第70話 札が一枚足りなくても、盗まれたと決めないでください
第三便所。
通常運用。
第一日目。
異音で。
一時停止。
代替便所も。
予定通り動きました。
ところが翌朝。
第三便所が出した代替札。
三枚。
第二便所が受け取った代替札。
二枚。
一枚。
足りません。
「誰か持って帰った?」
オグが言った。
フィル。
記録板。
見る。
第三便所。
代替札発行――3枚。
第二便所。
代替札回収――2枚。
◇
差。
一枚。
◇
「まだ決めないでください」
直人が言った。
「でも一枚ないぞ」
「ないことは分かっています」
「なら――」
「盗られたかどうかは分かっていません」
◇
昨日。
異音。
聞こえた。
でも。
詰まり。
とは。
決めなかった。
今日も。
同じ。
◇
「まず」
直人。
紙を置く。
「昨日、何が起きたか並べます」
◇
通常運用。
16利用目。
異音。
第三便所。
停止。
第二便所。
受入可。
代替開始。
その後。
原因確認。
設備確認洗浄。
三回。
異常再現なし。
第三便所。
再開。
◇
「停止していた時間は?」
フィル。
昨日の記録。
指で追う。
「それほど長くありません」
「その間に札を三枚出した」
「はい」
「第二便所へ着いたのは二枚」
「はい」
◇
直人。
次。
「誰に渡したか、名前は?」
オグ。
「取ってない」
「それでいいです」
「いいのか?」
「個人名は必要ありません」
◇
問題は。
別。
「渡した順番は残っています?」
オグ。
止まる。
「……枚数だけだ」
◇
第三便所。
記録。
代替札 三枚発行。
それだけ。
一枚目。
二枚目。
三枚目。
誰が。
どの順で。
どこへ行ったか。
残っていない。
◇
「まず制度側に穴があります」
フィル。
「なくした人を探す前に?」
「はい」
◇
サデル。
第二便所。
呼ぶ。
昨日の。
受入記録。
持ってきてもらう。
◇
「こっちは二人だ」
サデルが言う。
「最初に男が一人。その少し後に女が一人」
「同時ではない?」
「少し間があった」
「札は?」
「二枚とも受け取った」
◇
水位確認。
問題なし。
代替利用。
二利用。
その後。
第三便所。
再開通知。
代替受付終了。
◇
「三人来ると聞いていました?」
「聞いてない」
「じゃあ?」
「青札で受入可を返しただけだ」
◇
ここ。
直人。
止まる。
◇
第三便所。
札を。
三枚出した。
でも。
第二便所は。
三人来る。
とは。
知らない。
◇
「代替札は」
フィルが言う。
「第二便所を使える証明にはなってる」
「はい」
「でも、何枚出たかは向こうへ伝わってない」
「そうです」
◇
サデル。
「俺は来た人数だけ数えてたぞ」
「それで正しいです」
「じゃあ一枚足りなくても、こっちの水位には関係ない?」
「実際に使われていなければ」
◇
発行。
と。
利用。
同じではない。
◇
第三便所で。
札。
三枚。
出た。
第二便所で。
二利用。
あった。
だから。
第二便所へ。
三利用分の負荷が。
掛かった。
わけではない。
◇
「じゃあ」
オグ。
「一枚はどこ行ったんだ?」
「そこを確認します」
◇
昨日。
停止中。
入口にいた人。
オグ。
思い出す。
「最初に外の男」
「はい」
「その次に市場の女」
「その二人は第二便所へ?」
サデル。
「来た」
◇
「三枚目は?」
オグ。
黙る。
◇
「……子ども連れ」
「外部利用?」
「いや」
オグ。
眉。
寄せる。
「宿の客だった」
◇
昨日。
第三便所。
停止。
階段から。
母親。
小さな子。
降りてきた。
子ども。
落ち着かない。
母親。
「便所は?」
オグ。
第二便所への。
代替札。
渡した。
◇
「そこまでは覚えてる」
「第二便所には」
サデル。
首を振る。
「子ども連れは来てない」
◇
直人。
「宿の中で何かありませんでした?」
モルド。
