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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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教える仕事って素敵やん

「え?いや、講師ですか?。」


「はい、そうです。」


 近くにやって来た、小柄で癖の強い髪の気の弱そうな顔をした中年男性がそう言う。


「おっと、ご紹介がまだでしたな。こちらはこの学園の理事長、エドマンク殿です。」


「エドマンクです。よろしくお願いいたします。ここからは私からお話しさせて頂きたいのです。どうぞ皆さん奥へ。」


 という事で俺、シエンちゃん、アルスちゃん、キーケちゃんのパーティーメンバー、そしてアウロさん、キワサカ様、デンバーさんはエドマンク理事長に続いて仮設テント奥の会議スペースへと案内されたのだった。

 ちなみにキックスさんは事務所のメンバーと一緒に公演の準備に向かったのだった。


「さて、それでは改めましてご挨拶からさせて頂きます。私がチルデイマ学園の理事長をさせて頂くことになりました、エドマンクです。以後お見知りおきを。さて、今回、祝賀会前に皆さんにお集まり頂きましたのは、学園の方針について避けられぬ事情により当初のものと離れたものになってしまった、その事についてのご説明と皆さんのご協力を仰ぎたいと、そうした理由なのです。」


「フム、方針とやらは、そして離れたとは何なのか聞かせてもらおうか。」


 おー、さすがはキーケちゃん、こうした状況でも物怖じしないどころかいつもと変わらぬ調子!そこに痺れて憧れるっつーの!なにするだーだっつーの!


「はい、まずは、公とクルースさんとで提唱した当初の方針、身寄りのない子供たちに専門的な教育を施し有能な人材を作り産業を発展させ領民の生活をより良くし、領を繁栄させ延いてはレインザーの発展に貢献する。その素晴らしい方針を全うし切れなかったことを、まずは謝罪したい。」


 そう言ってエドマンクさんは深々と頭を下げた。


「よしてくれエドマンク殿。止められなかった私の責任だ、頭を上げてくれ!。」


「いや、ゴゼファード公はよくやって下さった!もっと私がしっかりしていれば!。」


「まあまあ、具体的にどうしたのか話して下さらぬかな。」


 いぶし銀の大人の余裕、アウロさんが穏やかに言う。


「はい、失礼しました。先ほども申し上げたように、この学園は身寄りのない子供に専門的な教育を施すために建てられたものです。それが、建設計画がわかった段階でこの学園の規模の大きさや質の良さに目を付けた一部の貴族連中が異を唱えまして、これほどの施設は貴族のためにこそあるべきだと言い始めました。貴族の子供たちのための学園などはそれこそあちこちにあります、デンバー商会の力をお借りしてまでこの学園を立ち上げるのに、それではまったく意味がありません。ゴゼファード公はそうした意味を説くためにそうした貴族連中と何度も会談されました。公は本当に辛抱強く、説明して下さいました。しかし、貴族連中は領内の大商会も味方につけ、学園の格式のためと称して一定数、貴族や商会の子供たちの編入させなくては建設を進めさせるわけにはいかないとゴネました。建設に携わる者たちがそうした場所からの圧力で生活基盤を失う可能性が高くなり、結局、生徒数の内3割はそうした所の子供たちの編入を認めざるを得ないことになりました。」


 気が弱そうに見えたが、なかなかどうして気骨のある人らしいねエドマンク理事長は。まあ、そうでなくば選ばれないだろうしね。


「まあ、よろしいのではないでしょうかね。3割程度でしたら。」


「それが、アウロさん、問題はその3割の生徒の処遇なのですが、まず彼らは彼らだけのクラスにせよと、そのように言っておりましたが、そこは公の尽力もあり認められることはなく済んだのですが、その条件をのむ代わりにという事で彼らの出資で豪華な宿舎を建設し、その上、独自に制服まで作りましてあくまでも学園内での差別化を図ろうと言う気なのです。」


「ほう、それは困りましたなあ。」


「ちょっとよろしいですか?。」


「ええ、クルースさん、どうぞ。」


「当初の目的はあくまで職能を付けることだったと思うのですが、貴族や大きな商会の子供が学ぶべきことは他にあるのではないですか?目的がズレているのではないですか?。」


「はい、それにつきましては、皆さんに特別講師をお願いした理由になります。彼らはクラスを分けないのは良いが学ぶ内容についてはこちらで用意した講師にも決めさせたい、その講師達の金銭面の面倒は自分たちでするから、と言って強引に講師を派遣したのです。結局彼らはこの学園を貴族や大商会むけの学園にしようとしているのです。そんな事を許すわけにはいきません。だからといって学園の生徒には貴族や大商会に偏見を持って欲しくもない、将来、生徒たちはそうした人たちとも関わって生きていくことになるでしょうからね。そのような理由でですね、私は皆さんには生徒たちに色々な価値観を提示してもらいたいと思っているのです。」


