謁見って素敵やん
今日も俺たち4人は冒険者ギルドで手頃な依頼を探していたのだが、ギルド長が少し話しをさせて欲しいと言うので、久しぶりに応接室に入る事になった。
ソファーに座るや否やニーソンギルド長は口を開く。
「皆さんのご活躍、私共と致しましても嬉しい限りです。今日お呼びだてしましたのは我がゴゼファード領領主キワサカ・ゴゼファード公がクルース殿のパーティーと是非会いたいと言われておりまして。勿論、領主都オッドウェイまで往復の馬車、滞在費等はすべて出ますのでご安心ください。」
「安心してくれと言われましても、ここからオッドウェイまでどれくらいの距離なんですか?。」
「馬車で半日程です。」
俺の質問にニーソンギルド長が答える。
「馬車で半日ねえ。あんまり堅苦しいのは好きじゃないんだけど、この場合断るってのは失礼に当たるよねえ。」
「きひひ、まあ、堅苦しいかどうかは置いといて、別に失礼ってこともないだろう。なんせ我々は特別依頼受託者だ、トモの好きにしたら良かろうよ。」
キーケちゃんはそう言うが、俺って結構気を遣うのよ、こう見えて。
「うーん、そうは言ってもなあ、無下に断るのも気が引けるし、みんなが構わないならご領主様にお会いしますかねえ。なんだか、領民のことを思ってくれる良いご領主様みたいだし。どう?。」
「きひひ、あたしは構わぬ。」
「我もだ。」
「勿論、わたしも構いませんよ。」
「と言うわけですので、お受けさせて頂きますよ。」
俺はニーソンギルド長にそう答えた。
「いやー、良かった!私も良い返事を出せて助かります。ゴゼファード公は本当に優しい方ですので皆さんもきっとその人柄に魅かれる事と思います。では、すぐに馬車をご用意致しますので、皆さんも旅の用意をされてきて下さい。」
「今からですかい?。」
びっくりしてすっとんきょうな返事をしちまった。
「きゃははは、ですかいだって!トモちゃんはまた、おかしなことを言うなあ。」
「いや、失敬。突然過ぎましたかな?今からでもお昼過ぎには到着するかと思いまして。些か事を急ぎすぎましたかな。」
「いや、すいません、ちょっと驚いただけです。俺は大丈夫です。みんなも大丈夫?。」
「ああ、一旦事務所には帰るのだろう?。」
キーケちゃんが言う。
「うん、それぞれ荷物もあるだろうしね。それぐらいの時間は構いませんよね?。」
俺はニーソンギルド長に尋ねた。
「ええ、勿論ですとも。ご準備整いましたらまたこちらにいらして下さい。急がれなくても大丈夫です。お待ちしております。」
「わかりました。失礼します。」
そう言って俺たちは部屋を出る。
「きひひ、キワサカが優しいご領主様だと?きひひひひ、笑っちゃうね。」
「何よ?キーケちゃん。おっかない事言わないでよ。悪い人なの?。」
「違う違う。悪い奴ではない。領民思いなのは本当の事よ。だがな。」
ギルドから出て俺はキーケちゃんに聞く。
「だが、なに?。」
「戦闘狂よ。脳みそまで筋肉でできてるような、な。」
「うわっ。参ったなあ。まさかお手合わせを、なんて事にはならないよね?。」
「なるな。それが目的だろう。」
「うわー、なんか側近の人の苦労が目に浮かぶわー。キーケちゃんは立ち合った事あるの?。」
「奴が若い時分にな。まあ、立ち合うってよりは手ほどきだな。まあ、センスはあったな。」
「なによー、強いの?。」
「まあ、あのまま研鑽を積んでおればな。」
「ふへー、参ったねこれは。どうしたものかね?。」
「きひひひ、奴が望むは木剣による模擬戦だろうよ。トモは剣を使えるか?。」
「うーん、使ったことない。」
「そうか、となると純粋な動きの勝負か。どれ、ちょっと事務所の庭で軽く稽古つけてやろう、軽くな。」
「まあ、やらなきゃならないなら、ちょっと教えてもらいますかねえ。しかし、参ったなあ。」
「きひひ、いつまでもそう愚痴るな。」
てなわけで、俺とキーケちゃんは事務所の庭で木の棒を持って対峙することになった。
木剣なんて置いてなかったから、農作業用具のスペアの柄だけど。それでも、造りはしっかりしているから普通に頭なんて強く叩いたら死んでしまうよ。普通の人は。もう、普通って何なのか良く分からなくなってるけど。
