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無重力格闘少女伝説オメガスクリームⅡ世  作者: 川場託
VS.クラーケン
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第六十五撃

「飲みなさい」


 そう言った父から飲み物を出されたが、手を付けるタイミングを計りかねてしばらく放ったままになっている。


 エマと喧嘩をした。


 いや、あれは喧嘩と呼べるものではなかった。


 一方的にエマをなじり、そのうえしばらくのあいだジムに顔を出さなかった。


 出なかった当初の数日は怒りに任せてのものだったが、それ以降はなんとなく顔を出しづらくなったからである。


 エマは一切いいわけらしいいいわけをしなかった。謝罪すら口にした。それに対して思い出したくもないほどきつい言葉で攻撃をしてしまった。


 思い出したくもないほどのきつい言葉とは、しょせんエマはキムに劣るのだろう、というようなことである。


 興奮しているうちはまだ良かったが、それもさめてくると今度は罪悪感に襲われてしまい、エマの顔を見るのが怖くなった。思考を埋め尽くすほどの後悔にまみれ、逃げ出したことへのさらなる罪悪感に追われている。


 いまベスは実家に戻って、両親を前にテーブルを挟んで向かい合っていた。


 向かい合っているといってもこちらは視線をテーブルの手前側の端に落としたままで両親からの視線に耐えている。


 両親からの視線はどういうものなのか見たくもない。


 とつぜん顔を見せた娘の姿に戸惑っているのだろうか。顔を見せた瞬間は驚いて家の中に招じ入れてくれたが、そこには久しぶりに会えた喜びといった感情はなかったようである。「ただいま」とぶっきらぼうに言うしかなかったこちらを言葉少なに迎え入れた両親の心中はわからない。


 おそらく最初の勤め先をすぐに辞めたことは知られているのだろう。


 それから一切の連絡を絶ったことをどのように感じているのか。ひょっとしたら逃げる場所を間違えたかもしれないとまたもや悔やむ気持ちがある。


 何かを言おうとしてくちびるが震えた。


 何を言おうとしたのか自分でも思い出せないが、こちらの雰囲気を察して両親は身構えたようだったが、いつまでたっても言葉を発しないこちらに小さな息を吐くのが聞こえてきた。


 ややあって、母が咳ばらいをした。


 それをきっかけに顔を上げ、


「あのさ……」


 と口を開いた。


 そこへ、


「お前が〈ZGA〉の選手をやっていたことは知っている」


 父が低めの声で言った。記憶にあるよりも低い声だった。それは年の経過によるものなのか、この場がそうした声にさせるのか。


 ハッとして顔を上げた。メジャーなスポーツであるとはいえ、両親は〈ZGA〉の試合を見ているところなどほとんど記憶になかった。そうであるならばどうして知られたのだろう。


 ニュースのスポーツコーナーだろうか。しかしベスは大きく取り上げられるほどの選手ではないはずである。


「どうして」


 問うと、


「子供の頃からなりたいって言っていただろう。

 だから、調べた」


 母も、


「この前の試合もみたよ」


 言われ、どうしてここに帰って来てしまったのだろうと悔やんだ。両親はベスが帰ってきた理由をどう想像しているのだろう。おそらく試合に負けて悔しくて逃げてきたと思っているのではないだろうか。


(その通りなんだけど……)


 認めはする。が、さらなる悔しさに胸が苦しくなる。


 そのあと続く言葉は「どうせ逃げ帰って来たのだろう。おとなしく再就職しろ」というようなことだろう。


 逃げたのだからそれは正しい意見である。それはわかるのだが、認めたくない。


「……やめるの?」


 母がこわごわと訊いてきた。


「やめない」


 反射的にこたえ、そして気づいた。


 自分は〈ZGA〉をやめたくない。これからも続けたい。


「やっぱりな」


 父がうなずいた。かといってため息まじりの雰囲気でもない。そう言うと確信していたかのような声である。


「『やっぱり』って、なんで」


「やめたいのであればベスは勝手にやめていただろ。

 そうしなかったということは、やめたくはないが何か引っかかることがあってのことだということだ」


 ベスは黙り込んだ。


 それにともなってというわけでもないのだろうが、両親も言葉を発しない。


 しばらくしてからベスは口を開き、


「実はさ……」


 エマに酷いことを言ってしまい顔を合わせづらいことを打ち明けた。


 その話をしながら、自分の気持ちを固めるために言葉を発する相手を欲して両親のもとを訪れたのだと気づいた。


 それはとりもなおさずエマに謝罪し〈ZGA〉を続けていきたいということである。


(そうだ。

 わたしは、〈ZGA〉を続けたい。

 だから、何を言われても続けるんだ……!)


 決意を固めた。


 結局のところ両親からはやめるようすすめられることはなかった。


 むしろ、


「納得がいくまでやりなさい」


 とまで言われた。


 覚悟の決まり切らないところが自分の弱点だった。

〈ZGA〉のことを隠していた両親に対して引け目を感じることがなくなった以上、ふたたびオメガスクリームⅡ世と闘うことになったとして、今度は負けることはないだろう。


「ありがとう」


 話し終え、ベスは両親に礼を述べた。




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