休日って素敵やん
キットに乗って今度はノダハの名所と呼ばれる場所を巡ろうかという事になり、俺はまずノダハドラゴン像へ案内する。
ここは、同じドラゴンという事でシエンちゃんお気に入りの場所なのだ。
まあ、ノダハでは有名な観光スポットなので周囲に出店も多く、しかも肉を扱う店が豊富と言うのもシエンちゃんポイントが高い理由だろう。
大きな石壁に取り付けられた、こちらも石でできた人の背丈ほどもある大きな龍の顔は口をグワッと開けておりなかなか迫力がある。
「さあ、到着しました。これがノダハドラゴン像です。」
俺は、馬から降りるスミスさんを手伝いながら言う。
「うわっ、怖い顔してますね。」
「元々はここいらにあった地下水道の入口を塞ぐ物だったそうですよ。立ち入り禁止の看板みたいな事だったようです。」
「なるほどー。これなら怖くて先に進もうという気がなくなりますね。」
「ふふ、そうですね。だからなのかわかりませんけど、勇気のない人がこの口に頭を突っ込むと噛まれるって伝説がありましてね。まあ、伝説ですけどね。やってみますか?。」
「えっ。・・・。私、ご遠慮させていただきます。」
「え?そうですか。では、私がやってみますね。」
ちょっと妙な間があったのが気になるが、まあよいか。俺は石造りの龍の口に頭を突っ込む。
「ほら、大丈夫ですよ、ただの石造りの像ですから、ね?ほら、って、あれ?おや?外れないぞ。あいててて、いたたたた。」
「きゃっ!どうしましょう、どうしましょう!大変です!。どなたか!どなたか助けて下さい!。」
慌てて周囲に助けを求めるスミスさん。
「冗談ですよ。ほら。」
俺は石像から頭を取って見せる。
「もーっう!びっくりしましたっ!。」
そう言って俺をパタパタと叩くスミスさん。まったく、子供みたいでかわいいねえ。
「ふふ、ごめんなさいね。ほら、周りの人たちも微笑ましげに見てるでしょう。この石像に来るお客さんが良くやる、定番のやつでしてね、つい、いたずら心を起こしてしまいました。いやあ、失敬失敬。」
「もー、本当に、びっくりしたんですからね。もう。」
「いやー、すいませんでした。お詫びに何か御馳走しましょうか。ここの屋台の肉料理は美味しいんですよ。」
「そういえば、さっきから良い匂いがしますねー。」
「はい、どれが良いですか?どれでも好きなものを選んでください。」
「それでは、これ!これが良いです!。」
彼女が選んだのは俺が最初にノダハに来た時に選んだものと同じ、トルティーヤ的な奴、トウモロコシの粒を挽いた粉を焼いた生地で肉や野菜を包んだ物だった。
「お姉さん、これふたつちょうだいな。」
「毎度どうもっ。」
店員のお姉さんは元気よく言うと、見ている前で手早く肉を焼き、ささっと生地で野菜と共に巻いたものをふたつ、こちらによこす。
俺は料金を払ってそれを受け取り、ひとつをスミスさんに渡した。
「ありがとうございます。美味しそうですねえ。いただきまーす。」
「どうぞ、召し上がれ。」
そう言って俺もパクつく。うん、安定の美味しさだ。小腹を満たすに丁度良いんだよね。
「美味しいっ!とっても美味しいですっ!。」
「そう?よかった。私もこれは大好きでね。この中に入ってるタレが店によって違いがあってね。うん、ここのも美味しい。」
「うふふ。美味しいものを食べると幸せな気持ちになりますねえ。」
「ホントにね。レインザーの王様って逢ったことないけどさ、物流の安全のために気を使ってくれててさ、街道を衛兵さんが見回ってくれてるからこうやって、どこの街でも美味しいものが食べれるんだよね。なんだか良い王様らしいから逢ったら褒めてあげてよ。」
俺は軽い冗談を言った。
「わかりました。逢ったら必ず伝えます。そうですか。やっぱり、私はあの口に頭を入れなくてよかったようです。」