俺はこれまで剣道もやったことはない。ずぶの素人だ。あるのは前世界の知識とイメージ通り動いてくれる身体、あとは魔法か。
さてと、どうしたものか。
俺は棒を持ち構える。俺が知ってる構えと言えばマンガで得た剣道の構えぐらいよ。
右手は鍔がないから適当な位置を軽く握る。親指と人差し指には力を入れない。
左手は棒の一番下をこれまた軽く握る。これはよく傘をさすようにって書かれていたな、まあ兎に角ソフトに握る。
力を抜いて身体の真ん中を意識して、左手をへそ位の高さにして剣先を上げゆっくりと息を吐きキーケちゃんを見る。
「おっ、なんだトモ、西レインザー式を使うか。」
「故郷のやり方を見よう見まねです。」
細く呼吸をしながら答える。
「そうか、面白い。行くぞ。」
キーケちゃんは話が速いんだよな。こちらに向かって飛び込むように間合いを詰めたと思った瞬間、剣先に衝撃を感じる。流れる剣先を元の位置に戻し、軽く剣先を上げる。
「ほほ、良いではないか。」
俺は上段に構えた棒をキーケちゃんに振り下ろす。
キーケちゃんはぎりぎりで間合いを読んでかわすが、棒が地面に着く瞬間、手を返して下からの上へとキーケちゃんの持っている棒を狙って振り上げる。
キーケちゃんは俺の振り上げた棒を手首の動きでかわし、更に下から俺の棒を叩き上げた。
俺の持ってた棒が衝撃で手を離れて宙に舞った。くるくると回転しながら飛んだ棒は地面に落ち横たわった。
マンガみたいに地面に刺さりはしなかった。
「なんだ、トモ。白虎切りを使うのか。」
「白虎切りですか?。」
「うむ、西ではそう呼ばれとった。それは、初見の相手には避けられまいて。あたしは知っておったから避けられもしたが。下からの攻撃は元々避けづらいものよ、それに加えて上からの切り下げが良い目くらましになっておる、良く出来た技よ。他に何が使える?。」
「いやあ、ホントに知ってるだけなんだけど。」
「よいよい、やって見せよ。」
「それじゃあ。こんなのは如何かしら。」
俺は右上段から左下へ軽く振り下ろし下段に構え、キーケちゃんの切り下ろしを胸のあたりで受け止めると同時に左足でキーケちゃんの手首あたりを押す感じで踏み、キーケちゃんの捻った背中に棒を軽く当てた。
「おう、まさか、後れを取るとは思わなんだ。今のも故郷の技か?。」
「はい、かなり古いもので体術も取り入れた実践剣術の技です。」
「きひひ、いいのう、いいのう。あたし好みだよ。今度使わせてもらうよ。」
「ほらほら、トモトモ、キーケちゃん、私たちの準備は整いましたよ。」
「にひひひ、キーケちゃんが一本取られてるとこ初めて見たぞ。いやー、いいものが見れた。」
「きっひっひっひ。あたしだってこんなのは久しぶりよ。稽古とは言えちょいと勘が鈍ったかね。シエンよ、今度はお前と模擬戦といくか。」
「にゃぁーーー!やめてくれ!我は剣術は苦手なんだ。」
「あら、珍しい。戦闘センスの塊みたいなシエンさんが。」
「いや、不得手はあるだろ、誰にでも。」
「まあ、そうですね。それでは、よろしければ今度時間があるときにわたしがお相手しましょうか。剣術は少々心得があります。」
「そうか、すまぬなアルスよ。その時は頼む。」
「さあ、キーケちゃん俺たちの準備はこれからだ!。」
長らくのご愛読ありがとうございました!ってなんでやねん!と、ベタすぎる突っ込みもまた良し。
「きひひ、そんなものすぐだ。しかし、あたしも剣を使う事に囚われすぎていたようだな。剣もまた、手の延長か。」
何やらぶつぶつ言いながら俺についてくるキーケちゃん。
俺は自分の部屋に戻りいつものウェストバッグの中に現金とカード入りの巾着、アウロさんに貰った切り出し刀、を入れ、念のために腰に特殊警棒を着けていく。
「よし!準備完了。」
表に出ると既にみんなは揃っている。
「遅いぞトモ。ほれ、早うせい!。」
「へいへい、おまたせ、おまたせ。」
「さあ、行きましょう。」
キーケちゃんに急かされ、アルスちゃんに促されして冒険者ギルドに向かう。
