☀第3話 銀脈の大回廊の謎
自分の髪と瞳が、「古代魔導装置を起動させるための唯一の鍵」――?
あまりにも現実味のない話をヴィソルから教えられ、ティアは大いに戸惑った。
(銀脈の大回廊。その地下にあるという、〝鉄の心臓〟と呼ばれる古代魔導装置。そのように恐ろしいものが、城の地下に隠されているだなんて……)
ヴィソルが嘘を言うわけがないと信じているものの、にわかには信じがたい話だ。
ティアがどう受け止めればいいのか迷っていると、唐突にリオが叫んだ。
〈そーだっ!! そーいやあん時、回廊の下から妙にでっけー音が聞こえたよーな気がする!〉
「えっ?……リオフリード様、あの時とは……?」
〈だからっ、あの日だよ! 王女さんとそこの王子の婚姻式だったっつー日! 俺、どっかから飛んできた短剣だか何だかに胸貫かれて倒れたんだけどさ。その時、下の方からすっげー大きな音がして、床も波打ってるみてーに動いてた気がすんだよな。今考えると、あれが『古代魔導装置』ってヤツが動き出した瞬間だったんじゃねーかって思ってさ〉
「まあ……。そのようなことがございましたの?」
先の世から来たと言うリオが言っているのだから、真実なのだろうが……。
それでもまだ、ティアは半信半疑だった。
「セルランティア? あなたの中の少年――リオフリードが何か言っているのですか?」
ふいにヴィソルに訊ねられ、ティアは小さくうなずいた。
「え、ええ……。リオフリード様がおっしゃるには、『婚姻式の日に地下からとても大きな音がして、床が大きく波打っていた』と……。『あれが〝古代魔導装置〟が動き出した瞬間だった』のではないかと、そのようなことをおっしゃっていて……」
「なんと……! そう言えば、彼もあなたが暗殺された場にいたということでしたね」
「え?……あ、ええ……」
「しかし、妙ですね。何故、平民であるはずの彼があなたのお傍に? しかも、あなたが何者かに刺されたのは銀脈の大回廊というではありませんか。それはどう考えてもおかしい!」
「お、おかしい?……わたくしが何者かに襲われたのが大回廊ですと、何がおかしいのですか?」
リオのことにはあえて触れず、ティアは話題を「銀脈の大回廊」のみに絞ろうとした。
「おかしいではありませんか!……お気づきになりませんか? エルイグニス陛下は、あなたが鉄の心臓や銀脈に近づくことを何よりも恐れていたのですよ? その恐れていた銀脈の上をあなたお一人で歩かせようだなどと、絶対に思われるはずがないのです!」
「あ……。確かにそうですわね。お父様は、わたくしが城に近づくことすら許してはくださいませんでしたわ。……リオフリード様、わたくしが襲われたのは、誠に銀脈の大回廊でしたの? 記憶違いということはございませんか?」
〈えっ?……あ、いや……。そー言や、あそこが『銀脈の大回廊』ってとこかどーかまでは俺にはわかんねーけど……。でもさ、鏡みてーなピカピカした装飾がバカみてーにたくさん、しかも細かく貼り付けられてるよーなとこだったぜ? 俺と王女さんの姿がいくつもそこに映って……〉
「鏡のような装飾……。ヴィソル様。その銀脈の大回廊というところは、細かい銀の装飾がたくさん施されているところなのですか?」
「はい、そのとおりです。私は陛下に一度だけ案内していただいたことがございますが、床や壁一面に、細長い銀の板が無数に張り巡らされていました」
「そのような場所は、銀脈の大回廊のみですの? 似たような装飾がなされた場所は、城の内部には他に見当たらないのですか?」
「他に?……さあ、私もそこまでは存じ上げませんが――」
「そうなのですか……」
ティアはしばし考え込んだ。
他にもそのような場所がないとは、今のところ言い切れない。
だが、銀の装飾が「鉄の心臓を動かすために必要なもの」なのだとすれば、地下に鉄の心臓があるというその場所以外に、それらを施す必要はないはずだ。
そう考えると、城内にそのような装飾がなされた場所は、他にないということになる。
(やはり、わたくしがリオフリード様に刺された場所は、銀脈の大回廊なのでしょうか。……とすると、リオフリード様がお聞きになった大きな音や床の揺れというのは、鉄の心臓が起動した証拠。鉄の心臓が起動……すると、どうなりますの?)
物々しい言葉にばかり気を取られ、肝心なことがわかっていなかったことに気づき、ティアはヴィソルに目をやった。
「ヴィソル様。その鉄の心臓という古代魔導装置は、そもそも何をするための装置なのですか? それが起動するとどうなるというのです?」
ヴィソルは一瞬、困ったように眉根を寄せた。
「それが……。実は、ハッキリ『こう』だと言えるほどのことはわかっていないのです」
「わかっていない? 何をするための装置なのかがわかっていない、ということですか?」
「はい。王家に残された古文書に、鉄の心臓についての戒めとも取れる言葉が書き記されてはいるのですが、不可解な部分もあり、『このようなことが起こる』と断言できないと言いますか……」
「古文書に残された言葉? それはどういうものですの?」
「次のような一節です。『常闇を退けし虹色の髪と虹の眼宿せし者、鉄の心臓に命巡らす鍵とならん。其の者のみ銀脈に影を落とさむ時、魂を去りし日に遡らせん。これを除きて、この鉄の機巧を呼び醒ます術なきものと心得るべし』」
ヴィソルは詩でも読み上げるように、朗々と声を張り上げた。
「『魂を去りし日に遡らせん』……?」
〈魂、って……。王女さん!〉
ティアとリオは同時に息を呑んだ。
〈『魂を去りし日に』って、俺の意識だけがここに飛ばされたってことともろに関係あんじゃねーか! その『鉄の心臓』ってヤツのせいで、俺は今ここにいるってことだろ!?〉
興奮ぎみにまくし立てるリオに、ティアは無言でうなずいてみせた。
あの日、リオが自分の中に入ってきたのは、鉄の心臓の起動によって過ぎし日に飛ばされたからなのだ。
……とするともしや、先の世の自分も、この世界に飛ばされているのでは……?
まだ仮説に過ぎなかったが――。
ティアは新たな可能性に直面し、緊張から両手をギュッと握り締めた。




