第八撃
サンダークラップという名でデビューしたサラをクラスメイトたちは応援し、なかには熱心にも会場まで足を運んでくれたものもいた。
これまで数試合を闘ったが、勝ったりも負けたりもしている。
負けのほうが今のところ多いのはまだ実戦に慣れていないからであり、これからはもっと勝てるようになるはずだと自分に言いきかせていた。
たとえば、先だっての試合で勝ちを逃したのは、まだ試合の雰囲気に呑まれるところがあってのことで、だから肝心なところで蹴りをもらってしまったのである。それとて経験を積みさえすれば乗り越えられることでしかない。そういうことも含めて実力なのだと思いはするものの、敢えてそう考えないようにしていた。
それは、悪いことだろうか。
確かに自分の弱点に向き合って克服しないと、相手に見抜かれればそこを突かれて敗北に導かれてしまうというのは理屈にかなっている。
しかし、弱点の種類にもよる。
精神的なものについては敢えて無視することで乗り越えられることもあるのではないだろうか。
トレーナーたちも厳しいことは言ってくれるものの、そこまでメンタルの弱みについて触れてくるものはない。いずれ乗り越えうるものだと信じているからだろう。それに、下手に意識してしまえばかえってうまくいかないものでもある。
こればかりは慣れでしかない。
だから、いずれ勝ちばかりを重ねるようになることは疑いようのないことだと信じていた。
ジョーの発言についてはもはやほとんど思い出すこともなくなっていった。まったく心に浮かばないわけでもないが、腹は立ちもするものの、大して気にならなくなっていたのである。
そうして迎えたある試合で、大きな悲鳴を上げてしまい、後から聞いたところによるとそれを見ていたクラスメイトたちも同時に悲鳴を上げていたらしい。
恐怖を、覚えていた。
(なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……!)
試合に向けての緊張で身体が思ったように動かないなど織り込み済みで闘わなければならない、そうはわかっているものの、わかっているからとすぐになんとかなるものではない。
相手の戦歴は自分とそう変わらないはずだった。
そのはずなのに圧倒的な実力差を見せつけてくる姿に、情けない声を上げてしまいもしてしまう。
(差が、ありすぎる……!)
そう思った次の瞬間、意識は途切れた。
その数日後に首と右腕にギプスをはめてサラは登校した。
生まれてこのかたこんなに落ち込んだことなどあっただろうか。
ほんとうは学校になど来たくはなかった。
「たまには負けることだってあるよ。
負けたの、初めてじゃないんだし……」
クラスメイトからそんな慰めの言葉をかけられた。
だから来たくなかったのである。
素人目にもわかる、今回の負けは今までのものとまるで性質が違っている。
気がつけば涙を流していた。これからホームルームが始まるというのに。
なぜ自分は泣いているのだろう。
負けて悔しいのか、慰められて悔しいのか。
いっそのこと、とさえ考えてしまう。
(いっそのこと、なにをするっていうんだ?)
自分でもわからない。わからないことばかりである。
さまざまな感情がぐちゃぐちゃにかき混ぜられて喉の奥に流し込まれているような気さえする。
周りにいるクラスメイトたちも、そこにいるだけでそれ以降ことばをかけあぐねている様子である。
そこへジョーがやってきて、
「〈ZGA〉なんていう野蛮な競技に手を染めるからそんな目に遭うんだ、ゴリラ女」
無表情に言った。
「言うか、そんなこと、普通!」
サラは涙を流したまま立ち上がった。
「言うね。
そんなことやってりゃいつかそうなるのは当たり前だろ」
「こっちはこれくらいのことは覚悟してやってるんだ、よく知りもしないくせに口をはさむな馬鹿野郎!」
言い返すと、
「ひどくないあんた」
「いくらなんでもそりゃないんじゃないの」
「冷血なの」
まわりにいたクラスメイトたちが参戦してくれる。
「覚悟してやってるならなおさらのことだろ、ゴリラ女」
言われ、サラは、
「あああああっ」
叫び、クラスから抜け出し、走りながら学校を出た。
学校をサボることになってしまった。




