チクリとやるって素敵やん
その夜はゴドーさんの道場に泊めてもらう事になった。
大したお構いもできないですが道場でよろしければ、と言うので甘えさせて頂いたのだった。
翌朝、出社したイリルさんに留守を任せたゴドーさんの案内で我々はこの街の中心部、お金持ちの社交場として知られる高レートのギャンブル専門の遊技場へと向かったのだった。
昨日通った門とは別の門をふたつ通り、この街の中心地区へと足を踏み入れるとそこは別天地だった。
昼間から煌々とかがり火が焚かれ巨大な噴水が吹き出し、大きなステージでは何か演劇のような物がされており、周りには白塗りの大きくて立派な建物、そしてヤシの木みたいな熱帯の植物。
ゴミひとつ落ちてはいない。
なんせ、ふたつ目の門を通る時、通行税とやらを取られたからな、入場料みたいなもんなのだろうが決して安いものではなかった。
本当に、お金持ちのための場所って感じだよ。
「さて、私もそうしょっちゅうここへ来るわけではないので、案内表示を見て行きましょう。」
街の中には案内の看板が立っており、その辺は観光地か遊園地といった風情。
便利でいいけどね。
通りも至る所に立派なベンチ、そしてドリンクや軽食の屋台がありギャンブルの合間に多くの人が利用している。当然のこと、シエンちゃんも利用した。
もっともシエンちゃんはベンチは使わず食べ歩きスタイルだったが。
至る所にゴミを捨てる場所、また屋台の食事についてきた食器を置く場所があり、しかも頻繁に回収されるものだから本当に徹底されている。
前世界の公園にあったような水飲み場的大きさの噴水があちらこちらにあって、みなそこで手を洗ったり顔を拭いたりしている。
本物のお金持ちってのはこういうものなのか何なのか、俺にはまったくよくわからないのだが、皆さん結構ラフな恰好をしてらっしゃる。
お店の従業員さんなんかはきっちりとしたフォーマルな恰好をしているのだが、それを購入している人たちは至ってカジュアルな服装。
それこそ短パンTシャツサンダルクラスのラフな恰好だもんで、我々も場から浮かないのはありがたかった。
「ここのようですね。」
ゴドーさんに言われた建物は、これまた白塗りの立派な建物で入口には金で縁取りされた看板があり、そこにはルーレット、と書かれている。
「入りましょうか。」
「ええ。」
中に入るとチップに替える場所があり、チップ一枚がレイン換算で約1万、レインザーでは100万レインあれば2年は暮らせる、腕の良い職人の月給が4万レイン、その辺を考えるにかなりぶっ飛んだレートだ。
まあ、こう言っちゃなんだが金はあるんだよなー。依頼や討伐で金はたまるのだが使う事があまりないのだ。
依頼中の食住は経費だし、物を持つにも特に欲しい物がない。前世界では住処が賃貸で、仕事的にも先が見えない生活だったから物を所有しようって気にならなくなってくるんだよね。買う前に、これは捨てるにめんどくさいなあ、なんて考えてしまってね。
その癖は未だ抜けずって訳でしてね。
何もしないでブラブラしてたんじゃあ目立ってしまう、それじゃあいけない、だが流石にギャンブル代金まで依頼主に請求は出来ない。
そんな訳で、これは俺からの個人的な必要経費だってんでみんなにチップを百枚づつ購入して渡したのだった。流石、高級リゾートのカジノだけあって支払いはレインザー王国の冒険者カードで大丈夫だった。
しかし、前世界でもクレジットカードなんて持たなかったのにな、あると便利だってこっち来てからわかったよ。まあ、前世界ではザ・ワーキングプアだったからなあ、持っていても意味なかったけどね。
さてと、俺は元からギャンブルなんてやらないんでチップを持って館内を見て回っても何が何だかわからない。ルーレット台が幾つも置かれているが何が違うのかさっぱりだよ。
ひとまずはみんなが座った場所とは違う場所でやることにする。
ルーレットはゲーム内でやったことがある程度だ。
