街道にて
森を抜け、平原を歩いていたカムイとシャルは一時間ほど歩くと、ある程度整備された街道を見つける。
「おぉ、街道に出たね。あの小屋で見た地図通りならどっち行っても同じくらいの距離らしいけど、シャルはどっち行きたい?」
「え?わたしですか?」
「うん、シャルはどっち行ってみたいかなって思ってね。いつまでもボクが方針を決定していてもつまらないでしょ?だから今回どっちに行くかはシャルが決めてみよ?ね?」
「う~、はい、わかったのです。ちょっと考えるので待っててほしいです。」
いきなりカムイに意見を求められたシャルはそういって少しの間悩む。
「・・・・・・カムイさんはどっちに行っても距離は同じと言っていたです・・・・・なら・・・・でもそうすると・・・・ですけど・・・・ではここは・・・・・」
カムイはそれ温かく見守っていた。
「・・・・・う~、どうすればいいですか。もうここは一度カムイさんの意見を聞くのもいいかもしれないのです。(ボソッ)」
そうしているとある程度考えをまとめることができたのかカムイの方に向き直る。
「カムイさん、ちょっと聞きたいことがあるですがいいですか?」
「うん?何、シャル?答えれることなら答えるよ。」
「え~と、改めて聞くですがカムイさんはどんな所に行ってどんなことをやりたいですか?」
「そうだねぇ、昨日も言ったとおりかな?まずボクがこの世界に来た目的は一つ、シャルの願いを聞くため。これはシャルを城から連れ出すことだったけど、それの他にボクはシャルにこの世界のいろいろなものを見てほしいと思っている。二つ目は強くなること。三つ目はボクが楽しめることを探すこと。ちなみにシャルが楽しめることを見つけることでもあるね。一緒にでもいいし、それぞれ別のものでもいいかな?まあただの希望だけどね。ここまでは大丈夫?」
「はいなのです。」
「うん、だからどこに行きたいというのもないし、どんなことをやりたいっていうのも具体的な物はないかな?ただそれを裏返しちゃえばいろいろな場所に行ってみたいし、いろいろなことをやってみたい。そんなところかな?だからシャルに行きたいところというか方向を決めてもらうのもいいかなと思ったんだしね。」
「う~ん、そうですか。難しい答えなのです。どうしようか余計にわからなくなった気がするです。」
「シャル、いろいろ言っちゃったボクが悪い気もするけどそこまで考えなくていいと思うよ?」
「へ?」
「だって、シャルはもう自由なんだよ?どんなことをやってもいいし、どこに行ってもいい。それにどんなに時間を使ってもいい。まあ、間違ったことをやろうとしたらボクが止めるしどんな危険な状態になってもボクが何とかするから。今のシャルはなんだってできるんだ。今回だってどっちに行ったってそこである程度過ごしてからまた戻ってきて逆の道を行ってもいいんだよ。今、ボク達は具体的な目的もない旅をしているといってもいいんだから。どんなことになってもそれはボク達の経験になる。その経験がいずれボク達の旅に目的が生まれたとき役に立つことになるかもだしね。だから気軽に決めてみよう?それがボク達の糧になると信じて。そう考えることができるようになるのがシャルの第一目標になりそうかな?」
「・・・わたしは自由。・・・・それにどんなことになっても私たちの経験になるですか。そして経験がわたし達の糧になる。確かにそういわれるとカムイさんの言っている通りな気もするです。でもわたしはまだそこまで考えることも出来ない。・・・・・なんだかわからなくなってきたのです。頭の中がごちゃごちゃに気持ち悪くなってきたのです。もうやけなのです。」
シャルはカムイの言葉を聞いた後ぼそぼそとその言葉を繰り返していたが、途中から全く考えることが出来なくなる。そうなると元の考えにも戻ることも出来ない。そうなったときシャルは行動していた。
背中に背負った槍を抜き出し地面を一直線に切り払う。そしてできた溝に槍の柄を突き立てていた。
そのまま手を放すと槍は一時止まった後一つの方向に倒れていく。
カタン
室内であったならもっと響いたであろう音が鳴り槍が倒れる。その穂先が向いた先は西である。
それを確認し槍を背負いなおしたシャルは方向を指さしカムイに言う。
「カムイさん、こっちに行こうです。行先でどんなことになっても後悔はしないのです。」
「うん、わかった。さっきも言ったけどボクもどんなことになってもシャルを守るよ。」
二人はそう交し合うとそのまま街道に沿って歩き出した。
二人はシャルの決めた方向に向かって話しながら歩く。
「うん、ちゃんと決めることができたみたいだね。ちょっと決め方が予想外だったから驚いたけどね。」
「そうですか?昔お母さまが読んでくれた絵本にあった方法を使っただけですよ?あれはただ棒を倒すだけだったですが。今回は行先が二方向だけだったのでその方向だけに倒れやすいように溝を作っただけなのです。」
