信じる事さって素敵やん
「はい?」
唐突な話の展開に素っ頓狂な声を出してしまう俺。
「君の力を借りる事もあるだろうと、私が言ったのは覚えているかな?」
「え、ええ。覚えていますが」
「まさに今がその時だと思ってくれたまえ」
「え?あ、はい」
ううむ、混乱して来たぞ?ステッケンにお願いされて俺はパワフルマンとの仲介役を買って出た。
そうして合わせる事ができたら今度はパワフルマンが俺にお願いって、どういう状況なんだこれは?
これじゃあネズミの嫁入りじゃないか。
って俺がネズミか。
「えええ?ちょっと待って下さいよ。そんな事でしたら、わざわざあなたの元に話を持ってくる事もしなかったです。これじゃあ、あなたのお耳ををただ煩わせただけになってしまいます!それでは立つ瀬がありません。どうか、お力を」
ステッケンが恐縮して頭を下げる。
「はっはっはっは!そんな事を気にする私じゃないさ!それにね、これは彼に適任な仕事だと思う。そう、仕事さ!つまり報酬が出るという事!これはクルース君にとっても無駄にならない話しなのさ」
「どういう事です?」
俺はアッパーな調子で歌うように言うパワフルマンに尋ねた。
「つまり、だ。君はここに来て急速に名を売った。それはそれで凄い事だがね、伸びすぎた麦は最初に刈られると言うだろ?」
パワフルマンが俺を見る。
「つまり、目を付けられていると?」
「有能な者は敵も多くなるものだ。今回の件を上手く片付ける事ができれば、多くのものに認められるだろう」
つまり、敵が減るって事か。
確かに難癖付けられる事が減ってくれるのはありがたい。
その度にタバコ配るのも面倒だしな。
「おっしゃっている事は良くわかりました。確かにそれは自分にとって大きなメリットがあります。ですが、はたして私にそれができるのでしょうか?」
俺はパワフルマンの顔を見た。
彼は俺に適任だと言った。
その真意を伺いたい。
「勿論だよ!君ほどこの件に適した男はいないと言ってもいい!ステッケン君、君が彼に目を付けたのはまったく正しい事だと言える!君の目を信じたまえ!」
パワフルマンに言われ微妙な顔をするステッケン。
多分、俺もステッケンと同じような顔をしている事だろう。
「なんだねその顔は?もっと自信を持ちたまえ!クルース君はね、それこそ凄腕の冒険者だ。そう、本当に凄腕のね。彼の有能さはね、私にはない力を持っている事だよ。その力とは何かわかるかね?」
「え?それは………なんでしょう?」
パワフルマンと俺を見比べたステッケンは何とも言えない顔をしてそう言った。
俺も聞きたいよ。
「つまりはね、これだよ」
そう言ってパワフルマンは巨大な上腕二頭筋を見せつけた。
「はい?」
素っ頓狂な声を出すステッケン。
ま、そうなるわな。
「ふっふっふ、行けばわかるさ。さあ、ふたり共!鳥のように飛んで行け!さあ!自由を勝ち取るのだ!」
立ち上がって手を広げ言うパワフルマン。
まるで指揮者か演劇の俳優のようだ。
ステッケンが捨てられた子犬のような目で俺を見る。
「そんな目で見るなよ、俺だって戸惑ってんだ」
俺は小声で答えるのだった。
そうしてパワフルマンにお暇願い退出した俺とステッケン。
お昼休みはもうすぐ終了という事でいったん別れた俺たちは、作業終了後の自由時間に落ち合う約束をしたのだった。
「おい、おいおい。面倒ごとに巻き込まれたって?」
作業部屋に入った俺に真っ先に声をかけて来たマードック。
まったく、楽しそうな顔しやがって。
「ああ、まったく参ったよ…」
俺は事情を話して聞かせる。
「…まったく、意味が解らないよ」
俺は肩をすくめる。
「なるほどな、さすがパワフルマンだ」
マードックはわかったような顔をしてうんうんと頷いた。
「何がさすがなんだよ?」
「あのお方はな、なにしろ人を見る目があるんだよ。ミスター慧眼と異名を持つほどだ」
「幾つ通り名があるんだよ」
俺はぼやく。
「だからパワフルマンに言われたって事は、お前さんの中に確かにそうした才能があるって事なんだよ」
「そんな事を言われてもなあ、まったく自信がないんだけど」
「だったらパワフルマンを信じろよ。あの人の言う事なら間違いはない」
確信に満ちた目で俺に言うマードック。
「そこまで言うならそうしてみるけど、失敗したら勘弁な」
「失敗なんてしないさ、なんせあのパワフルマンが見込んだんだ」
いったいなんでそこまであの人を神格化してるんだ?
確かになんて言うか、目の前に立つと包み込まれるような何かを感じるけども。
それがカリスマ性ってやつなのか?それとも単なる筋肉の圧なのか?
なんだかあの人の前にいると、筋肉がすべてを解決してしまうような気になってしまうよ。
とにかくだ、ステッケンのためにもやれるだけの事はやってみるか。
そう腹をくくり俺は作業に没頭するのだった。