「ほう、面白そうではないか。」


 キーケちゃんが笑って言う。


「タモクト殿にそう思っていただけると光栄です。人の生きる目的や生き方はこの価値観によって左右されると、私はそう考えます。狭い価値観、ひとつだけの価値観に囚われてしまうと、人は脆くなりがちです。それは、皆さん良くご承知の事と思います。」


 エドマンク理事長は俺の目を見てそう言った。

 これは、発見者の件も知っていて言ってるな。


「この学園で生徒のみんなに学んでほしいのは、困難に対処でき新しいものを生み出せる柔軟な考え方なのです。これからのレインザーに必要なのはそうした人材だと思っています。」


「なら、貴族の子も金持ちの子も、みんなにそれを学んでもらえば良いじゃないか。」


 おおーっ!出たよ!シエンちゃん!。

 エドマンク理事長が目を見開いた。


「やはり、ゴゼファード公の推薦は正しかった。私自身、まだ偏った見方をしていたようです。シエンさんのおっしゃられる通りです。みんな学園の生徒なのですものね。」


「なるほど、事情はわかりました。それは確かに大切な事だと思います。そして、アウロさんも、キーケちゃんも、アルスちゃんも、シエンちゃんも、まさにそうした教育者として適任だと思いますよ。しかし、自分は、ちょっとこう言っては何ですが、この国の事もあまり良く知らないような人間でして、人に物を教えるだなんて事は、」


「まったく、相変わらずであるな!。」


「おっと、お待たせしていましたね。どうぞ、こちらへ。」


「うむ、入らせていただくのである。吾輩はスウォン・ルホイ。オゴワナリヤ・タイムスの記者である。以後お見知りおきを。」


「実は、クルースさんを推薦して頂いたのはルホイ記者もなんですよ。」


「ふむ、きっとクルース殿ならば人にものを教えるなんて柄じゃないと言われると思ったのである。しかし、クルース殿!。」


「はい!なんでしょう!。」


 思わずスーちゃんの勢いに押されてしまう。


「我らはクルース殿と旅をしたあの日々を忘れることはないのである!吾輩もオウンジ殿も、そしてハティ殿まで、クルース殿の影響で今、前に向かって進んでいるのである!。我らはクルース殿に教えてもらったのである、この世界は捨てたものではない、なりたい自分になれるのだ、と。今一度、それを学園の生徒たちに伝えてやっては貰えぬだろうか!頼むのである!。」


 参ったなあ。そこまで言われては断れない。


「わかりました。どこまでやれるかわかりませんが、できうる限りの事はさせて頂きます。」


「良かった!これで、私の理想にも届きそうです!さあ!皆さん!一緒に素晴らしい学園を築き上げましょう!。」


 エドマンク理事長が高らかに言う。


「改めて、宜しくお願い致します。」


 我々は改めて、お互いに挨拶をした。


「しかし、スーちゃん久しぶりだねえ?元気だった?。」


「元気も元気、大元気である。クルース殿こそ、ご活躍の様子。色々と耳にしているのであるぞ!エルミランドから帰ったばかりとの事、お疲れ様であった!。」


「なによー、もう聞いてるの?さすがは敏腕記者!そう言えば、本物のガルムを見たよ。」


「また、クルース殿は。そんな細かいことを良く覚えておるな。エルミランドはどうであった?。」


 俺とスーちゃんは久しぶりの再会を喜び、近況を伝え合ったのだった。


「さあ、皆さん。祝賀会が始まります。席に着きましょう。」


 エドマンド理事長の声に従い、我々は会場横の関係者席に向かった。

 関係者席には既に身なりの良い人たちが複数座っており、ゴゼファード公が着席するとその人たちは争うように公へ挨拶をしに来るのだった。


「彼らが先ほどお話しした例の方々です。」


 エドマンク理事長が我々に言う。


「なるほどの。我らには一瞥もくれぬか、さすがよの。」


「キーケちゃんの正体がわかれば手のひらを返しよるぞ、あの手の輩は。」


「うふふ、まあ、そうでしょうねえ。特に才がなくとも日和見と変わり身で渡り歩くのが彼らのような者たちですからねえ。」


「そう言えばキーケちゃんとアウロさんは知り合いだったの?。」


「まあな、あたしもこの国で長く武に携わっていたからな。必然的に知り合うわな。」


「いや、タモクト殿には武具制作や素材収集などで、良く世話になりました。いや、もうミキイケ殿と呼んだ方がよろしいのかな?。」


「そうよな、キーケと呼んでくれたらよいがな。」


「では、遠慮なく。」


 そうしているとステージ上で司会者だろうか、ひとりの男が出てきて挨拶を始めた。


「本日はお集まり頂きまして、大変ありがとうございます。チルデイマ学園の創立につきまして、」


 退屈な話が始まりまして、早くシンたちのパフォーマンスが見たいなあと思ってしまうのだった。

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