なんだか遠い目をして言うスミスさん。妙な空気になってきたもんで俺は慌てて話題を変えた。
「次はどこがいいかな、そうだそうだ!ノダハに来たら外せない所があるんだった!。」
「あら、今度はどちらへ?。」
「闘技場跡地へ。」
「闘技場ですか?なんだか、怖そうですけど。」
「いや、跡地ですから。まあ、行ってみましょう。」
「はい。」
という事でノダハ観光は続く。
またキットを操縦したいとスミスさんは言うので、彼女に手綱を任せて俺は闘技場跡地へナビゲートする。
スミスさんの操縦も上達し、なんの危なげもなく到着した闘技場跡地。跡地と言っても建造物はしっかり残っているし、現在でも中を有料で見学できる。
最初に見せたかったのは闘技場入口近くにある湧き水を利用した噴水だ。
「これを見せたかったんですよ。」
「この小さな噴水ですか?。」
「そうです。これはこの闘技場の壁から大人の足で10歩程の距離にあるんですけどね、この闘技場の壁に触れながらコインを投げてあの噴水に入ったら願いが叶うと言われているのです。」
「まあ、浪漫的ですねえ。」
ロマン的とはまた、随分と古風な表現をなさる。だが、おっしゃる通りでこの場所は歴史や伝承好きなアルスちゃんのお気に入りスポットなのだ。
「それには由来がありましてね、ほら、噴水の真ん中に像が建ってますでしょ。あれは、モミバトス様の使いをかたどった像なんですよ。」
「はい。」
「昔々、まだレインザーが王国としてまとまる前、この辺りは流行り病に襲われ多くの人々の命が失われたそうです。それに心を痛めたこの土地のご領主、まだ、いち領主に過ぎなかったレインザー公は毎夜モミバトス様に流行り病の過ぎ去る事を祈ったそうです。ある日、祈るレインザー公の前にモミバトス様の使いが現れこう言ったそうです闘技場跡のほど近く泉が湧いている、闘技場の壁に触れたままその泉にコインを投げ入れよ、見事1回で入ったならば流行り病の終焉は近いぞ、と。」
「はい。」
真っ直ぐに俺の目を見て話を聞いてくれるスミスさん。話のしがいがあるってものだ。
「それを聞いたレインザー公は夜にもかかわらず城を抜け出し、言われた場所に行くと本当に泉が湧いており、しかも黄金色に輝いていたそうです。レインザー公は言われたように壁に触れたままコインを泉に投げたところ、見事1回でコインは泉へ入り、その後、モミバトス様の使いが言われたように流行り病は終焉を見たそうです。」
「なんと言う事でしょう。」
「まあ、伝承ですんでね、あくまでも。それでも、こうした言い伝えが残るってのは、やはり昔々のご先祖様レインザー公も民を重んじていたという事でしょうね。領民の繁栄は領の繫栄であるって今のこの領のご領主様の理念だって言うんだけど、昔々のレインザー公の思いが伝わっているのかも知れませんね。」
「そんなお話があったのですね。領民の繫栄は領の繫栄ですか。クルースさん!。」
「うわっ!びっくりした!どうしました?急に大きな声を出して。」
「私は帰らなくてはなりません。今日は本当にありがとうございました。」
「あら?そうですか?じゃあ、家まで送って行きましょうか?。」
「できましたら、朝に出会ったあの場所までよろしいでしょうか?。」
「ええ、いいですよ。でも、最後に噴水にコインを投げてから行きましょうよ。そんなに時間も変わらないでしょう。」
「はい、そうですね。そう言えばまだ投げてませんでしたね。」
笑顔で言うスミスさんに俺はコインを渡した。左手を壁に着けて構えたスミスさんは何度かコインを投げる練習をした後、ふいに俺も一緒にやろうと誘ってきた。
ふたりで壁に手をついてコインを噴水に投げる。
ふたつのコインが噴水に入る。
