第七十撃
作戦は失敗した。
幼児のように駄々をこねて学校へ行きたくないと訴えたのだが、両親はその態度自体に問題を感じた様子を見せず、食事を早く済ませて学校へ向かうように淡々と言ったのである。
そういう態度で来られると自分の態度がどうしようもなく恥ずかしくなり、学校へむかわざるをえなくなってしまった。
(サボれば良いじゃんかよ)
そうは思うものの、実行できない。
そういう実行できない思い切りの悪さに苛立ちを覚える。
それが態度に出たのか、通学路でクラスメイトに会ったが微妙に避けるような感じがあった。
(中途半端な自分……。
ンなわけあるか。
やってやるさ)
とは思いつつも、できない。
学校にたどり着き、自教室の席にカバンを叩きつける。とうとうここまで来てしまった。
「おー。
今日も荒れてるね」
クラスメイトが何人か寄ってきて囲んでくる。
クラスメイトとは言ったが、友達ではない。そう呼べる人間はこのクラスにはいない。
囲んだ者たちはアマンダの学校嫌いを知っている。学校でそのような態度をとることを恐れなかったアマンダだったから、自然とその考えは伝わっていた。
「親とケンカした」
「へー。
なんでさ」
「学校の勉強なんかに意味ないってのに、親のやつら、あるってんだよ。
ムカつかない?」
言ってから、少し話の内容が薄いことに気づきはしたものの、言葉を付け加えるタイミングの感じでもなかったのでそのままにした。
「そうなの。
で、どうするの?」
「どうするって……」
それはまだ決めていない。まごまごするのも格好悪いと考えて何か口に出そうとするが、ふさわしい言葉は出てこようとしない。
そうしたときに担任の教師が教室に入ってきた。ごまかすことができて内心ほっとしてしまう。クラスメイトたちはさっと自分たちの席に引き返していった。
しかしながら、
「さっきカバンを叩きつけていたな」
教師は見ていたらしく、態度をとがめるような口調である。
「そういう態度は良くない。
ここは勉強をする場なんだ」
「っせえな……」
「何?」
「なんでもありませーん」
「ちゃんと授業を受ける気があるのか?」
「ないでーす。
わたしの人生に勉強なんて役立つ瞬間があるとは思えませーん」
「時間がないので、あとで職員室に来るように。
そこでじっくり話を聴いてあげます」
あからさまに苛立ちを抑えた様子で教師がタブレットを教室の正面にある大きなディスプレイに接続した。
それを見届けてから、アマンダは机に突っ伏して居眠りを始めた。
「今度は先生に何を言ってやるの?」
休み時間になってクラスメイトたちが興味本位で訊いてきた。
期待に満ちた目だが、どこか馬鹿にしたようないやらしい光をたたえている。
気づきはしたが、それについて敢えて何も言わないでおいてやる。
それについても、
(今に見ていろ)
ということだった。自分をたたえる言葉を発せずにはいられないようにいずれはしてやる。具体的にどうするのかはまったく思いつかないが。
(わたしからっぽなんかじゃない。
やるべきことと、やらなければならないこと、なるべき将来が待ち受けているんだ。
いまのところ、それが何なのかわかっていないだけで……!)
机を蹴った。
金具で据え付けられているそれは倒れることはなく、ただアマンダの足にダメージを与えたのみで終わった。
クラスメイトたちのわざとらしい悲鳴は聞かなかったことにしておく。
「最近ますます態度が悪くなっているな」
職員室に我ながら律儀だと思いながらも行ってやった。
「そういう態度は周囲のクラスメイトたちを恐怖させることになる」
アマンダの周囲に集まっている者もいるが、おびえて無視している者もいることもアマンダは知っていた。そのことを教師は言っているのだろう。
「アマンダ。
君には将来について立派な考えがあるようだ。
ぜひ聴かせてもらいたいな」
教師は自説を述べる絶好の機会を用意してくれた。わずかながら皮肉交じりの表現ではあったものの、それは無視することにする。
「そりゃあ、ありますよ。
聴かせてあげますよ、立派な考えってやつを」
「どうぞ?」
「まず、わたしの人生に役立つ教科が今の学校にあるかって話。ないでしょう?」
「そうかもしれないね。それで?」
「わたしだって時間を有意義に使いたいんです。
それこそ、自分の将来に役立つような。
だったら、こんなところで無駄な授業を聞いている時間はないんです」
「なるほど。それで?」
「それで……、って」
カチンときた。アマンダとしてはそれなりに真剣に話しているつもりである。挑戦的な口調になるのは仕方ないにしても、本心で話をしているつもりだった。
「結局は」
教師は両方の手のひらを合わせるしぐさをして見せ、
「単に勉強をしたくない理屈をつけているだけってことだろう」
「な……!」
「人生の目標が何なのか決まっていないうちから勉強は自分の役に立たないと決めつけ、無駄な時間だと切って捨てる。
それは、ただただ勉強が面倒だということだ」
「ざっけんな!」
手のひらを教師の机の上にたたきつけた。
「わたしは真剣に……」
話しているつもり、そう言おうとして、教師の目からそのような話は通じそうにないことを悟り、
「まあ、良いさ。良いですよ」
作り笑いを浮かべて見せる。
「今に見ているが良いですよ。
いずれセンセはわたしの靴をなめることになりますよ。
良いんですね、そんな態度で」
「良いよ」
「なら、わたしは学校の勉強なんかしなくったって、それなりの人物になって見せる。
見てろよ、便所に行った靴をなめることになるんだからな。
後から悔やんでも、わたしは知らない……!」