「ああ、いやそのことじゃなくてね。その後の方向の決め方だよ、ボクが言っているのは。槍を棒に見立てて倒して、その槍の穂先は西を向いた。そこまでは良いし目的地がないときの方向の決め方としてはありだよ。・・・・なのにシャルは東を指してこっちに行くって言ったでしょ?あれはどうしてなのかなって?」
そうシャルが指さした方向は倒れた穂先の示した西ではなく、その逆の東であった。
確かに棒を倒してその指した方向に行くという方法は具体的な目的地のない今有効ともいえる方法だった。
事前に溝を作って倒れる方向をある程度制限するというやり方も問題はない。
しかしシャルがなぜ穂先の向いた西ではなく、東に行こうといったのかは不思議に思っていた。
「あぁ、あれですか?簡単に言えばなんとなくなのです。絵本とかの物語では棒の先端の指した方に向かっていたですが、その通りに動いていてもわたしは変わることができないのではと思ったのです。元々棒を倒す方法を使ったのはやけというか勢いでやっていたのです。これだけでも今までのわたしではあまりやりそうにないことですが、そのうえで本来の穂先の示す方向ではなくその逆の柄の向いた方向をとった結果で何かが起こればわたしの考え方も少し変えることができるのではと思ったのです。」
「うん、それが大事だよ。もう一度言うけど城からだけでなく国からも抜け出せた今、シャルは自由だ。だからなんだってできる。だからもう誰の言いなりになることもない。もちろんボクも含めてね。それじゃあ今までと全く変わらないでしょ?だからちょっと意地悪な方法だったけどシャルに行く方向を決めてもらおうと思ったし、ボクが行きたいところも具体的には話さなかった。まあ元々ないっていうのもあるんだけどね。」
「そう、だったのですか?でもなんでそんなことをしようと思ったですか?」
「それはね自分で考えて行動したり、人に自分の意見を言う事っていうのは、人がしっかりと生きていくうえで大事なことの一つだとボクは思うんだ。まず行動しなければ何も事態は動かない。それはいわゆる日常が停滞しているってことだよ。日常の停滞は死んでいるってことと同意だとボクは思う。だってただ淡々と日常を過ごしているだけだから。それは生きているって言わないんじゃないかな?そしてそれは一人でいるとき。複数人でいるときはまた違う意味を持つ。複数人いるときは様々な意見がその人たちの間を飛び交っていく。その中で自分の意見を言えない人はどうなるかな?・・・・・・答えは簡単、その人が貧乏くじを引くことになる。例えば他の人が考えたことの実行役にさせられたりね。その人たちが国の上層部で意見が国の政策だったらもっと大変なことになるかも。まだその政策が国民の役に立つことならいい。けどそれが逆で国民から搾取する目的だったら?そうなれば上に立つ者たちは恨まれるし、その中で一番恨まれるのは実行した人だよ。それはいずれ国民の暴動をおこし上層部はその標的になる。実行した人は最悪トカゲのしっぽ切りのように見捨てられる。実行役の人が勝手にやったことだってね。それが貧乏くじの一つの例。自分で考えなければ停滞し、人に意見を言えなければ貧乏くじを引く。しかも両方できなければただ生かされているだけの人形ともいえるかもしれない。そういう人はただ他の人に操られ、使えなくなったら捨てられる。ボクがいるとはいえシャルにはそんな風になってほしくないからね。」
シャルの質問にそこまで答えたカムイはシャルと向き合い手を握ってから続ける。
「だからボクはそういう生きていくのに必要だと思ったことを君に教えていくよ。その第一歩が今回の事。今後もボクはシャルにそういうことを教えていくけどそれが正解とも限らない。何せボク個人の意見だからね。だからボクが間違っていたり、シャルの意見と違うようなら反論してくれればいい。そのための土台だよ。そしてただ従うだけじゃなくて意見を言い合えることが対等な立場ともいえるしね。」
二人は立ち止まりその間にしばらく沈黙が走った。
数分経っただろうか?それともたったの数秒だろうか?長くも短くも感じられる沈黙が続くがそれはシャルが口を開くことによって終わる。
「カムイさん、ありがとうなのです、そこまでわたしの事を考えてくれて。」
「いや、それほどでもないよ。まあ自分の考えは今後もしっかりと持つようにね、っていう小言みたいなものだから、そこまで気にしなくていいよ?ボクはそうすることがシャルの成長につながるって信じてやってるだけだからね。ただのボクの独りよがりみたいなものなんだから。・・・・さあ、立ち止まっててもしょうがないから進もうか。何度も立ち止まっていても町には着かないからね。一応『収納庫』の中に野営用の道具もいろいろ入っているけどなるべくしたくないでしょ?」
「・・・・・はい、わかったのです。でもカムイさんの言ったことはしっかりと考えておくのです。」
