第二十八撃
「引退しないって言うなら……!」
ジョーが張り上げた声がこぎれいな部屋中に響いた。
二人きりの時間を過ごそうとジョーの家におもむくと、前の話を蒸し返されてしまったのである。少しくらい待つこともできないほどに結婚の気持ちがたかぶっているのだろうが、冷静になって欲しいところでもある。
すぐに引退など決断できるものではなかったのでそう伝えるや、ジョーは苛立ちをあらわにした。
「つまり、結婚したくないってことなのかよ」
「そうは言ってないでしょうが」
負けないように声を張り上げる。
「迷っていることさえ認めてくれないの?」
「勇気も忍耐力もあるサラなら、いまより安全な職場で充分にやっていけるって言ってるだろ。
何を好き好んで〈ZGA〉を続けるんだ?
いまはもう俺だって野蛮な競技とは思っていない。
けど、危ないスポーツだってことは考えを変えていない」
「〈ZGA〉をしているわたしが好きなんじゃなかったの?」
「それとこれとは話が別だろう!」
「別じゃない!
〈ZGA〉をしていないわたしなんて、ほんとうにジョーが好きなわたしかどうかよく考えてみてよ!
だいたい、何様のつもりなの?
結婚してやるから条件を飲めだなんて、よくそんなことが言えたもんだわね!」
「そういう言いかたしてないだろ!
どうしてそんなに〈ZGA〉を続けたいんだよ!
おかしいだろ、危ないんだぞこの競技は」
「わたしは」
踏み出してくるジョーにややひるみそうになりながらも、
「自分が納得できるところまでやれていたか自信がないんだ。
わたしはやりきった、そういう自信がつくまでやり遂げたい」
「ほんとうの意味での自信なんてつく日なんか永遠に来るはずないだろっ。
道を極めようとするのは果てしない坂道を上り続けるようなもんだ。
そのなかで自信がついたかどうかなんて、ありもしない頂上を夢見るようなもんじゃないか。
みんな果てしなさと折り合いをつけながら、まがいものの自信でやりくりしているんだ」
「それはそうだけど……」
「だろ?
なら……」
「それでも、わたしはやってみたい」
「いつか、死ぬぞ? そんなこと続けてたら……」
「次の試合!」
拳をジョーに突きつけた。
「次の試合?」
繰り返すジョーにうなずき、
「お願い、少なくとも次の試合だけはやらせて!
そこでの結果で、今後のことを考えたい……!」
「わ、わかったよ……。
次の次は」
「それはわからない。
けど、それくらいは受け入れてよ」
「ああ……」
渋々といったようすでジョーはうなずいた。
このような気分で二人きりで過ごせるはずもなく、サラは帰ることにした。
ジョーは自分を心配している。それはわかるのである。
それでも、受け入れられないことはある。