ギルドの前には立派な馬車が待っていた。以前にみんなでマキタヤに行った時のような大型馬車ではなく、前世界の西部劇か何かでよく見かけるタイプの馬車で、光沢のあるウッディな外観は近くで見ると妙にワクワクする。後ろタイヤの方が大きめなのね。
馬車を眺めているとギルドの中からニーソンギルド長が出て来た。
「おおっ!丁度良いところに!今、馬車が到着したと連絡を受けて見に来たところです。皆さんも今来られたところですか?。」
「はい、たった今。」
「皆さんをお待たせしなくて良かったです。それでは、早速どうぞお乗りください。」
「では、よろしくお願いします。」
俺は御者さんに声をかけて中に入る。馬車の内装はまず後ろにベンチシート、そしてトビラ入って正面に電車の中のような横向きのベンチシートがある。
進行方向を背にして座るのは嫌だなあと思っていたのでこれには助かった。
ホッとして後ろのシートに座る。
続いてシエンちゃんが俺の右隣の窓側に座り、アルスちゃんが左隣に座った。
「きっひっひっひ。なんだお前らは一ヶ所にかたまりおって。」
横向きシートに座ったキーケちゃんが笑って言う。
「窓から外が見えたほうが気分が良いのだ!。」
元気よく言うシエンちゃん。
「うふふ、わたしはトモトモの隣りが良いですので。」
笑顔で言うアルスちゃん。
「きひひ、まあ、好きにしたら良いわな。きひひひ。」
意味ありげに笑うキーケちゃん。
「では、出発しまーす。」
御者さんの声が聞こえて馬車がゆっくりと動き出す。
「それでは、お気をつけて!。」
ニーソンギルド長が外で見送ってくれるので、俺も行ってきますと答えた。
ノダハからマキタヤ方面は王都まで行った事があるけど、逆方面は初めてだ。
楽しみだな。
「みんなはゴゼファード領主都まで行ったことはあるの?。」
「あたしは、随分昔にな。」
キーケちゃんは短く答える。
「我も久しぶりになるな。」
続けて答えるシエンちゃん。
「わたしは、割と行ってますね。好きな街ですよオッドウェイは。レインザー王国統一前に権勢を振るった豪族の治める街だったようで、その勢いを感じる史跡が多くあるんですよ。もし時間があればご案内いたしますよ。」
「ありがとうね。俺もそうしたものを見るのは好きだから、時間ができたら是非とも見たいねえ。しかし、ここから領主都まで、どのくらいの街を通過するのかねえ。」
「そうですね、東王道沿いの大きな街ですと、まずはビエイナの街ですね、それからチルデイマの街を過ぎたらすぐにオッドウェイですよ。ただオッドウェイは広いんですよ。街を成している中心地も広いですがそれを囲むようにある田園地帯もオッドウェイなのでオッドウェイに入ってから街の中心地まで時間がかかるのですよ。」
「なるほどねー。土地の区切り方からして統一前に治めてた豪族の権勢を示しているねえ。」
「そうなんですよね。この、王都まで続く東の街道、東王道をわたし達は下っていることになるのですけど、この道もマキタヤまでは当時の豪族が作ったそうですよ。」
「という事はだよ、今俺たちが進んでいる方向はその頃は上りだったってことだよね。」
「そうでしょうねえ、その豪族も自分がこの国の王になれるかも知れないと、きっと考えた事でしょうね。この道も王道と呼びたかったでしょうね。」
「しかし、そこまではいかなかったわけだ。驕る豪族久しからず、か。」
「なんですか?それは。」
「前世界の古典でね、昔々、栄華を極めた豪族の天下も長くは続かなかったって話でね。権力や財力を持っても思いあがって勝手気ままに振る舞い続けるものは必ず失脚する、権勢を誇る時こそ慎めって戒めに使われたんだよ。ただ春の夜の夢のごとし、ってね。」
「あらあ、なんとも風情があります事。」
「おい!ほら!川だぞトモちゃん!大きな川だな!カウザミ川だろ?な、アルス!。」
「はい、そうですね。カウザミ川を渡ればビエイナの街は直ぐですよ。」
「ビエイナかー、ビエイナと言えばさー。」
そんな感じで色々と話をしながら、俺たちは馬車でゴゼファード領主都を目指すのだった。