「マルタなら知ってるかもしれん」
◇
マルタ。
厨房。
呼ばれる。
「昨日の子ども?」
「はい」
「ああ」
すぐ。
思い出す。
「間に合わなさそうだったから、古い方を使わせたよ」
◇
オグ。
「古い方?」
「宿の既存便所」
◇
第三便所から。
第二便所。
歩く。
小さな子には。
長い。
母親も。
困っていた。
だから。
マルタ。
宿側。
既存便所。
案内。
◇
「それで第二便所へ来なかった」
フィル。
「たぶん」
◇
「札は?」
マルタ。
「知らないね」
◇
原因。
かなり。
絞れた。
でも。
まだ。
札そのもの。
ない。
◇
そこへ。
宿の入口。
「あの」
声。
◇
昨日の。
母親。
手。
小さな紙。
◇
「これ」
オグ。
「あ」
◇
第三便所代替利用。
◇
「昨日、返すの忘れてしまって」
「第二便所、行かなかったんですよね?」
直人。
「はい」
「子どもがもう無理そうで」
母親。
困った顔。
「宿の方に、近い便所を教えてもらいました」
◇
「返す場所は分かりました?」
「それが」
母親。
札を見る。
「何も書いてなかったので」
◇
直人。
札。
受け取る。
◇
盗難。
ではない。
持ち逃げ。
でもない。
ただ。
使わなかった札を。
どこへ。
返せばいいか。
決めていなかった。
◇
「ありがとうございます」
直人が言う。
「ご迷惑を」
「いえ」
◇
母親と。
子ども。
階段。
上がる。
◇
オグ。
札を見る。
「……俺たちの方だったな」
「制度の方です」
◇
フィル。
昨日の記録。
修正。
◇
代替札発行――3枚。
第二便所代替利用――2利用。
未使用――1枚。
未使用理由――宿側既存便所へ経路変更。
翌朝返却。
◇
「三枚出した」
サデル。
「でも、うちが受けたのは二利用」
「はい」
「ならこれから」
サデル。
「札の枚数と利用数は別にしろ」
「そうします」
◇
フィル。
新しい欄。
作る。
代替札発行数。
第二便所到着数。
未使用返却数。
経路変更数。
◇
オグ。
「また欄が増えた」
「必要な欄だけです」
「本当に?」
「今回は必要です」
◇
さらに。
札。
作り直す。
番号。
付ける。
◇
代替札 001
第二便所用
第三便所停止中のみ有効
使わなかった場合は第三便所管理者へ返却
◇
「名前は書かない?」
フィル。
「書きません」
「番号だけ?」
「はい」
◇
第三便所。
発行時。
番号。
記録。
第二便所。
受入時。
同じ番号。
記録。
◇
誰。
ではない。
どの札。
どう動いたか。
それだけ。
◇
「例えば001と002を出して」
オグ。
「第二便所に001だけ来たら?」
「002は未着です」
「盗まれた?」
「まだ言いません」
「……ですよね」
◇
少し。
笑い。
◇
直人。
もう一つ。
追加。
「第三便所が再開した時」
「はい」
「未使用の代替札は全部無効にします」
フィル。
「持っていても、次の停止には使えない」
「はい」
◇
これなら。
昨日の札。
後日。
出して。
第二便所。
無料利用。
そんな。
混乱も。
防げる。
◇
サデル。
「俺の方は番号だけ確認すればいい?」
「はい」
「第三便所停止中かどうかも?」
「再開連絡が来たら、その番号帯は終了です」
◇
「番号帯?」
「停止一回ごとに分けます」
「面倒になってきたぞ」
オグ。
◇
直人。
首。
振る。
「もっと簡単にします」
◇
停止。
一回。
日付。
札番号。
それだけ。
◇
第一日停止・1
第一日停止・2
第一日停止・3
◇
翌日。
また。
停止したら。
別。
◇
「これなら」
サデル。
「見れば分かる」
◇
制度。
修正。
完了。
◇
でも。
直人は。
紙を。
まだ。
閉じない。
「もう一つあります」
「まだ?」
オグ。
◇
「昨日、子どもは第二便所へ行けませんでした」
「間に合わなかったからな」
「はい」
◇
代替便所。
決めた。
