☽第3話 天才錬金術師による華麗なる講義③
ドルジーは部屋の中を行ったり来たりしながら、長い間考え込んでいた。
だが、急にピタリと足を止め、「む? そうだ! きっとそうに違いない!」と大声を上げると、ティアたちの方へ向き直った。
「あなた方の魂が同じところに存在できない理由として、もうひとつ有力な説が思いつきましたー! 慈石ですよ、慈石! あなた方はそれぞれ〝反発する極〟だったのです!」
興奮したように瞳をギラつかせているドルジーを前に、ティアとヴィソルはそっと顔を見合わせて小首をかしげた。
「慈石? 反発する極? いったい何のことだ?」
ヴィソルは訝しげに眉をひそめる。
ティアは全く意味がわからず、ただ首をかしげて瞬きを繰り返すのみだった。
「嫌ですねぇ、慈石ですよぉ! ヴィソル殿下はご存知ありませんかねぇ? 私たち錬金術師の間では有名な石なのですが……。鉄を引き寄せ、両側が〝N極〟と〝S極〟に分かれていたりする摩訶不思議な石のことでーす」
「鉄を引き寄せる石……っと、ああ! そう言えば、以前チラッと耳にしたことがあったな。同じ極同士だと反発し合い、違う極同士だと引き寄せ合う性質を持つという、あの石のことか」
「そうそう、それでーす!」
さらに興奮した様子で、ドルジーは前のめりで自説を語り出した。
「二人の魂は強力な慈石と同じと考えればよいのです! 地下道を通って直接会おうとすれば弾き返される。これは同極、つまり同じ魂が反発し合う性質を持つと考えるならば、当然の結果だったと言えるのです! ただーし! 力が働くのは〝銀脈の外〟にいる時だけだとすれば? もしもそうであるならば、塔にいるお二人とこちらにいるお二人、同時に銀脈の大回廊に立つことも可能になるのですよぉー!」
「何? 同時に銀脈の大回廊に?」
「えーえ、そうですとも! 城の東西からそれぞれ侵入して同時に足を踏み入れれば、銀脈が魂の反発を吸収し、二人を回廊の中心へと引き寄せるのです! もしくは、どちらか側が先に銀脈の大回廊に向かってもう片方が現れるまで待機! そこにもう片方が――という方法でもいいかもしれませんなぁー。とにかく、片側が銀脈の大回廊にいる時でなければ、お互いの魂は反発し合ってしまって永遠に同じ場所に立つことはできないのです!」
「え……永遠に……」
ティアは軽いめまいを覚えて足元をふらつかせた。
とたん、ヴィソルの腕が背中へと伸ばされ、すんでのところで受け止められる。
「あ……。も、申し訳ございません。わたくし……」
「セルランティア、どうか無理はなさらないでください。気分が優れないようでしたら、こちらの椅子に」
そう言って近くの椅子を引くと、ヴィソルはティアの肩を支えながらゆっくりと座らせた。
「ありがとうございます、ヴィソル様。この程度のことで、お恥ずかしい限りですわ」
「この程度のことなどではありませんよ。『永遠に』などという言葉を使われたら、誰だって恐れをなします」
ティアに優しく語りかけてから、ヴィソルは厳しい視線をドルジーに向けた。
「ドルジー、今言ったことは確かなのだろうな? 塔の二人かこちらの二人、どちらか側が銀脈の大回廊に足を踏み入れてしまえば、もう片側も弾かれることなく同じ場に立てるのだな?」
ヴィソルが詰問すると、ドルジーはたちまち顔をしかめ、迷惑そうにヴィソルを見返した。
「嫌ですねぇ。そのようなこと、今の段階ではわかるはずもないではございませんかぁー」
「はあっ!? わかるはずもないだと!?」
予想外の言葉だったのか、ヴィソルは珍しく動揺し、声まで裏返らせている。
ドルジーはおどけて肩をすくめ、口の端だけで笑ってみせた。
「当たり前ですよぉー。私はあくまで〝仮説〟を述べているのみなのですから。『こうも考えられる』『こうだとしたら説明がつく』と、思いつく限りの考えを出していっている段階なわけですよ。そもそも実験のひとつもしないうちから、説が正しいかどうかなど確かめられるわけないでしょうー?」
「な……っ! では、おまえの説が正しいかどうか、今の段階ではわからないと言うのか!?」
「ですからぁ~。先ほどからそう申しているではありませんかぁ」
「何が起こるかわからない状態のまま、セルランティアとリオフリードにそのおまえの説とやらを実行させるつもりだったのか!? おまえの説が間違っていて、昔のような悲劇が引き起こされたらどう責任を取るつもりだ!?」
「とーんでもない! 私に責任など取れるはずもございませんよぉー。何せ、鉄の心臓の発明者たる科学者ですら防げなかった悲劇ですからなぁ。つい最近知ったばかりのしがない一錬金術師に、どうにかできるわけがないではありませんかぁー」
「な――っ! き、貴様……っ!」
ヴィソルは悔しげに歯噛みし、ドルジーを睨みつけている。
ティアはおろおろと二人の様子を見守ることしかできずにいたが、ヴィソルとは違い、考えてみれば当然の話だと納得もしていた。
鉄の心臓によって何が引き起こされるかなど、ドルジーだけでなく、誰にもわかるはずもない。
ドルジーの言うとおり、発明者自身ですら防げなかったらしき過去の悲劇なのだ。いくら仮説を挙げたところで、実際に試してみない限り、悲劇を起こさずに済むかどうかなど、ハッキリとは言い切れないだろう。
「何が引き起こされるかわからぬぶっつけ本番のこの勝負に挑む気概が、果たして王女殿下とリオフリードにございますでしょうかぁ?……ま、失敗を恐れて何もしないという選択をなさるとしても、私はいっこうに構いませんがね。ただ……お二人は一生、元のお体に戻ることはできなくなるのですよぉー? それでほんっとーぅに、後悔なさいませんのですなぁ?」
薄ら笑いを浮かべつつ、ドルジーはティアをじっと見つめる。
「貴様、いい加減に――!」
ヴィソルは掴みかかる勢いで足を一歩前に出したが、ティアはすかさず手で制した。そしてまっすぐドルジーを見据えて答える。
「ドルジー様。わたくしはあなた様がおっしゃった説の全てを信じます。そしてヴィソル様がおっしゃっていた、わたくしが先の世で鉄の心臓を起動させてしまった際には、『過去の悲劇は引き起こされなかった』というお考えを信じます。ですから――」
一度言葉を切ってゆっくり深呼吸すると、ティアは凛とした声で宣言した。
「その勝負、喜んで受けて立ちますわ!」
〈ったりめーだ! 俺もやってやるぜ!〉
ティアの言葉尻に被せるように、リオもキッパリと言い切った。