「やった!入りました!。」
喜ぶスミスさん。
「無事に入って良かったですよ。じゃあ、帰りましょうか。」
「はい。」
という事で俺とスミスさんはキットに乗って最初に出会った高級住宅街へと向かった。
「クルースさんは、何をお願いしたのですか?。」
馬上でスミスさんが聞いてきた。
「私は、なりたい自分になれますようにってお願いしました。」
「なりたい自分に、ですか?それは、どんな自分なんですか?。」
「なんて言うんでしょうね、自分の大切なものを守れて、楽しく生きていけて、自分の手の届く範囲で良いから人を助けることができるような、そんな心の太い自分ですかねえ。ちょっと欲張りですかねえ。」
「そんなことは無いと思います。心が太いって、なんか良いですね。私もそうなりたいです。」
「スミスさんは何をお願いしたのですか?。」
「うふふ。それは、秘密です。」
笑って答えるスミスさん。
ノダハドラゴン像の前で見せた、あの迷いのようなものは、どうやら吹っ切れたらしい。
「秘密ですか。なら、仕方ないですね。」
「はい、秘密ですから。うふふ。」
そんなやり取りをしているうちに、出会った場所に到着する。
馬から降りるのを手伝い、俺は彼女にさようならと手を振った。
「クルースさん!本当にありがとうございました!。」
彼女はそう言って頭を下げる。
俺はこちらこそ、では、と返事をし馬を出した。
見えなくなる手前で振り返るとまだ頭を下げていたので、大きな声でさようなら、と俺は言った。
なんだか、不思議な女性だった。
大変な1日だったけど、まあ、悪くない1日だったな。俺はそう思って家に帰った。
家に帰ると、シエンちゃんもアルスちゃんも帰っており、誰が話したのか俺が一緒にいた女性は誰なのかと詰問された。
俺はみんなに今日あった事をすべて聞かせた。
「なんだ、お金持ちの家出娘か。ノダハドラゴン像に行ったのか。ちぇっ、我も一緒に行けばよかったなあ。島には何もなかったしな。今度は我と行くぞ!トモちゃん。」
「あら、願いの噴水に行かれたのですか?あそこはいいですよねえ。今度はわたしといきましょうね。」
シエンちゃんとアルスちゃんにはそれぞれ、そう言われたのだった。
「ところでトモよ。」
説明を終えてひと息ついてるときにキーケちゃんが話しかけてきた。
「なんでしょ?。」
「あの後、特に問題はなかったようだの。」
「ええ、なにも。しかし、あの会場で彼女を連れ去ろうとした奴ら、何者だったんでしょうね。」
「ふむ、あやつらの身体から独特の香辛料の匂いがしてな。あまり、ここいらじゃお目にかからぬ香りでな。王都にでもいかなければ手に入らぬものよ。外国産でな。同じものをレインザーで育ててもあの香りは出ぬらしくてな、まあ、レインザーでは手に入りづらい物の匂いをプンプンさせておるのは、そこの国の者か、はたまた香辛料の業者か。更におかしなのは、あやつらの動きよ。」
「動きですか?。」
「おうよ。あの肩を揺らさぬ独特の歩き方な。あれは、要人警護の専門家の動きよ。そして、やつらはあの娘を傷つける目的ではなかったようぞ。むしろ、丁重にあつかっとったように見えたぞ。」
「えー?本当に?だとすると、海外から来たお金持ちの娘さんが冒険気分で脱走したのを連れ戻しに来た人たちってこと?それじゃあ、俺たちが悪者じゃないの。」
「きっひっひっひ。まあ、そうなるのう。」
「そうなるのうって。勘弁してよ。大丈夫かね、揉め事にならないといいんだけど。」
「それは大丈夫だろう。その後なにもなかったのだろう?おそらく、お前たちはずっと見張られていたはずだ。それでも何もなかったという事は、大丈夫だということだろうて。それに、その娘っ子とは友好的に別れたのだろう?。」
「うん、まあ、そうだねえ。」
