あら威張るライバルって素敵やん
「別にここはフルポアの敷地じゃあないだろ?どっちから挨拶に行ってもいいじゃないか」
マーは立ち上がり真正面から相手の女生徒を見据えて言った。
おいおい、強気だなお前。
「あなたがドギューズキャプテン、ティア・マーシャルさんで間違いないですね?」
「ああ、そうだけど」
「だったら私の事も知ってますね?」
「ワイルドフェニックスのキャプテン、ヘレナ・ハグマイスター」
マーは短く答えた。へえ、さすがキャプテン、よく勉強しとる。感心感心。
「こちらの闘技場をお借りできたのは我がハグマイスター家の力あっての事。そうした事はキャプテンだったら覚えておいた方が良くてよ?」
「だからなんだってんだよ?それは親の力であんた自身の手柄じゃないだろ?それに挨拶とはなにも関係ないだろ?」
「関係大ありですわ、貧しく力ない家柄の方は由緒正しい家に対して敬意を払うべきですわ」
ヘレナ・ハグマイスターは金髪縦ロールを揺らし胸を張る。
「関係ねーよ。親が力持ってりゃ偉いのか?親が金持ちならベリンボールが上手になるのか?親が偉けりゃ子も偉いってな大きな勘違いじゃ!一昨日きやがれってんでい!」
マーが勢いよく啖呵を切る。お前は江戸っ子か?つーかマーにしたってファルブリングに通ってるんだからいいとこのお嬢様なんだよな実際は。てかあれか、ジンジャーとメイの事を考えて啖呵切ったか。やるじゃねーかマー。
言いキャプテンになったな。
「まあ、なんて下品なんでしょう。ファルブリングも地に落ちたものですわ。ベリンボールは紳士淑女のスポーツです、あなた方のような品位にかけた方々にやる資格はありません!」
ビシッと指差して言うヘレナ。
「キャプテンのおっしゃる通りですわ」
「品位がかけてますわね」
「お里が知れるというものですわ」
ワイルドフェニックスのメンバーが口々に言いながら拍手をする。
なんだかベタなコントみたいで笑っちゃうけど、そういう概念の無いドギューズメンバーたちは違うようだ。
「ざっけなよ!そもそも品位ってなんだよ?え?言ってみろよ!」
マーが喰いつく。
「そんな事もわかりませんの?それは人に備わる気高さ上品さ品格の事ですわ」
「じゃー気高さってのはなんなのさ?」
間髪入れずにみっちょんが言う。
「それは気品や品格がある事ですわ」
「じゃ品格ってなに?」
シーボーズがジト目で聞く。
「それは、その人の中にある気高さで」
「それじゃ一周回っちゃってんじゃん。答えになってないしー的な?」
ベーヤンが毛先を弄りながらツッコんだ。
「ぷぷぷっ、結局、意味も分からず使ってたって事っすか。これはこれはお見事っす」
ソロが笑いを堪えながら言う。
「なんですのっ!ではあなた方にはおわかりになると言うのですか?だったら聞かせて頂きたいものですわ!」
ワイルドフェニックスキャプテン、ヘレナが顔を赤くして言う。
「聞きたいか?じゃあ聞かせてやるよ。うちのメンバーはな、親がどうこうだとか家柄がどうこうだとか、そんな事で人を判断する下品な奴はいないんだよ。うちらが意識してるのはな、審判や対戦相手、応援してくれるみんなへの敬意。フェアプレーと侮辱的行為を慎む自己抑制的態度、多くの人が注目してくれてるという自覚、日々の練習に対する真摯さなんだ。それがベリンボールプレーヤーの品格だとうちらは考えてる。あんた達はどうだ?え?あんた達の言動にベリンボールプレーヤーとしての品格はありますか?どうなんだい?」
マーが歯切れの良くそう言った。きゃー!おっとこまえーー!惚れてまうやんけー!
「ここに来る時、列車の中でケイトちんが言ってた事だけどね」
コラスが俺に耳打ちする。
「なんだよ、あやうく気風の良さに惚れちまうとこだったよ」
俺はズッコケながら言う。
「しかし、あれだけしっかり覚えているという事は、自分の血肉になったという事ですからね。褒めてあげても良いのではないですか?」
クランケルが涼しい顔で言う。ま、その通りだな。
「よっ!バッグゼッドいちっ!」
俺は声をかけてやった。
「いやぁーそれほどでも」
マーは頭に手を当ててまんざらでもない顔をしている。ヘレナは顔を赤くしてワナワナと震えている。
「何事です」
帰って来たケイトが場の雰囲気を見て尋常ではないと感じ取り声をかけた。
「あ、監督ぅ~、この人達がぁ~なんか~ちょっと怖くって~…」
ベーヤンがケイトに経緯を説明する。
「……なるほど、良くわかりました。確かにこちらからご挨拶に伺うべきでしたね、申し訳ありませんでした」
ケイトは背筋を伸ばしてキッチリと頭を下げた。部員たちがハッと息をのんだ。
「わかればよろしくてよ。今後は気を付ける事ですね、では失礼しますわ」
ケイトに頭を下げられたことで溜飲が下がったのか、ヘレナはそれ以上は何も言わず仲間を連れて去って行った。
「ケイトちん、なんで頭なんか下げたんだよ…ケイトちんが下げる事はないだろ…」
マーが悔しそうに言う。
「私達がここに来た目的はなんです?」
ケイトがマーに聞く。
「それは、試合をするためだけど」
「そうです、我々はベリンボールプレーヤーであり教師でも師でもないのです。彼女達にあるべき道を指し示すのは我々の仕事ではないですし、それをやろうなどおこがましい事でのです」
ケイトが言うと部員たちは居住まいを正した。
「我々はーーっ!」
「「「「「「「ドギューズっ!」」」」」」」
ケイトが気合を入れると部員一同声をそろえる。
「我々にできる事は!」
「「「「「「「試合に勝って観客を楽しませる事!」」」」」」」
「ドギュ~~~~~ッズ!」
「「「「「「「ファイッオーーッ!!!」」」」」」」
「「「「「おぉぉーーーー!!」」」」」
ケイトと部員たちの掛け声に、居合わせた人達が拍手をする。
居合わせた人の中には文化祭準備スタッフであるファルブリングの生徒もいるが、拍手をしてくれているのはファルブリングの生徒だけではなくフルポアの生徒も見受けられた。フルポアの生徒でも今までのやり取りを見た上で拍手をするに値すると感じてくれたという事だろう。
ありがたいですね~。
「ケイトっちって人の上に立つ器だよね」
コラスが言う。
「ケイトさんには人間力で敵わないと思わされますよ」
クランケルが言う。
「さすがはモスマン族近衛兵団団長の娘さんですなあ。ライバル多しですぞ」
フーカさんが俺の肩をポンポンと叩いておじさんみたいな口調で言う。
「なんのライバルやっちゅーの。つーか、知らん間にベリンボールチームとして成長してたんやねえ。おじさんは嬉しいよ」
俺はしみじみとして言う。
「ジミーはおっさん臭い」
「加齢臭きついよね~」
シーボーズが言いみっちょんが同意する。
「くぅぅぅぅぅきっつぅぅぅぅぅぅぅ」
俺は頭をかかえる。
居合わせた人達が笑い出す。
場の空気が一気に柔らかくなる。
まあ、初日から色々あったが明日はベリンボールの親善試合だ、明るく楽しい雰囲気で臨ませてあげたいものだ。




