遊技場のある街って素敵やん
ピシッと背筋の伸びたゴドーさんに続いて街を歩く。
この辺りは高級カジノリゾートとはかけ離れた地域で、まあ下町っぽくて俺的には好みの街並み。
「この辺りは遊技場関係の職についている人達が住んでいる地域なんです。とても自分の職場で遊べるような身分ではありませんけどね。それでもみんな、真面目に明るくやってますよ。」
「あっ!便利先生!お疲れ様です!。」
「若先生!またお願いしますね!。」
「先生!うちの悪ガキを鍛え直してやって下さいよう。」
「先生、おはようございます!。」
街を歩くゴドーさんは、みんなから先生と呼ばれて随分人気者のようだ。
「つかぬことを聞くが、皆はなぜ先生と?。」
キーケちゃんが尋ねる。
「いや、お恥ずかしい。亡き父が剣術の道場をやっておりまして、私も剣術の指導をしてはいますが、それだけでは食べていけずなんでも屋を始めましてね。今ではどちらが本業かわかりませんよ。」
「なるほどな。道理で振る舞いに隙がないわけよ。」
「いやいや、そんな。皆さんもかなり腕に覚えがあるようですが、キーケさんでしたか、あなたは特に武道の心得があるようですね。」
「きひひ、まあ、いろいろ混ぜこぜだがな。」
「剣術の方は?。」
「まあ、多少はな。」
「機会があれば、是非、一手ご教授願いたいですな。」
「やめとけやめとけ!お婆は手加減を知らぬからな。あきゃきゃ!!」
シエンちゃんが頭を押さえてうずくまった。
「クソー、お金を投げたな!デコに跡がついたぞ!痛ててて。」
「きひひ、その金はお主にやろう。」
「いいのか!やった!後で肉でも買おうっと!得した得した!。」
「お主のそういう所は本当に好ましいぞ。きひひひ。」
「なんでも結構!肉が食えて、みんなと笑えればそれで良い!あ!後はたまに暴れることができれば言う事ないな!。」
「うふふふ。シエンさんらしいですね。でもわたしも、みんなと笑えれば、と言うのは賛成ですねえ。」
「キーケ殿、今のは?。」
「なあに、ただの飛礫よ。」
「とびつぶて、ですか。我が流派では印地術と言いますが、投石具を使用せず、しかもあのように少ない手の動きであれほどの威力と速度が出せるのは脅威です。驚きました。」
「きひひ、本当に脅威なのは何度食ろうても懲りずにあたしをからかう、あやつの心の強さと身体の頑強さよ。」
言われてる本人のシエンちゃんはそんな事は関係なく、俺におでこを見せて、ほら、硬貨の柄が付いてないか?どう?カッコイイか?とトンチンカンな事を言っているのだった。
「ふむ、どうやら、本当に皆さん手練れのようですね。安心して仕事ができそうですよ。」
「うふふ、良かったです。」
そうして街を歩いて行くと、石壁のゲートが見えて来た。
「あの門の向こう側が遊戯施設のある観光地域のひとつ、レジグロ地区になります。」
門には番兵がおり、ゴドーさんは兵士に挨拶し懐から何か身分証のような物を出して見せている。
「皆さんも何か身分証になるものありますか?通行証やギルドカードなどありますか?。」
「はい、冒険者カードでよければ。」
「ああ、それで大丈夫です。」
という事で、我々は冒険者カードを提示して無事門を通り抜けたのだったが、同じ国内で隣りの地区に行くのに検問所があるのは何故なんだ?