「うん、それでいいよ。そんなにすぐに人の考え方なんて変わるものでもないからね。じっくりと時間をかけてやっていけばいい。それこそこれからの時間はたっぷりとあるんだから。」
そういって二人は止めた足を動かし歩き始める。
それからも二人はたまに雑談をしながら歩く。
たまにどこからか獣や魔獣がやってきてそれを撃退するくらいで二人は何事もなく街道を進んでいく。
二人が行く方向を決めて歩き始めてから約二時間、いまだ街道は続き目的地である町は見えてこない。
周りの環境も特に変わらず、たまに街道脇にある木を見つけるくらいであった。
森の小屋から出てそろそろ六時間ほどになるが、カムイもシャルも疲労の色は見えない。
元の世界で様々な鍛錬を行い丸一日行動することも出来るカムイはともかく、一応王族であり城からも出たことのないシャルがいくら休憩があるからとはいえ、それほど疲労が出ていないことについては少し疑問に残るかもしれない。
まあ、その原因は複数あった。
まずこの世界の法則の一つ。まずこの世界は元より様々な生物が存在しており、その中には強いものもいれば弱いものもいる。それでは弱い種が次々に絶滅してしまいかねない。それをそれを良しとしなかった世界の管理者である神族が生み出したいくつかの法則。これは積んだ経験によって魂の質が強化されていくという事。これを知る一部の者たちにはレベルと呼ばれ、これによって生物としての質が上がり、強い種にも対抗できる手段が生まれるのである。また戦闘での経験、それも戦闘により相手を殺した場合が一番レベルが上がりやすいのだ。シャルは森の中で戦闘を行ったことにより、レベルが上昇それにより体力が向上したのである。ただそれぞれに成長限界というものがあり人によって成長できる上限があるのもこの世界の法則の一つであった。シャルの場合はそれが極端に低かったため能力が目に見えて上がらず、他者に蔑まれていたのだ。
そのシャルにあった問題を解決したのが大賢者の祝福。これは手紙には潜在魔力を底上げさせると書かれていたが少し違っていた。意図的に大賢者はその情報を隠していたのだが本来の効果は潜在魔力を向上させるというのは正しい。ただその向上のさせ方がすさまじかった。まず行うのは対象のマーキング。これを起点に次からの効果が起こるのだ。次に対象の成長限界の解除。そうすることで全体的な容量を上げる。これにより次の潜在魔力を向上させる土台を作るのだ。最後に潜在魔力の向上である。これが二人が寝ているときに起こっていた光の正体であった。ちなみにこれは大賢者が神々より受け取ったものであり発動回数は一回限りという制限があったのだが、なにを思ったか大賢者はこれを改造してしまった。その結果、条件次第で対象が他者にこの祝福を付与可能というとんでもない効果もついてしまっていた。まあ二人がこれを知るのはかなり後になる。それはさておき、この祝福の第二の段階がシャルの体力向上の原因の一つであった。まあカムイもこれを受けているため元々かなり高かった能力がエグイほどに上昇しているのだがそれは想像がつくであろう。
閑話休題
そんなこんなであまり変わり映えのしない街道を歩いていたカムイとシャルであったがふとカムイが足を止め、周りを見回しだした。
周囲には前後はそれなりにまっすぐ伸びる街道。右手には葉の生い茂った一本の木、左手には三つ並んだ大きな岩がある。
そんなカムイの行動をシャルは不思議に思い首をかしげながら訪ねる。
「急に止まってどうかしたのですか?」
「うん、ちょっと何かの気配がした気がしてね。少しの間静かにしててくれるかな?」
シャルはカムイの言葉に従って口を閉じる。
カムイはそれを確認すると目を閉じ耳を澄ませる。
聞こえるのは風の音、風が草を揺らす音、近くの木についている葉の位置魔一枚がこすれる音、隣のシャルとカムイ自身の息をする音。それを除外してさらに集中する。そして聞こえてくる何者かのすすり泣く声。
その音を聞き、方向をなんとなく予想すると目を開け確認する。
その目線の先は左手にあった三つ並んだ大きな岩である。
「見つけた、あそこだ。シャル、ボクの後ろに少し距離を開けてついてきてね。たぶん危険はないだろうけど念のため周りを見回しながらお願いしていい?」
「わかったのです。」
そして二人は声のした岩の方向へ向かった。
誤字脱字などありましたらご指摘お願いします。
10話部分:青銅貨・・・微妙に言いにくいので小銅貨に変更しました。
ノリと勢いで書いている部分も多々あるので前までの話と逆だな、とか思ったところもあったらコメントください。
一応大本の構想というか筋書きはあるんですが細かいところは決めていない為そこがノリと勢いで書いてしまうんですよね。だから文字数が多くなり“ここまで書こう”と思っていたところまでいかないことが多いです。