「なら、尚更問題あるまいよ。」
「そういうものかねえ。」
「きひひ。人と人の関係も国と国の関係も、そういうものだろうよ。」
「キーケちゃんがそう言うなら安心だけどさ。」
「きっひっひ。お主の人柄あっての事と思うがな。」
「またまた、よしとくれよう。」
「きっひっひっひ。照れおるか?かわいい奴だ。」
「勘弁してって。」
その日はそんなやり取りで過ぎていったのだが、それから幾日かして、ギルド依頼をこなして事務所に帰った俺たちを、ジョンが興奮気味に出迎えた。
「ちょっと!トモ兄!これ見てよ!これ!あの時のお姉さんが載ってる!この人!あの時の!ね?そうでしょ?。」
「ちょっと、ちょっと、落ち着きなさいな。」
ジョンが手に持っていたのはオゴワナリヤ・タイムスの号外だった。
「ほら!ほら!読んで!読んで!。」
俺は号外を受け取って事務所のイスに座った。
「ほう、これがその時の娘か?トモちゃん、記事を読んでくれ。」
「ええ、聞きたいですわ。」
シエンちゃんとアルスちゃんが言う。
「さて、種明かしを聞こうか。きひひ。」
キーケちゃんも興味があるようだ。
「じゃあ、読むよ。ええと、表敬訪問中のスミス公国イーディス・スミス王女の会見。って!王女様?。」
「早く続きを読めって、トモちゃん!。」
「あー、失敬失敬。えーと。質疑応答。記者、この度はレインザー王国にお越しいただきまして、まことにありがとうございます。王女、はい、ありがとうございます。記者、王女様の考えでは、スミス公国とレインザー王国の関係はどうなると思われますか?。王女、バレッタを手に取り語られる。この髪飾りはレインザー王国で頂いたものです。ここにはこう書かれています。良き友良き隣人へ、と。これを下さった方はきっとそう思って下さったのでしょう。人と人との関係と同じように我が国とレインザー王国との関係も、良き友人良き隣人となっていけるものと信じています。記者、ありがとうございます。王女様のそのお気持ち、我々レインザー王国民も同じ思いです。王女、嬉しく思います。記者、今回、訪れられました街の中で、どちらが一番お気に召されましたか?。王女、それぞれの街に忘れられない思い出がありますが、ひとつだけ選ぶとしたら、ノダハです!何と言ってもノダハです!この地を訪れた事は生涯、大切に心に抱き続けることでしょう。」
俺は胸が熱くなって言葉に詰まってしまった。
「それで終わりですか?。」
アルスちゃんが優しく聞いてくれる。
「いや、続きがあるな。記者、ありがとうございました。良き友人となれるようお互いの国での交流が今後益々盛んになる事を祈っております。会見終了。会見は終始和やかに友好的に行われました。スミス公国イーディス・スミス王女は大変にレインザー王国を気に入られたようで、レインザー王国の歴史書などを沢山購入されたそうです。今後、国家間での交流が益々盛んになり相互理解が深まることを記者は願ってやみません。記事、スウォン・ルホイ。ってスーちゃんかい!。」
「きゃははは、トモちゃんよ。さっきまでの感傷はどうした?。」
「いやあ、スーちゃんも懐かしいんだけどさ。やっぱり笑っちゃうよね。うふふふ。」
「きひひひ。トモよ、お主の行動はレインザーとスミス公国の関係を良くするものだったようだな。よかったじゃないか。きっひっひっひっひ。」
「ちょっと、サラちゃん、忙しくなるよ!王女様の言ってる髪飾り、サラ・ケイトモでしょ?良き友人良き隣人ってトモさんの言ってたうちのコンセプトだもの。」
マギーが言う。
「忙しくなる?。」
サラが聞き返したように、後日デンバー商会から増産依頼がくるのだった。
商売繁盛はありがたいのだが、みんな無理せず身体を壊さないように、俺は言って聞かせるのだった。




