒いものも首輪からでなくなり、道具に全部吸い込まれた。その時だった
パキリ
と首元から音が響く。そして首の圧迫感がふと消え去る。カラン、カランと何かが地面に落ちる音。カムイさんが何かを言う声。
その声はこう言っていた。“首輪が外れた”“もう奴隷じゃない”と。
その言葉で地面を見る。そこにあったのは半分に割れているが自分と同じ奴隷が付けていた首輪にそっくりなもの、いつか電気を浴びた少年が外そうとしていたもの。自分に付けられていたのはどういうのかはわからなかったが感覚的にわかる。これは自分についていた首輪だと。
それが理解できたときクルルは声をあげて泣いた。
やがてクルルの全身が誰かに抱きしめられる。いや、誰かじゃない。カムイさんだ。
そのぬくもりにさらに涙が出た。
クルルは泣いた。あの怖かった光景を思い出して。
クルルは泣いた。叶わないと思っていた望みが叶ったと知って。
クルルは泣いた。カムイの温かさに包まれて。
カムイはいきなり泣き出した少女を抱きしめる。
一日前シャルにしたように。泣き続ける少女をなだめるようにカムイは優しく抱きしめる。
シャルは先ほどのカムイの指示通りに周囲の警戒を続ける。少女を抱きしめるカムイを眺めながら。
その光景を見て昨日の自分もこうだったのかなと思いながら。
シャルは少し恥ずかしいようなそんな気持ちで周囲の警戒を続けた。
数分後、思い切り泣いたクルルはカムイにもう大丈夫と伝えるように背中に手を回し軽くたたく。
「ん?もう大丈夫?」
カムイはそれに気づき抱きしめる力を緩め、優しく声をかけてきてくれた。それに嬉しく思いながらクルルは返事をする。
「うんなの。カムイさん、ありがとうなの。」
「わかった。え~とごめん、名前を教えてもらっていいかな?」
「あっ、ごめんなさいなの。ルルはクルルというの。」
「クルルだね。よろしく。改めて、ボクはカムイ。カムイ・ナカツっていうんだ。」
「よろしくなの、カムイさん。あとあっちのお姉さんはなんていうの?」
「そうだね、そろそろあっちも紹介しようか。シャル~もう警戒は良いからこっちで自己紹介して。」
「わかったのです。」
シャルはカムイに声をかけられると待ってましたとばかりに返事をし、カムイの横に立つ。
「こんにちわなのです。わたしはカムイさんのパートナーのシャルというのです。名前は聞こえていたのです。クルルと呼び捨てでいいですか?」
「いいの。よろしくなの、シャルさん。」
シャルは自己紹介するとクルルに対して軽く礼をする。
クルルもそれにつられて礼を返す。
カムイは横から見ていたが何とも固かった。
元々シャルは王族で城内の人物以外とは会わなかったというある意味箱入りだし、クルルはさっきまでの奴隷の癖が抜けてないのだろうと思い放置することにする。
「さて、クルル。その目をままというのもあれだからこれを使って、涙を拭いておこうか。」
そういってカムイが取り出したのは、シャルに渡したのと同じ布。〔涙に濡れた君の瞳にこの布を〕で例のツッコミどころの多いハンカチであった。
クルルはそれをカムイから受け取り涙を拭くと、前のシャルと同じ反応を示す。
それを今詳しく説明するのも時間的に問題があると判断し、クルルにはそういう魔道具もあると思ってもらうだけにする。
いずれ詳しく話すとはいえカムイの過去と同じく時間があるときにゆっくりできるところで話すのが一番いいと思ったカムイであった。
誤字脱字などありましたらご指摘お願いします。
10話部分:青銅貨・・・微妙に言いにくいので小銅貨に変更しました。
閑話も並行して書いていますがまとまらない為続きを更新します。
思いついたときに書きためていって別作品で出していくのがいいかなと思っています。
とりあえず当分はカムイの過去には触れない方向でお願いします。




