6.隠された真実
狩諳は、ハルシオンとクービビックという睡眠薬を処方してもらった。
それにより睡眠時間は確保できたものの、依然として心の傷を癒すことは出来ずにいた。
自分が親を殺したという罪悪感は拭いきれず、部下たちの誇張されていく噂に苛まれ、それでも尚父の遺言が頭から離れずにいた。
「正しさって…何だよ…。正しい道なんて…あるのかよ…。」
狩諳はシグマの動向を示した書類を見ながら、ぽつりと呟いた。
しかし、誰もその問いに答えはくれない。
誰かの正義は誰かを傷つける、それを身をもって理解していた狩諳は、答えは出ないのだろうと半ば諦めていた。
今自分にできるのは仕事を淡々とこなすこと、そう自分に言い聞かせ、采配を練り始めた。
しかし、現実は残酷である。
一瞬の油断が命を奪う。
狩諳の集中力不足が采配ミスを招いたことを上層部から知らされたのは、およそ一週間後のことだった。
狩諳は胸に太い針を刺されたような痛みに苦しんでいた。
自分が大事にしていたはずの部下を、またも自分の手から零してしまったこと、そして十中八九また"執行"されること。幾重にも重なった苦しさが狩諳に襲いかかり、彼女は呼吸をするのに精一杯だった。
その様子を、桐生は微妙に開いた扉の外から覗き込んでいた。
(狩諳がここまで動揺を見せるなんて、何かおかしくないか…?父を失ったこともあるだろうけど、他にも何かあるのか?なんだろう、すごく嫌な予感がする。)
桐生は東雲を同伴させ、雨霧の元へ訪ねる。
狩諳の様子が明らかにおかしいこと、陰口を度々耳にすること、それ以外に狩諳の周囲で何が起きているのか自分には分からないことなど、桐生は包み隠さず二人に話した。
重く湿った沈黙が場を支配する。
息を吸い込み、言葉を紡ぐことで、最初に沈黙を破ったのは雨霧だった。
「あいつを心配しているのは俺も同じだ。だが、何も知らないのもまた同じだ。あいつは必要最低限しか語ろうとしない。だから一層厄介だ。」
「やっぱ雨霧センセーも知らねぇかぁ…。」
桐生が頭を掻きながらボヤく。
しばらくまた沈黙が続いた後、東雲が何かを思い出したかのように表情を強ばらせる。
「どうした東雲!?何か知ってるのか!?」
桐生が詰め寄る。
東雲は息を呑んだ後、ゆっくりと口を開く。
「……以前、総帥の身体を見てしまったことがありまして。」
「女であることを隠すための包帯か?」
桐生が問いかける。
「いえ、それもあるのですが、僕が見た時の総帥は、すごく傷だらけで…はっきりと覚えています。あの日の前三日間、総帥は外回りの仕事には出ていなかった。なのに、鮮明に刻まれた痣や刺傷を縫った痕、それに、銃創痕だってありました。先々月の話です。雨霧先生、総帥が銃で撃たれたという記録、ありますか?」
東雲がそう告げると、二人の顔から血の気が引き、どんどん青ざめていく。
雨霧は必死に二ヶ月前のカルテを漁っている。
桐生はまるで五臓を締め上げられているかのような顔をしてそれを見守っている。
「…無い。狩諳が銃創診せに来たのは、丁度半年前が最後だ…。」
雨霧が消え入りそうな声で呟く。
東雲は続ける。
「つまり、自分一人で治そうとするほど隠したかった怪我である、そう考えるのが妥当でしょう。」
「銃なんて…自傷に使うようなモンでもないだろ…?じゃあ、あいつは誰に……?」
桐生は震える手を握りしめていた。
「噂程度にしか聞いたことはありませんが、東西の総帥は部下を失った責任を取らされる…。そんな話を耳にしたことがあります。もしも、責任を、その身を使って取らされるなら…。」
東雲は俯いたまま言いかけて黙り込む。
再び静寂が訪れる。
「…つまり、医者である俺すら騙して隠し通してたのか、あいつは。」
雨霧が、怒りと悲しみを含んだ声色で言う。
桐生も東雲も、これ以上何も言うことが出来なかった。
相手が上層部である以上、下手に手を打つことは狩諳を余計に苦しめることになると理解していたからだ。
その日はこれ以上話し合えるような情報も心の余裕もなかったため、これにて解散となった。