でも。
全員が。
そこまで。
歩ける。
わけではない。
◇
緊急。
子ども。
高齢者。
体調不良。
介助必要。
そういう人。
通常の。
代替経路。
使えないことがある。
◇
フィル。
前回。
決めた。
緊急時ルール。
見る。
◇
緊急時――所属に関係なく優先。
料金確認より利用を先行。
◇
「代替中も同じです」
直人が言う。
「第二便所へ送ること自体が目的ではありません」
◇
使える便所へ。
安全に。
間に合うように。
案内する。
それが。
目的。
◇
「だから」
直人。
管理表。
一行。
追加。
代替経路を利用できない緊急利用者は、最寄りの利用可能便所へ案内。
◇
オグ。
「昨日みたいに、宿の古い便所?」
「使える状態なら」
「第三便所が止まったからって、全員第二へ送らなくていい?」
「はい」
◇
代替便所。
一つ。
決める。
それは。
全員。
そこへ。
押し込む。
という意味。
ではない。
◇
通常利用。
第二便所。
緊急。
近い。
利用可能な場所。
◇
サデル。
「それなら、こっちにも余計な負担が来ない」
「はい」
◇
昨日。
札。
一枚。
足りなかった。
そこから。
分かった。
◇
札を出した数。
便所を使った数。
同じではない。
決めた経路。
実際に通った経路。
同じとは限らない。
◇
設備だけ。
ではない。
人が。
動く。
だから。
運用は。
ずれる。
◇
第二日目。
第三便所。
通常運用。
開始。
◇
入口。
利用できます。
◇
一利用。
二利用。
三利用。
問題なし。
◇
昨日の。
通気口。
防虫網のみ。
追加布。
なし。
異音。
なし。
◇
昼。
18利用。
フィル。
「もうすぐ20利用です」
「はい」
◇
十九利用。
そして。
二十利用。
◇
中間確認。
回収槽。
水位。
余裕。
漏れ。
なし。
排水。
正常。
◇
20利用――継続可。
◇
そこから。
二十一。
二十二。
二十三。
◇
外部利用。
昨日より。
増えている。
◇
「噂が広がったかな」
オグ。
「たぶん」
◇
二十四。
二十五。
二十六。
◇
夕方。
酒場。
客。
増える。
◇
二十七。
二十八。
二十九。
◇
フィル。
記録板。
見る。
「次で30利用です」
◇
30利用。
第一週。
新規外部受付。
終了。
その基準。
◇
三十利用目。
酒場客。
扉。
開く。
出る。
◇
フィル。
線。
引く。
30利用。
◇
「新規外部受付、終了ですね」
「はい」
◇
オグ。
入口札。
切り替える。
本日の新規外部受付は終了しました。
◇
回収槽。
まだ。
警戒線。
未到達。
だから。
宿泊客。
酒場客。
継続。
◇
その直後。
外。
足音。
速い。
◇
「すみません!」
男。
一人。
駆け込んでくる。
顔。
青い。
腹。
押さえている。
「便所――」
◇
オグ。
終了札。
見る。
30利用。
見る。
男。
見る。
◇
「外部受付は――」
言いかける。
◇
直人が。
管理表。
開く。
◇
通常時。
30利用。
新規外部受付終了。
でも。
その下。
もう。
決めてある。
◇
緊急時――別ルール。
代替札が一枚足りなかった原因を調べました。
結果は盗難ではなく、子ども連れの宿泊客が第二便所まで間に合わず、宿側の既存便所へ案内されていたためでした。
そこで、
代替札発行数
第二便所到着数
未使用返却数
経路変更数
を分けて記録。
代替札にも番号と有効範囲を付け、未使用時の返却先を明記しました。
また、代替便所を決めても、子ども・高齢者・体調不良者などを全員そこへ送るとは限りません。
緊急時は、最寄りの利用可能な便所へ案内します。
そして通常運用二日目。
ついに当日の総利用が30利用へ到達。
新規外部受付を終了した直後、腹を押さえた外部利用者が駆け込んできました。
次は、30利用制限と緊急時ルールを実際の運用で使います。