「あの門の事を疑問に感じてますか?。」
「ああ、はい。」
「そうでしょうね、同じ国内で何故と思うのももっともな事と思います。」
「失礼になるようでしたら申し訳ないのですが、ハミジカ地区の方々を警戒しているように感じるのですが。」
アルスちゃんが率直に言った。
「ええ、正直その通りです。消して裕福でないハミジカ地区の人々が働くのは目も眩むようなお金持ちが集まる場所です。そこには大金を無防備に使う者もいますし、調度品から何から高級品ばかりです。警戒するのも仕方のない事です。ですが、まあ悪い事ばかりではないのですよ、今から行けば嫌でもわかる事ですがこの地区とて富豪の集まるきらびやかな場所ばかりではないのです。そうした所に巣くう悪党どもがハミジカ地区に入りづらくなっているのもまた、あの門のおかげなのです。」
「なるほどのう。」
「全ては硬貨の裏表ってか。」
納得するキーケちゃんの隣りで、キーケちゃんから貰った硬貨をいじりながら妙に核心をつくようなことを言うシエンちゃん。
門を過ぎて石でできた建物の間を抜けそのまま歩いていくゴドーさん。
周りの景観も徐々に変わってきて、建物の前にテーブルとイスを出して飲み屋をやっていたり、室内で何かトランプのようなカードゲームをしていたり、はたまた、露出の多い服を着た若い女性が、通る男達に声をかけていたりと、真昼間からけしからん場所だなこりゃ!しかし、お姉さん達は魔族の方が多いからアライグマ顔、犬顔、鳥顔、オウガ、リザード族、ゴブリン族、等々、まあ多種多様なのだけど俺が慣れてきたからかね、皆さん可愛らしいやら色っぽいやらで、ついつい目で追ってしまうよ。
「この辺りはまだ中心地から離れてますからね、本物のお金持ちが遊ぶ場所ではないのですよ。ですから、少しばかり柄が悪いのでお気を付けください。」
ゴドーさんが注意してくれる。
「ガ、ガキ、ガキがく、来るとこじゃね、ねーぞー。」
早速アルスちゃんが絡まれてるけど、相手はかなりベロンベロンの酔っぱらいだから心配ないだろう。
「あらあら、随分とお飲みになられたみたい。そんなに酔うと眠くなるでしょう。」
「ガ、ガキに心配さ、され、されるほど、おち、落ちぶれちゃいねえ、グゥーーー。」
アルスちゃんにジッと見られた酔っぱらいは、そのまま横になって寝てしまった。
「もしかして、アルスちゃんが寝かせた?。」
「ええ、以前にトモトモがやったと言ってたあれと同じですよ。言葉に魔力を乗せるやつですね。」
「めっちゃ効き目早かったねー!。」
「あれだけ酔っぱらっていては心は隙だらけですからね。実際、放っておいてもすぐに眠ったことでしょう。」
「なんと、アルスさんは惑術を嗜まれておりますか。ウーム、これは凄いですな、レインザーと言う国は。」
「いやいやゴドーさん、彼女たちが特別なだけでレインザーは至って普通の国ですので、誤解なきようお願いしますよ、そして、私も普通ですから。」
「でたでた!トモちゃんが一番普通じゃないからな!。」
「うふふ、まあまあシエンさん、トモトモ本人がそう言っているのですから、それでいいではないですか。」
「そうだぞシエン。言うてやるな、無粋ぞ。」
「いやいやいや、ちょっとちょっと。それだと余計に俺がヤバイ奴みたいに思われるからさあ。」
「いや、クルースさん。私としては安心材料ですから。」
うんうんと納得したような顔で頷くゴドーさん。鷲系フェイスなゴドーさんはそうでなくてもピシッとしているように見えるのに、殊更キリリとした声で言うものだから、もう武士を相手にしているようだよ。
そうして真昼間からバリバリ享楽的な香りを放つ路地を幾つか通り抜け、道端にあった屋台の店員にゴドーさんは声をかけた。
「どうだい?景気は。」
「これは、若先生お疲れ様です。まあ、よければうちの自慢の麦麺食べてって下さいよ。」
「じゃあ、人数分貰おうか。」
「あっ!ここは俺に持たせて下さいな。すいません、エルミランドの硬貨使えます?。」
俺はそう言って巾着を出す。
「へい、使えやすよ。」
「良かった、じゃあ、これ。」
「毎度あり。」
「なんか、申し訳ないなあ。」
「いやいや、いいんですよ。我々のほうが人数多いですし、教会から経費も出てますから。勿論、この件の報酬はゴドーさんにも発生しますのでご安心下さい。」
「いや、これは、ご丁寧に。ありがとうございます。」
我々は屋台の前に置かれた木の切り株的なイスに腰かけて、しばし麦麺と言うのが出来上がるのを待った。
ワクワクするぞ、さあ、どういった麺だ?ラーメンか?ソバか?フォーか?
