第四十四撃
「この、わたしが、ローズ・チャンピオンになれるかもしれないなんて……!」
だらだらと流れ続ける汗をぬぐい、ジムのロッカールームでにやにやしてしまう。
ローズ・コロニーに来てから四年ほどたった。
順調でないにせよベスは少しずつランキングを上げ、ついにはローズ・チャンピオンへの挑戦権を得るまでになったのである。
「そうだ」
背後からエマが声をかけてきた。
「気を抜きさえしなければその地位は君のものになるだろうな」
やけに断定的な口調だが、それは励ましてくれてのものだろう。
「はい!」
振り向きつつ元気よく返事してしまう。少しばかりうるさかったかと思ったが、エマは特に気にしたようすはない。
「けど」
エマは不思議そうな顔をして、
「そこまでなっておきながら、どうして君のご両親にほんとうのことを話していないんだ?
まあ、人の家庭の事情に口をはさむべきではないかもしれないが」
それはずっと迷い続け、きっかけが掴めないでいたことだった。
少なからずうろたえてしまった。ランキングが上がるたびにそろそろ実家にもほんとうのことを話しても良いだろうと思い、しかしながらすぐに、いやまだ早い、と思い直すのを繰り返してきていたのである。
「ローズ・チャンピオンになってから言います」
つい、そう口にしてしまった。うろたえ過ぎてうっかりといった感じで言ってしまったのである。
後悔したが、エマのこちらに目を見開いて視線を向けるのを受け、むしろそう宣言してしまったことは良いことかもしれないと思い直した。
ローズ・チャンピオンへ向けて挑戦する良い動機づけになるだろう。
いつまでもどこか後ろめたい気持ちを抱えつつやるのでは遠からず限界を迎えてしまう。そうではなく、胸を張ってやっていきたいと思っている。挑戦権がある今がそのチャンスだった。
「大きく出たな」
エマが拳で軽くこちらの肩を叩いてきた。
「でも、それくらいの気持ちがないといけない。
今だから言うが、君に才能があるなんて、はじめて会ったときにはまるで感じなかった。
ローズ・チャンピオンを視野に入れるまでに来るなんて、想像の範囲からまるで外れていたんだ。
もちろん、育てるからにはサミュエラ・チャンピオンになれるくらいに強くしてやろう、という気持ちでやっている。
けどな、それと同時に一つ一つの闘いを丁寧にやって、高望みはしないようにも気をつけている。
正直なところ、君に関しては後者の気持ちが強かったんだよ。
それが……、な」
エマは鼻をすする音を鳴らした。
なぜか、ベスの心臓が高鳴った。