見た感じ記憶にあるものと変わらない、回転させた0から36まで計37マスある円形の盤に白い玉を転がし、どこに落ちるか当てるゲームだ。チップを賭けるテーブルも向かって左に大きく0、その下に3列かける13段のマス目、13段目は空白でその列の数字全部に賭ける場合にチップを置く場所、そして手前に1~12、13~24、25~36、と書かれたマス目、更にその手前には1~18、偶数、赤、黒、奇数、19~36、と書かれたマスが並んでいる、ゲームでやったのと変わらない配置。
俺はギャンブルは強くないし、ルーレットのコツや何かについても全く分からないので、長くプレイすること前提で倍率の低い2択ものに絞ってチマチマと賭けた。
しばらくやっても一進一退、増えたり減ったりの繰り返しでいい加減に疲れたから休憩しようと席を外した時のチップは98枚と、まあ、遊ばせて頂いた感じだった。
バーカウンタがあるので、エスニックな香りのするお茶とナッツを頼んで場内を見渡す。
「どうでしたかトモトモ?。」
「いや、ちょっとだけ負けた感じ。アルスちゃんは?。」
「こんな感じですかねえ。」
そう言ってカウンターの上に出したのはチップが百入る小袋を5つ。
「おー!凄いじゃん!元手五倍じゃん!。」
「いえいえ、あんまり目立ってはいけないと思って地味にやりましたから。でもそんな気を遣う事は無かったかも知れませんねえ。」
「どして?。」
「あれですよ。」
アルスちゃんが指さす方を見ると人だかりが出来ている台がふたつ。
「ありゃー、あれは?。」
「いやー、シエンさんとキーケさん、ふたりとも並みじゃあありませんなあ。」
そう言ってこちらに来たのはゴドーさんだ。
「という事はあの人だかりはもしかして。」
「はい、キーケちゃんとシエンさんです。」
アルスちゃんがニコニコして答える。
「あちゃー、どうなっちゃってんの。」
「いやいや、凄いですよふたりとも。見ていたら心臓が痛くなってきましたよ。キーケさんが恐ろしい程勝ってるのをシエンさんが恐ろしい勢いで消費しているのですよ。いや、あれじゃあ胴元も文句言えないでしょう、なんせチップが循環してるだけなんですからね。」
「プププ、笑っちゃ悪いけどシエンちゃんらしいなあ。」
「うふふ、キーケちゃんも勝利の女神と言われた方ですからね、勝負強さは今だ健在、キーケちゃんらしいですわ。」
肩を怒らせて席を立つシエンちゃんはキーケちゃんの側に行く。
すると、キーケちゃんがチップの山をシエンちゃんに渡す。
受け取ったシエンちゃんは笑顔で席に戻る。
その度に集まった人たちが笑い興奮し、負けるシエンちゃんを励まし、勝つキーケちゃんに唸っている。
「あれは。」
「うむ、例の。」
アルスちゃんとゴドーさんが言葉を交わす。
見るとふたりの男が遊戯場に入ってくる所だった。
痩身で赤毛長髪の男と太った髭男のふたり連れ。
「太ったドワーフの男はストーンキッズ商会の番頭、ゴバルキムです。どうですか隣りの男は?」
「はい、非常に感じが似ています。」
俺はふたりに注文したお茶とナッツを渡す。
3人でカウンターに座りお茶を飲んで雑談している雰囲気を出す。
ゴドーさんが懐からチップを出してカウンターのバーテンに握らせ、ゴバルキムと一緒の男はストーンキッズの客人か尋ねるとバーテンは笑顔で、そうだ、最近よく来るんだけど羽振りもいいみたいだね、と答えた。
「しばらく様子を見ましょう。」
アルスちゃんが言う。
ゴバルキムと客人の男は俺たちがやっていた台より更にレートの高いルーレット台に座った。
俺たちが使っていたチップ十枚分のチップが最低ラインのその台は、本物のギャンブラーか本物のお金持ちが戦う場所って感じで高級感漂うこの遊技場内でも、また一段高い場所に設置され、周りを重厚な造りの木の柵で囲まれている。まるでステージだよ。
しばらくすると、キーケちゃんが戻ってきた。
「来たみたいだのう。かなりの確立で奴だろう。アルスはどう思う。」
「わたしも同意見です。顔の傷は消え髪色が赤いのは良いとして、肌の色の青さと目の大きさですよね、ちょっと怪しいのは。」
「そうなのだよ、いずれも変える手立てはあるからの。何とも言えぬのだが、所作もどうにもなあ。」