「へい、お待ち!。」
丼ぶり鉢みたいな深皿で出されたものは、香りは魚介っぽくもあり肉の油っぽさもある。
一口飲んでみると、結構パンチの効いた味は前世界の豚骨スープにも似ているがちゃんこ鍋のスープのようなコクもあって、なかなかいいね、癖になるよ。
麺をすすってみると、こちらは細いけど腰のある歯ごたえで確かに麦っぽい。カッペリーニに近い感じ。
うん、こりゃいいね。
「美味いなこりゃ、もう一杯おくれよ。」
シエンちゃんが言う。
「すいません、わたしもいいですか?。」
「あっ!俺も俺も!ホント、美味しいよこれ!。」
と言うわけで、シエンちゃんと俺は良いにしても、珍しくアルスちゃんまでがおかわりしたのだった。
代金を払って二杯目をすする。
「気にいって頂けたようで何よりです。それで、若先生、今日はどういった御用向きで?。」
「うん、最近金持ちの旦那衆の所に怪しい男が出入りしているって話を聞かないか?。」
「へい、チラチラ聞きますね。最近目立って聞くのは、3人ですね。」
「ほう、どこのどいつだい?。」
「へい、まずは、国立建設業の請負で有名なベアビレジ商会ですね。次に、武器製造販売では世界的に知られるストーンキッズ商会、そして、魔道具製造販売の大手ペアメロン商会、この界隈でちょっとした話題になっているのはこの三つの旦那衆ですな。」
「ほう、ざっとでいいんだが、それぞれどんな感じの話しなんだい?聞かせてもらえないか。」
「へい、まずはベアビレジ商会ですが、最近になって国外から目つきの悪い客人が来ているって話でさあ、なんでもガルムレース場に入り浸っているようです。次に、ストーンキッズ商会ですがそこの客人は高レートのルーレットに良く顔を出すようです。そしてペアメロン商会の客人は闘モア場でよく見かけるとの話ですな。」
「ありがとう、ロンヘル。助かったよ、また来るよ。」
「いえ、若先生。いつでもいらっしゃって下さいな。」
「ごちそうさまでした。」
「へい、毎度ありっ。」
「ロンヘルは私の父の代の門下生でしてね、いわば兄弟子なんですよ。」
「ほう、どうりで立ち居振る舞いに隙が無かったな。」
キーケちゃんが感心したように言う。
「ふふ、今でも鍛錬は怠ってないようですね。しかし、壁の向こうで人相を変えたという話でしたがわかるものですか?。」
「くふふ、傷を消して髪の色を変え、伸ばしたぐらいでごまかされるものか。ちょこまかと逃げよって、捕まえたら只じゃあおかぬぞ。楽しみだ、あー楽しみだ。」
「きひひひ、さてそう簡単に行くかの。」
「なんでよキーケちゃん?。」
「いやな、あいつの用心深さといったらな、嫌と言うほど味わっておろうよ。だから、な。」
「確かにそうですね。外見については壁を出てからも変えている可能性は高いでしょう。しかし、わたしは実際に彼と近距離で直接会っています。幾ら外見を変えようとも限界はありますし、その立ち居振る舞いなどに特徴は出るものです。近くでしばらく観察すればきっとわかると思います。」
「ふむ、確かにアルスはやつと相まみえている。あたしも、あいつら特有の動きの癖なら見抜く自信がある。近づくことさえできれば、何とかなるかね。」
「さて、ここから一番近いのは闘モア場ですね。早速行ってみましょう。」
「はい、よろしくお願いします。」
我々はゴドーさんの案内で、闘モア場に行くことにしたのだった。