「決め手に欠けますか。」
ゴドーさんが言う。
「そうですねえ。もう少し何らかの動きがあれば。」
「じゃあ、俺が飲み物持って近づいて偶然を装って奴にかけるってのはどう?。」
「いや、クルースさん、飲食の持ち歩きは禁止されてるんですよ、注文して席でとなっているんですよ。」
「うーむ、どうするか。」
我々が考えていると、ほくほく顔のシエンちゃんが帰ってきた。
「いやあ、最後の最後で大勝ちよ!勝負は最後に勝った者の勝ちだ!見てくれ!。」
そう言ってチップが百入る小袋を7つ見せてきたが、キーケちゃんから貰って場に溶かしたチップはそんな物ではないだろうに、まあ、本人は喜んでいるようだから水を差すようなことは言わないでおこう。
シエンちゃんが自慢気にカウンターに置いた小袋をじっと見ていたゴドーさんは、何か思いついたようで口を開いた。
「シエンさん、そちらのチップお借り願えないだろうか?。」
「いや、これは元々キーケちゃんのだからな。キーケちゃんに聞いてみよ。」
おーっ、なんだそのつもりだったのかよシエンちゃん。しかし、そのつもりであの負け方はいかがなものか。
「きひひ、ありゃヌシにくれたものよ。それはヌシのだ。」
「えー、いいのか?なんだか悪いなあ。」
「悪いもんか、あたしの意志でくれたもの。それに、こんなものはアブクよ、アブク。ここで使い切るのが一番よ。」
「そうか、なら我もゴドーにあげるとしよう。なにか考えがあるようだしな。」
「いいのですか?。」
「ああ、やつの動きを誘う手立てがあるのだろう?。」
「はい。」
「じゃあ、ほれ。」
「すいません。」
受け取ったゴドーさんは自分の懐から3つ小袋を出し合計10個の小袋を持ってチップ両替所へ向かった。
なによ、ゴドーさん、そこそこ勝ってるじゃないの。
それを一袋のチップ、つまり10倍の値段のチップに両替したゴドーさんはそれを持って例のふたりが遊んでいる台へ行く。
こちらから見ると長方形のルーレット台、奥に回転盤があり右側にディーラーがいてその対面にふたり組、そして回転盤の対面にゴドーさんが座る。
ゴドーさんは袋から高額チップを全部出し賭けを開始した。
それから、ゴドーさんは勝ったり負けたりを繰り返し、チップが半分ほどになると汗を拭いたり飲み物を頼んで一気に飲んだり、頭を抑えたりし始める。
そして、しばらく考えてから残りのチップのうち2枚だけ残し、全てを0に賭けた。
ルーレットは回り、ゴドーさんは残した2枚を自分の前に置き手を合わせ祈るような姿勢をとった。
ルーレットは止まりゼロに置かれたゴドーさんのチップはディーラーに全て回収されてしまった、どうやら負けてしまったようだ。
祈るようにしていたゴドーさんは、頭を抱え、その手を強くルーレット台に振り下ろした。
振り下ろされた手は下に置かれた2枚のチップに当たり、そのチップはふたりの男、ゴバルキムと赤毛長髪男へと飛んで行った。
赤毛長髪男が動き飛んできた2枚のチップを片手で受け止めた。
平謝りするゴドーさん。
どうやら、飛んで行ったチップは差し上げるので勘弁して欲しいとかそんな感じの謝罪をしているようで、赤毛の男は受け取った2枚のチップをゴバルキムに渡し、ゴドーさんはポケットから新たに出したチップをディーラーに負け分として渡している。
頭を下げながらこちらに戻ってくるゴドーさん。
「いかがでしたか?おや?キーケさんとアルスさんは?。」
「チップを受け止めたのを見て、間違いないと言ってました。ふたりはゴドーさんがこちらに戻って来た時に一緒にいる所を見られて警戒されないようにと、先に出ましたよ。しかし、やりますねえゴドーさん、さすがは剣術の先生だ。」
「いやいや、チップ1枚では上手く行くか不安だったので2枚にしてしまいました。まだまだ修行が足りないですよ。」
「いやいや、結果的にうまくいきましたからね。さあ、ここを出ましょう。」
俺とシエンちゃん、ゴドーさんは偵察の任務を無事完了し遊技場を後にするのだった。




